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「晩年」と「女生徒」 - 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • 太宰治/津軽/晩年/2冊セット/装画 司修
  • ★太宰治「斜陽」「人間失格」「晩年」「ヴィヨンの妻」「桜桃」
  • ■太宰治処女作集『晩年』昭和12年オリジナル版、函元パラ付■
  • ☆父 晩年の森鴎外 小堀杏奴 昭和32 (文豪・エッセイ)
  • 『酔心』 金重道明 伊部蹲掛花入 最晩年秀作!!
  • 【源・代】(065)名工・二代杉江寿門堂東蒼作 蟹摘み急須/晩年作
  • z3/図録/板谷波山/近代陶芸の先駆者/初期から晩年にいたる代表作
  • ★晩年の秋山好古と周辺のひとびと★ 秋より高き 片上雅仁著
  • 美品!「晩年 (新潮文庫)」 太宰 治
  • ★★★  草舟仙人 晩年の作品 四季の水墨画 襖絵  ★★★
晩年」も品切になったようだし「女生徒」も同様、売り切れたようである。「晩年」は初版五百部くらいで、それからまた千部くらい刷った筈(はず)である。「女生徒」は初版二千で、それが二箇年経って、やっと売切れて、ことしの初夏には更に千部、増刷される事になった。「晩年」は、昭和十一年の六月に出たのであるから、それから五箇年間に、千五百冊売れたわけである。一年に、三百冊ずつ売れた事になるようだが、すると、まず一日に一冊ずつ売れたといってもいいわけになる。五箇年間に千五百部といえば、一箇月間に十万部も売れる評判小説にくらべて、いかにも見すぼらしく貧寒の感じがするけれど、一日に一冊ずつ売れたというと、まんざらでもない。「晩年」は、こんど砂子屋書房で四六判に改版して出すそうだが、早く出してもらいたいと思っている。売切れのままで、二年三年経過すると、一日に一冊ずつ売れたという私の自慢も崩壊する事になる。たとえば、売切れのままで、もう十年経過すると、「晩年」は、昭和十一年から十五箇年のあいだに、たった千五百部しか売れなかったという事になる。すると、一箇年に百冊ずつ売れたという事になって、私の本は、三日に一冊か四日に一冊しか売れなかったというわけになる。多く売れるという事は、必ずしも最高の名誉でもないが、しかし、なんにも売れないよりは、少しでも売れたほうが張り合いがあってよいと思う。けれども、文学書は、一万部以上売れると、あぶない気がする。作家にとって、危険である。先輩山岸外史氏の説に依(よ)ると、貨幣のどっさりはいっている財布を、懐(ふところ)にいれて歩いていると、胃腸が冷えて病気になるそうである。それは銅銭ばかりいれて歩くからではないかと反問したら、いや紙幣でも同じ事だ、あの紙は、たいへん冷く、あれを懐にいれて歩くと必ず胃腸をこわすから、用心し給え、とまじめに忠告してくれた。富をむさぼらぬように気をつけなければならぬ。



底本:「太宰治全集10」ちくま文庫筑摩書房
   1989(平成元)年6月27日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集筑摩書房
   1975(昭和50)年6月から1976(昭和51)年6月
入力:杜十朗
校正:土屋隆
2003年9月4日作成
青空文庫作成ファイル
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