うむどん 関連リンク

佐藤 垢石 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

うむどん - 佐藤 垢石 ( さとう こうせき )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
次のページ
 物が高くなって、くらしに骨が折れてきたのは私の家ばかりではあるまい。どこでも、同じであると思う。殊に、私の家庭のように田舎から出てきたものには、それが一倍身にこたえるのである。
 家内も、子供野菜好きだ。山国にいたころの家族は、お正月とか物日とかでなければ塩ものの魚さえも味わうことができないのであった。だから大量の野菜がなければ一日も過ごされない習慣を持っている。野菜がなによりも好物であるのは致し方がないであろう。
 ところが、このごろでは、葱が十銭に六、七本、大根一本二十五銭、小松菜が束十三銭、八ツ頭が一箇十銭とあっては、やりきれない。家内が、お勝手悲鳴をあげているのである。故郷にいたときは、屋敷の前の畑から、芋でも菜っ葉でも食べたいだけ取ってきたのに、このごろでは野菜を食うことは、おかねそのものを食うようなものだ、と嘆くのだ。こんな訳で、野菜を食う量も自然に少なくなってくる。哀れであるが、いたし方ない。
 それからまた、都会へ住むようになると生魚や肉類の味を覚えるのも無理はないのである。その上に米、味噌醤油砂糖など手に入れることさえ、一年前とはようすが変わってきている。銭を持って行ったところで、おいそれとは売ってくれないのだ。炭のことでは、家族手分けして知人や親戚を頼み歩いた。
 このほど、家内一同で、なにごとも時世のためだ、できるだけ物の節約をしようね、などと話していると、そこへ町会世話人が大きなビラを配ってきた。それを読んで行くと、米を節約するために、代用食として饂飩(うどん)と麺包(ぱん)とが大いに奨励してある。これをみて、二人の子供ははしゃぎ立って喜んだ。
お母さん、僕うむどん大好き』
 大きな子供は、こういって相好を崩した。この子供母乳が少なかったので幼いときから饂飩(うどん)を食べならされていた。だから、いまでも饂飩大好物なのである。田舎にいる時分は、ただうどんといっていたが、東京へきてから何処(どこ)で聞き覚えてきたのか、うむどんと言うようになっている。
『わたし、パン』
 と、妹の方がつづいていった。この子は、どういうわけか小さいときから麺包(ぱん)が好きだ
 そのことがあってから兄の方は、夕方学校から帰ってくると、うどんかけを二杯ずつ毎日食った。そして、まだ物足らぬような顔している。この子は、もう中等学生であるから、学校から腹をペコペコにして帰ってきて、うどんかけ二杯くらいでは、充分というわけには行かぬのは自分たちにも覚えがある。
 妹の方は、朝も麺包、お弁当も麺包にしたいというのだ。朝の麺包のときは紅茶角砂糖をいれてください。お弁当には、三盆砂糖だけでいいわ、などという。
 そこで驚いたのは家内である。饂飩も麺包も一週間一度、せめて二度位であったなら、なんとか家計の繰りまわしもやれますが毎日では堪りません。麺包が一斤二十五銭、うどんかけが二杯で二十銭。それに砂糖紅茶、バターなどと贅沢をいえば一日に六、七十銭はかかるでしょう。
 その上に、御飯食べるのですよ。つまり、麺包とうどんはおまけみたいに、なってしまいます。これでは、とてもお勝手の方がやりきれないのですが、何とかあれをやめさせる工夫はございませんか。という始末で、家内には大事件となった。
 なるほど、そうだのう。
 そこで、私はうどんと麺包をやめさせる工夫を考えてみた。しかし、子供家計実体を知らすのも何だからと思って、お前たちよ、うどんも麺包も小麦粉からこしらえるのは知っているだろう。だが、いま日本にあり余るほどの小麦粉はないのだ。私が百姓している時分は、小麦は一石八、九円から十一、二円であったのが、今では二十三、四円もしている。
 これは、加奈陀(かなだ)と豪州から入ってくる小麦粉政府が高い関税をかけて防ぎとめたために、日本で耕した小麦相場が、今のように高くなったのだけれど、それと当時に産額も増してきた。それでも相場が下がらないというのは、こんどは日本小麦粉外国輸出するようになったからで、ここでお前たちが大口あいてうどんや麺包を食べると、やはり日本食料が減って虻蜂(あぶはち)とらずになるから、いままで通り七分|搗(づ)きばかり食べたらどうだい、といましめてみた。
 家計のことから説かないで、小麦大切なことを話したのは、あるいは顧みて他をいう類であったかも知れない。ところが、男の子の方が私にいうに、
『でも、区役所からきたビラには、うどんと麺包を食えといって、奨励しているじゃありませんか』
 と、妹がこれに和して、
『そうねえ。お父さんは随分認識不足だわ』
 と、いって相手にしない。
 お上(かみ)の達しには、個々の家計など眼中にないということが、子供たちには分からないのだ。


次のページ

佐藤 垢石 (さとう こうせき) 以外のオススメ作品

うむどん (うむどん) のリンク元

「うむどん-佐藤 垢石」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN