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たどんの与太さん - 竹久 夢二 ( たけひさ ゆめじ )

  • CD◆美輪明宏/日本の心を歌う◆絵・中原淳一竹久夢二歌謡曲
  • ★ ・・・・・ 竹久夢二画と、蓄音機、2000円分、80円×25 ★
  • 玉野競輪 竹久夢二 クオカ
  • 絶版★藤村の童話全4巻セット 挿絵:竹久夢二 筑摩書房 島崎
  • c 【即決】初版★竹久夢二『乙女詩集・恋』生誕125年記念出版
  • ■竹久夢二 夢桜■盛鉢×取分皿■6点セット■新品未使用■
  • ■即決【☆】竹久夢二 夢彩 小皿付丼揃 器を選ぶ贅沢◇日本製◇
  • ●即決!竹久夢二/細野正信:カラーブックス
  • ■竹久夢二■雑草■昭和16年初版・函■時代社
  • ★春・夢二童話集 竹久夢二★
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たどんの與太さん 「なんだってお寺坊さんは、ぼくに與太郎(よたろう)なんて名前をつけてくれたんだろう」  と、與太郎は考えました。 「飴(あめ)のなかから與太さんが出たよ」街の飴屋の爺(じい)さんが、そう節をつけて歌いながら大きなナイフで飴の棒を切ると、なかから、いくらでも與太郎の顔が出てくるのでありました。これには與太郎も困りました。
「よんべ、よこちょの、よたろうは」
 そういって、八百屋小僧まで、與太郎が、八百屋大根だの芋だのを買いにゆくと、からかいました。
「あの坊さんは、あれでエライお方なんだよ。あんなエライお方が、名づけ親なんだから、お前は、きっと今にエラクなりますよ」
 與太郎お母さんは、いつもそういいました。加藤清正(かとうきよまさ)は加藤清正らしい顔をしているし、ナポレオンナポレオンらしい顔をしているから、與太郎(よたろう)の顔も與太郎らしいだろうか、與太郎は考えるのでした。だけど、飴(あめ)のなかから出てくる顔は、どうもよくないや。だけど飴のなかから大そうエライ人が生まれるのかも知れない。キリスト様は、馬小屋のなかからお生れなすったし、ナスカヤ姫は、紅茸(べにだけ)から出て来たからな。與太郎は考えるのでした。
「マリヤとグレコは、山へ茸狩にゆきました」
 與太郎は妹のお才(さい)に、デンマルクのお伽噺(とぎばなし)をよんできかせました。
「マリヤとグレコは、だんだん山の奥の方へはいってゆきました。するとそれはそれは綺麗(きれい)な紅茸がどっさり生えていました。――綺麗だなあ。グレコが言いました。――いけませんよ、それは毒茸ですから。マリヤが言いました。――だって綺麗だから好(い)いよ。――いくら綺麗でも毒なものはいけません。これはとると死んでしまいますよ。マリヤが何と言っても、グレコは紅茸をとりました。
 ――わたしはデンマルクの第二王女です。わたしは姉の女王のために、この山奥へ流されたのです。可愛(かあ)いい親切な坊っちゃん、あたしの王様になって下さいね。紅茸の王女は、そう言ってグレコの手をとって、森の御殿へつれてゆきました。
 與太郎は、あの話を思出(おもいだ)しました。どんな物をでも可愛がってやろう、そしてどんな物とでも話をして、仲よくしようとそう考えました。
 街を歩いても、電車のなかでも、もっとみんな仲よく話そうと考えました。そこで妹のお才と二人で街へ出かけてゆきました。
 まず酒屋のブル犬に話(はなし)かけました。
「ブルさん今日(こんにち)は、好(い)いお天気ですね」
 與太郎がそう言うと、ブル犬は驚いて
「ウーウー」と吠(ほ)えましたから、お才がなき出しました。
 與太郎はお才をつれて電車|通(どおり)の方へゆきますと、向うから、黒い毛皮のコートを着た奥さんがくるのを見つけました。與太郎奥さんお辞儀を一つして、
「おくさん、たいそう寒い風がふきますわね。おくさんはたいそう重そうな包を持っておいでですね。ぼくが、すこし持ってあげましょうか」
 そういうと、奥さん白い顔のなかで、黒い眼(め)を三角にしていいました。
「まあ、いやな子だよ。知らない人に物をいうなんて、きっと乞食(こじき)の子だね、お前さんは」
 そういって、ずんずんいってしまいました。
 こんどは、鼻の頭の赤い肥(ふと)った洋服旦那(だんな)が、坂の方から酔っぱらって下りて来ました。與太郎(よたろう)は旦那(だんな)の前へいって、
旦那は酔っていますね。」
 そういうと、今までにこにこしていた旦那は、急にきつい顔になって、
「やい孤児院! 酔ったって余計なお世話だい。お世辞をいったって一文だってやりゃしないぞ。ぐずぐずしていると、交番巡査にふんじばらせるぞ」
 酔っぱらいの旦那はむくむく歩いてゆきました。
 與太郎は、なんだか悲しくなりました。炭屋の子だからいけないのだろうか。與太郎という名が顔に出ているから人が馬鹿(ばか)にするのだろうか。與太郎は、菓子屋の飾窓のガラスに自分の顔をうつして見ました。自分の着ている服は、すこしばかり古くなっているだけで、街を歩くほかの子供たちと、別にかわった所はありませんでした。與太郎は、ふと飾窓のなかに赤い紅茸(べにだけ)のようなお菓子があるのに気がつきました。
「紅茸だ! 紅茸だ! あれをとろうよ」
 與太郎がそういっているのを、菓子屋の番頭が聞きつけて、與太郎の頭を一つなぐりつけました。


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