どぶろく幻想 - 豊島 与志雄 ( とよしま よしお )
四方八方から線路が寄り集まり、縦横に入り乱れ、そしてまた四方八方に分散している。糸をこんぐらかしたようだ。あちこちに、鉄の柱の上高く、または地面低く、赤や青の灯がともり、線路のレールを無気味に照らしている。ぱっと明るくなり、轟々と響く。それが右往左往する。電車や汽車が通るのだ。長く連結した、窓々の明るい、汽車、電車。姿も黒く、窓々も暗い、汽車、電車。通る、通る、通る。やたらに通る。網目のような架線。電気のスパーク。石炭の黒煙。白い蒸気。高い台地の裾に繰り広げられてる線路の輻輳。駅はどのあたりやら見当もつかない。どうしてこうめちゃくちゃに線路を寄せ集めたものか。
中ほどに高い土手があり、土手の上が道路だ。下方は幾ヶ所も刳り抜かれて、線路が通っている。土手は二つに分れて、その先が木造の陸橋。どこへ通じているのか、通る人もない。その土手上の道路にふらりと踏み込み、右に落ちても左に落ちても直ちに汽車か電車に轢かれることを思い、空を仰いで星々の光りの淡いのを眺め、肌寒い気持ちで後に引っ返した。その時から、方向を取り失ってしまった。
東西南北の方向、固より厳密なものではなく、だいたいの見当に過ぎないのだが、それが道行く時の指針となる。ただに人里遠い平野に於てばかりでなく、都会の街路においても、酔ってる時にはそうだ。多くの人は、たとい酔っても方向など頼りにせず、ほとんど意識しないらしいが、俺にとっては方向が最上の頼りである。通り馴れた街路でも、深夜、方向の指針を失うと、どちらへ行ってよいか分らないし、電車に乗っても、車の走る方向に錯覚を起すと、全く不安になってくる。より多く動物的なのであろうか。
あの線路の輻輳地帯から、引っ返して、歩いて行ったが、もうすっかり、方向の指針を失っていた。第一、ひどく酩酊していた。立ち止って深呼吸をやってみても、酔いを感ずるだけで、方向の感覚は蘇って来ない。
それでも、とにかく歩いて行った。ずいぶん歩いた。街路はぎらぎら明るくなったり、闇に沈んで暗くなったりし、俺は前に進んだり、後に戻ったりした。どうしても辿り着きたかったのだ。酔いの一徹心で、是非とも、周伍文のところへ行って、あのうまい濁酒を飲みたかった。もう十日間ばかり無沙汰していたのである。ずいぶん歩いた。
それらしい曲り角が漸く分った。だが、暫くして、またも方向が分らなくなった。その辺、空襲の焼跡で、荒れるがままに見捨てられ、名も知れぬ雑草が茫々と生えていた。高い煙筒や壊れかけたコンクリート塀などが残っていた。もうだいぶ夜更けなのだろう。通行人も見当らなかった。
雑草の中にわけ入り、腰を下して、煙草を吸い、方向を考え、そして……何をしていたやら。
淡い月がいつのまにか出ていた。
見覚えのある女の顔が、俺の方を覗きこんだ。見覚えはあるが、どこの誰だか分らなかった。淡緑のセーターを着て、青いズボンをはいている。
「野島さん……。
中ほどに高い土手があり、土手の上が道路だ。下方は幾ヶ所も刳り抜かれて、線路が通っている。土手は二つに分れて、その先が木造の陸橋。どこへ通じているのか、通る人もない。その土手上の道路にふらりと踏み込み、右に落ちても左に落ちても直ちに汽車か電車に轢かれることを思い、空を仰いで星々の光りの淡いのを眺め、肌寒い気持ちで後に引っ返した。その時から、方向を取り失ってしまった。
東西南北の方向、固より厳密なものではなく、だいたいの見当に過ぎないのだが、それが道行く時の指針となる。ただに人里遠い平野に於てばかりでなく、都会の街路においても、酔ってる時にはそうだ。多くの人は、たとい酔っても方向など頼りにせず、ほとんど意識しないらしいが、俺にとっては方向が最上の頼りである。通り馴れた街路でも、深夜、方向の指針を失うと、どちらへ行ってよいか分らないし、電車に乗っても、車の走る方向に錯覚を起すと、全く不安になってくる。より多く動物的なのであろうか。
あの線路の輻輳地帯から、引っ返して、歩いて行ったが、もうすっかり、方向の指針を失っていた。第一、ひどく酩酊していた。立ち止って深呼吸をやってみても、酔いを感ずるだけで、方向の感覚は蘇って来ない。
それでも、とにかく歩いて行った。ずいぶん歩いた。街路はぎらぎら明るくなったり、闇に沈んで暗くなったりし、俺は前に進んだり、後に戻ったりした。どうしても辿り着きたかったのだ。酔いの一徹心で、是非とも、周伍文のところへ行って、あのうまい濁酒を飲みたかった。もう十日間ばかり無沙汰していたのである。ずいぶん歩いた。
それらしい曲り角が漸く分った。だが、暫くして、またも方向が分らなくなった。その辺、空襲の焼跡で、荒れるがままに見捨てられ、名も知れぬ雑草が茫々と生えていた。高い煙筒や壊れかけたコンクリート塀などが残っていた。もうだいぶ夜更けなのだろう。通行人も見当らなかった。
雑草の中にわけ入り、腰を下して、煙草を吸い、方向を考え、そして……何をしていたやら。
淡い月がいつのまにか出ていた。
見覚えのある女の顔が、俺の方を覗きこんだ。見覚えはあるが、どこの誰だか分らなかった。淡緑のセーターを着て、青いズボンをはいている。
「野島さん……。
豊島 与志雄 (とよしま よしお) 以外のオススメ作品
どぶろく幻想 (どぶろくげんそう) のリンク元
「どぶろく幻想-豊島 与志雄」の関連ページ
-
豊島区 - bbtky @ ウィキ - bbtky @ ウィキ
池袋GIGO 5セット 内ビューリックス青2セット トイレが綺麗 -
2代目エブリィ前期型@豊島区 2009年5月 - 日本スクラップカー友の会「スクラップ・コレクション」wiki - 日本スクラップカー友の会「スクラップ・コレクション」wiki
2代目エブリィ前期型@豊島区 2009年5月//initLightbox();車名:エブリィ型式等:2代目 前期型 推定年式:1985-1989撮影日時:2009年5月14日撮影地:東京都豊島 -
タイム艦 - STGのできるゲーセン集@ ウィキ - STGのできるゲーセン集@ ウィキ
東京都 豊島区住所東京都豊島区駒込2-12-9最寄駅JR山手線駒込駅東口左折して徒歩3分料金 100円設置タイトルストライカーズ1945虫姫さま営業時間1100 - 2400駐車場なしTEL03 -
アドアーズ池袋東口 - STGのできるゲーセン集@ ウィキ - STGのできるゲーセン集@ ウィキ
東京都 豊島区住所東京都豊島区東池袋1-41-4 池袋とうきゅうビル1-2F最寄駅JR池袋駅東口より徒歩2分料金 100円/1クレジット設置タイトルSTGありません営業時間1000 - 2400駐車 -
ゲームサファリ池袋 - STGのできるゲーセン集@ ウィキ - STGのできるゲーセン集@ ウィキ
東京都 豊島区住所東京都豊島区東池袋1-43-3 やすだ東池袋ビル2F最寄駅JR、東武、西武、東京メトロ丸の内線(M25)、有楽町線(Y09)池袋駅東口、23番出口料金 50円設 -
コピカ、撃墜テロ報告/コメント/53 - 湾岸ミッドナイト MaximumTune 3 まとめWiki - 湾岸ミッドナイト MaximumTune 3 まとめWiki
東京都豊島区池袋サンシャイン通りSEGAでNCRIのコピカ発見。中学生でした。 -- (名無し) 2009-11-28 224237 -
愛媛県/ヴィラ風の音 - いつかは行ってみたい宿 - いつかは行ってみたい宿
前ページ 次ページ 愛媛県 愛媛県/ヴィラ風の音住所:〒794-2530 愛媛県越智郡上島町弓削豊島44電話:084-982-2211瀬戸内の小さな楽園”豊島”のプ -
ハイテクランドアカデミー - STGのできるゲーセン集@ ウィキ - STGのできるゲーセン集@ ウィキ
東京都 豊島区住所東京都豊島区北大塚2-7-11最寄駅JR大塚駅北口より徒歩2分料金 100円設置タイトルグラディウスIVぐわんげストライカーズ1945IIストライカーズ1999怒首 -
池袋プレイランドラスベガス - STGのできるゲーセン集@ ウィキ - STGのできるゲーセン集@ ウィキ
東京都 豊島区住所東京都豊島区西池袋1-22-4最寄駅JR、東武、西武、東京メトロ丸の内線(M25)、有楽町線(Y09)池袋駅西口料金 50円設置タイトルストライカーズ1945PLUS怒首 -
SPORT池袋 - STGのできるゲーセン集@ ウィキ - STGのできるゲーセン集@ ウィキ
東京都 豊島区住所東京都豊島区東池袋1-30-1最寄駅池袋駅東口 サンシャイン通りから少しはずれます料金 100円/1クレジット設置タイトルエスプガルーダIIオトメディウス(2)デス
