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わが五月 - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

  • ●飯窪五月写真集<五月の温もり>/斉木弘吉撮影/2001年
  • 五月人形 五月晴れ 真多呂人形・木目込み人形材料キット
  • 鹿角鍬形五月人形 源氏兜飾り 鎧武者/五月人形/端午の節句/甲冑
  • 船戸与一 『虹の谷の五月』 直木賞 元帯 初版 
  •   ★☆★ 虹の谷の五月 船戸 与一 (単行本 - 2000/5)
  • 昭和35年 5月号 国際文化画報 五月の顔 エノケンサン
  • メガハウス EXモデル BLEACH/ブリーチ 1/8 四楓院夜一(雪野五月)
  • 兜・五月人形用 道具単品 両旗飾り 金彩昇竜20号
  • 兜・五月人形用 道具 かがり火 木製桑塗り10号 電気有
  • 署名本・戸板康二「五月のリサイタル」初版・帯付・サイン本
 五月は爽快な男児ぴちぴち若い体じゅうの皮膚を裸で、旗のような髪の毛を風にふき靡(なび)かせつつ、緑の小枝を振り廻し駈けて行く五月。新鮮に充実して浄き官能の輝く五月
 近い五月は横丁の細道にもある。家の塀について右へ一つ、もう一遍右へ一つ曲ると、そこに五月慎しい宝が人目にかくれ横わっている。右も生垣、左も生垣、僅か三尺ばかりの小道がそこを貫いているのだが、五月になると、小径は緑の王国だ。高いところに樫の若葉、要の葉、桜、楓、地面山吹や野茨が叢(むらが)り出て緑の※ァリエーションをつくる。そこへふっさり幹を斜に空から後期印象派風の柳が豊富な葉を垂らし、快晴午後二時頃人声もしないその小道を行くと、何と云おう――様々な緑、紅緑、黄緑、碧緑、優しい銀緑色の清純な馨(かん)ばしさ、重さ、燦めきが堆団(マス)となっていちどきに感覚へ溢れて来る。静けさに満ち渡る崇厳――。
   あらたふと青葉若葉の日のひかり

 北方五月黄昏(トワイライト)がながい。もう太陽は河の彼方に沈んだ。燦めきのない残光が空中にあって、空を建物人物色彩不思議に鮮かに浮きたたせる。市街は、オランダ陶器絵のように愛らしく美しい。ねっとりした緑の街路樹、急に煉瓦色のこまやかな建物の正面(ファサード)。車道を辷るシトロエンが夢のようなレモン色だ。女の赤い帽子総ての色調(トーン)を締める黒の男性散策者。
 人は心を何ものかにうばわれたように歩く。……歩く葉巻の煙、エルムの若葉の香、多くの窓々が五月夕暮に向って開かれている。
 やがて河から靄が上る。街燈が鉄の支柱の頂で燐を閃めかせ始める。ほんの一とき市民の胸を掠めるぼんやりした哀愁の夜が、高架鉄橋ホイッスラー風な橋桁の間から迫って来た。

 そういう黄昏、一つの池がある。ふちの青草に横わって池を眺めると、水の上白樺の影が青く白く映っていた。花咲かぬ水蓮も浮いている。白鳥が一羽いる。むこうの丸木橋の下にいたが、こちらへ向いて泳いでいた。眠たい水が鋼色にひろがる。青草に横わって池を眺めると、今は樹間をこめる紫っぽい夕暮の陰翳まで漣とともにひろがり、白鳥ばかり真白に、白樺投影の裡に伸びた。
〔一九二七年五月



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「改造
   1927(昭和2)年5月号
入力柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル
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