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オシャベリ姫 - かぐつち みどり ( かぐつち みどり )

  • ☆ ファービー2不思議なオシャベリペット(未開封)
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夢野久作)  ある国に王様がありまして、夫婦の間にたった一人、というお姫さまがありました。  このお姫様は大層美しいお姫様でしたが、どうしたものか生れ付きおしゃべりで、朝から晩まで何かしらシャベッていないと気もちがわるいので、おまけにそれを又きいてやる人がいないと大層御機嫌がわるいのです。
 ある朝のこと、このオシャベリ姫は眼をさまして顔を洗うと、すぐに両親王様とお妃(かあ)様の処に飛んで来て、もうおしゃべりを初めました。
「お父様お母様、昨夜(ゆうべ)は大変でしたのよ。ゆうべあたしがひとりで寝ていますと、どこから這入って来たのか、一人の黒ん坊が寝床のところへ来まして、妾(わたし)の胸に短刀をつきつけて、宝物のあるところはどこだと、こわい顔をしてきくのです」
「まあ、それからどうしたの」
 と王様とお妃(かあ)様はビックリして姫にお尋ねになりました。
それからね……妾はしかたがありませんから、宝物(たからもの)の庫(くら)のところへ連れて行ったら、黒い腕で錠前を引き切って中の宝物をすっかり運び出して、お城の外へ持って行ってしまったのですよ」
「なぜその時にお前は大きな声で呼ばなかった」
「だって、その宝物をみんな妾に持たせて運ばせながら、黒ん坊は短刀を持ってそばに付いているのですもの」
「フーム。それは大変だ。すぐに兵隊追っかけさせなくては。しかしお前はそれからどうした」
「やっとそれが済んだら、黒ん坊は妾の胸に又短刀をつきつけて今度は、オレのお嫁になれって云うんですの」
「エーッ。それでお前はどうした」
「あたしはどうしようかと思っていましたら……眼がさめちゃったの」
「何……どうしたと」
「それがすっかり夢なのですよ」
馬鹿……この馬鹿姫め。夢なら夢となぜ早く云わないのか」
 と王様は大層腹をお立てになりました。
「まあ。それでも夢でよかった。あたし、どんなに心配したかしれない」
 とお妃さまもほっとため息をつきました。
「オホホホホホ。まあ、おききなさい。それからね、わたしは眼をさまして見ますと、まだ夜が明けないで真暗なんでしょう。あたしは何だか本当に黒ん坊が来そうになってこわくなりましたから、ソッと起き上って次の間(ま)の女中の寝ているところへ来て見ますと、二人いた女中が二人ともいないのです」
「憎い奴だ。お前の番をする役目なのにどこに行っていたのであろう。非道(ひど)い眼に合わせてやらなくてはならぬ」
 と王様は又も大層腹をお立てになりました。
「それがねえ、お父様。お叱りになってはいけないのですよ。妾もどこに行ったろうと思って探して見ると、二人とも機織(はたお)り部屋に行って糸を紡(つむ)いでいるのです」
「何、糸を?」
 とお妃(かあ)さまが云われました。
「感心だねえ。夜も寝ないで糸を紡いでいるのかえ」
「それがまだ感心することがあるのですよ……」
 オシャベリ姫はなおも前のお話をつづけました。
「あたしは、二人の女中が今頃何だって機織室に這入って糸を紡いでいるのだろうと思って、ソッと鍵の穴から中の様子を見ますと、本当にビックリしてしまったのです。だって東の方の壁と西の方の壁に、一列ずつ何百か何千かわからぬ程沢山の蜘蛛がズラリと並んでいるのです」
「何、蜘蛛が! おお、気味のわるい」
 と王様とお妃は一度に云われました。
「ところがそれがちっとも気味わるくないのです。東の方の壁に並んでいる蜘蛛はみんな黄金(きん)色で、西の方のはすっかり白銀(ぎん)色なのです。そのピカピカ光って美しいこと。そうして黄金(きん)色の蜘蛛お尻からは黄金(きん)色の糸が出ているし、白銀(ぎん)色の蜘蛛お尻からは白銀(ぎん)色の糸が出ているのを、二人の女中一人ずつ糸車にかけて、ブーンブーンと撚(よ)って糸を作っているのです。その面白くて奇麗だったこと……」
「フーム。それは不思議なことだな」
「まだ不思議なことがあるのです。その糸を巻きつけた糸巻きがだんだん大きくなって来ますと、その糸の光りで室中が真昼のように明るくなります。私はあんまりの不思議さにビックリして思わず外から……その糸をどうするの……と尋ねました」
「そうしたら何と返事をしたの」
 とお妃様がお尋ねになりました。
「そうしたら、返事をしないのです」
「どうして」
「二人の女中ビックリして私の方を見ました。その拍子(ひょうし)に今までブンブンまわっていた二人の女中の糸巻きが急にあべこべにまわりますと、大変です。金の糸と銀の糸がスルスルと解けて来て、二人の女中の首に巻き付きました」
「オヤオヤ。それからどうした」
「二人の女中は驚いて立ち上って、その巻き付いた糸を取ろうとして藻掻(もが)き初めましたが、もがけばもがく程糸がほどけて来て、手や足までもからみつきました。それで女中はなおなお狂人(きちがい)のようになって床の上にころがりまわりましたが、しまいには金銀の糸がすっかり二人の女中に巻き付いて人間の糸巻きのようになって、只うんうんうなりながら床の上を転びまわるばかりでした」
「お前はそれを見ていたのか」
「エエ。あたしはこれはわるいことをした。だってあんなことを云わなければ、二人の女中ビックリしなかったでしょう。ビックリしなければ糸車あべこべにまわさなかったでしょう。糸車あべこべにまわさなければ、金銀の糸は女中の首に巻き付かなかったのでしょう」
「そうだ、そうだ」
「ほんとにね」
「あたしそう思って、できるだけ早く助けてやろうとしましたが、扉(と)に鍵がかかっていましたので、助けてやりようがありません」
「それは困ったな」
「それでどうしたの」
「そのうちに糸巻の糸はすっかり二人の女中に巻き付いてしまった上に、壁にいた蜘蛛までも糸にくっついて女中身体(からだ)に引っぱりつけられましたが、女中が転がりまわりますので、蜘蛛も苦しまぎれに大層|憤(おこ)って、女中身体(からだ)に巻き付いている糸をすっかり噛み切ってしまいました」
「まあ、それはよかった」
「いいえ。それからがこわいのです。糸を噛み切った蜘蛛は、寄ってたかって女中を喰い殺してしまいました」
「ヤア、それは大変だ」
「何という可愛想なことでしょう」
 と云ううちに王様とお妃様は立ち上がって、急いで機織部屋に行こうとなさいました。
 オシャベリ姫は慌ててそれを押し止めていいました。
「まあ、お父様お母様、おききなさい……それがやっぱり夢なのですよ……」
「何だ、それも夢か?」
「まあ、お前は何ておしゃべりなのだろう」
 と王様とお妃様は又椅子に腰をおかけになりました。そうして王様は真赤に怒ってオシャベリ姫をお睨(にら)みになりました。
「この馬鹿姫め。


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