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ジャン・クリストフ 08 第六巻 アントアネット - ロラン ロマン ( )

  • ソングライター ウィリーネルソン クリスクリストファーソン
  • ●新品●コミュニオン 遭遇 主演:クリストファー・ウォーケン
  • 廃盤●ジェニファー8●音楽:クリストファー・ヤング
  • 「フランス・クリストフル 銀仕上 重厚な ペーパーナイフ」 箱付
  • ★ジャンクリストフ3/ロマンロラン豊島与志雄昭和38年岩波文庫
  • ★ジャンクリストフ2/ロマンロラン豊島与志雄昭和37年岩波文庫
  • ★ジャンクリストフ1/ロマンロラン豊島与志雄昭和37年岩波文庫
  • ★ジャンクリストフ8/ロマンロラン豊島与志雄昭和38年岩波文庫
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ジャン・クリストフ JEAN-CHRISTOPHE 第六巻 アントアネット ロマン・ローラン Romain Rolland 豊島与志雄訳      母に捧ぐ  ジャンナン家は、数世紀来|田舎(いなか)の一地方に定住して、少しも外来混血受けないでいる、フランスの古い家族の一つだった。そういう家族は、社会に種々の変化が襲来したにもかかわらず、フランスには思いのほかたくさんある。彼らは自分でも知らない多くの深い関係で、その土地結びつけられているのであって、一大変動がない以上は、そこから彼らを引き抜くことはできない。彼らのそういう執着には、なんらの理由もないし、また利害関係もほとんどない。歴史追憶などという博識な感傷性といったものは、ある種の文学者らにしか働きかけるものではない。打ち克(か)ちがたい抱擁(ほうよう)力で人を一地方結びつけるものは、もっとも粗野な者にももっとも聡明(そうめい)な者にも共通なる、漠然(ばくぜん)としたしかも強い感覚――数世紀以来その土地の一塊であり、その生命に生き、その息吹(いぶ)きを呼吸し、同じ床に相並んで寝た二人の者のように、その心臓の音がじかに自分心臓へ響くのを聞き、そのかすかなおののき、時間季節晴れ日や曇り日の無数の気味合(ニュアンス)、事物の声や沈黙、などを一々感じ取ってるという、漠然としたしかも強い感覚なのである。おそらくは、もっとも美しい地方よりも、または生活のもっとも楽しい地方よりも、土地がもっとも簡素で、もっとも見すぼらしく、人間に近く、親しい馴(な)れ馴れしい言葉を話しかけるような、そういう地方こそ、よりよく人の心をとらえるものである。
 ジャンナン家の人たちが住んでいたフランス中部の小地方は、まさにそのとおりであった。平坦(へいたん)な濡(うるお)いのある土地、淀(よど)んだ運河の濁り水に退屈げな顔を映してる、居眠った古い小さな町。その周囲には、単調な田野、耕作地、牧場、小さな流れ、大きな森、単調な田野……。美景もなく、塔碑もなく、古跡もない。人の心をひきつけるようなものは何もない。しかし、すべてが人を引き留めるようにできている。その無気力|懶惰(らんだ)のうちには、一つの力が潜んでいる。それを初めて味わう者は、悩みと反発心とをそそられる。けれども、その印象を数代つづいて受けてきた者は、もはやそれから離脱することができない。すっかり沁(し)み込まれている。その事物の沈滞、そのなごやかな倦怠(けんたい)、その単調さは、彼にとって一つの魅力であり、深い甘美であって、彼はそれをみずから知ってはいず、あるいは貶(けな)しあるいは好むが、長く忘れることはできないであろう。

 ジャンナン家の人たちはいつもそこに生活してきた。町の中や近郊において、十六世紀まで家系をさかのぼることができた。というのは、一人の大|伯父(おじ)が一生をささげて、この無名な勤勉なつまらない人たちの系統を調べ上げたからである。農夫小作人、村の職人、つぎには、僧侶(そうりょ)、田舎(いなか)の公証人、などであって、しまいにその郡役所所在地に来て身を落ち着けたのであった。その地で、現在のジャンナンの父であるオーギュスタン・ジャンナンは、銀行家としてすこぶる巧みに仕事をしていった。巧妙人物で、百姓のように狡猾(こうかつ)で頑固(がんこ)で、根は正直だが小心翼々たるところはなく、非常な働き者で快活であって、ずるい質朴(しつぼく)さや露骨な話しぶりや財産などのために、十里四方の人々から重んぜられ恐れられていた。背の低いでっぷりした強健な男で、痘瘡(とうそう)のある太い赭(あか)ら顔に、小さな鋭い眼が光っていた。昔は色好みだとの評判だったが、あとまでその趣味全然失いはしなかった。彼は露骨な冗談やりっぱな御馳走(ごちそう)が好きだった食卓の彼は見物(みもの)だった。息子(むすこ)のアントアーヌがその相手をし、他に会食者としては数名の老人仲間がいた。治安裁判所判事公証人大会堂の司祭――(ジャンナン老人はよく牧師を食い物にしていたが、牧師大食家であるときにはそれと会食する道をも心得ていた)――ラブレー風の陽気な土地の同じモデルでこしらえられてる丈夫な快漢たちだった。馬鹿(ばか)げた冗談が火のように燃え上がりテーブル拳固(げんこ)の音がし、荒々しい哄笑(こうしょう)の声が湧(わ)きたった。その快活な騒ぎは、台所召使どもにも感染し、表を通りかかる人々にも感染していった。
 その後、オーギュスタン老人は、ごく暑い夏のある日、葡萄(ぶどう)酒を瓶(びん)につめようと思いたって、シャツ一つになって窖(あなぐら)へ降りていったが、そのとき肺炎にかかった。そして二十時間とたたないうちに、あまり信じてもいないあの世へ旅だってしまった。もとより教会のあらゆる秘蹟(サクラメント)は行なわれたが、それも田舎(いなか)のヴォルテール主義者である善良な中流人士としてであって、女どもからかれこれ言われないために、臨終のおりされるままに任したのだった。彼にとってそれはどの道同じことだったし……また、死後のことはわかるものではない……。
 息子のアントアーヌがその業務を引き継いだ。でっぷりした赭(あか)ら顔の快活な小男で、剃(そ)り残してる長めの頬髯(ほおひげ)、聞き取れないほどの早口――いつも騒々しくって、ちょこちょこ動き回っていた。彼は父ほどの経済的知力をもってはいなかったが、監理者としてはかなりの腕をもっていた。着手されてる事業を静かにつづけてゆきさえすればよかった。それは単に継続されてるというだけで、盛んになっていった。彼はその地方で手腕家との評判を得ていたが、事業の成功は彼の力ではほとんどなかった。彼はただ秩序と精励とを事としたばかりだった。それに彼はまったく誉(ほ)むべき人物であって、至当な尊敬の念をだれにも起こさせた。その態度が、ある人にたいしては馴(な)れ馴れしすぎるくらいであり、やや大袈裟(おおげさ)で、多少平民的で、まったく円滑親切だったので、その小さな町や近傍田舎(いなか)では、りっぱな人だとの評判を得ていた。金使いは荒くなかったが、感傷癖のためにしまりがなかった。すぐに涙を眼に浮かべた。悲惨な様を見ては深く心を動かして、その悲惨に会ってる者をいつも感動さした。
 小都市に住んでいる多数の者と同様に、彼も政治のことをたいへん念頭に置いていた。彼はごく温和な共和主義者であり、頑固(がんこ)な自由主義者であり、愛国者であり、また父にならって極端な反僧侶(はんそうりょ)主義者であった。


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