バルザック - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )
「幻滅」より。又それからの連想
○二人の友は 未来に輝く二人の運命を全くごっちゃにして考えていた。
よしや輝やかないにしろ、そういうことはある。
十三年 執筆の出来なかったとき 自分ものを売った。そしてIに五百円もって行った。コーヒーやをやると云って研究したり金の苦面したりしていたから。いろんな話していたときK、
「あなたがやるんじゃない、僕らがやるんだよ」
自分がやる と、思っていたわけではないが、自分は何となしそうけじめのつけられたことをおどろいた そんな感情
○二人の青年はいずれも社会の下積になっていればいるほど、ますます高い目で社会を判断するのであった。世に認められぬ人間は、自分の地位の卑しいことの憂さはらしに自分の見解の高さをほこるものである。
×しかし自分が、高さによじのぼる機会に手をかけるや、この高き見解はぐらつきはじめる。成功の誘惑はよりつよい。そして、方法をえらばず、才のかぎりをつくして、手にさわったよじのぼりを完成しようとする。そして方法について完成された成功そのものについて、「高き目」の判断を閉じてしまう。
がの公の場合
「妻死なず」へのプロテスト――農村と都会の分裂の悲劇
田舎の生活でまだその翼を切られていなかった若い白鳥たち
×田舎の生活の中における極少数の知識ある女性の苦痛
×半知識女性の悲しい滑稽
×抵抗と適当な試煉のないために病的に羽ばたき――決して体をもち上げることのない――ばかりひどくなって 空想は空想をうみ 細君は乱行をするにいたる過程
○汽車の中でのり合わせた軍人――音楽をやる
○小学校教員
○アブノーマルな崇拝
○相手がない ということは田舎での最も不都合な点である。
◎マダム・ボバリーのテーマは本質的にどこにあるか?
○作家がその作品の中に自分自身を讚歎するように
×女性的なずるい依存的亭主は女房を讚歎する
×或は田舎にいて 自分を表現し得ない女が、一人の他人を賛美することで 自分の夢をはぐくむ。
○その女が麦死なずをよむ そして悲しみいきどおりを感じる。
○家のあととりのために、早く十六七で結婚させられた女の二つのタイプ
※いつも自分の生活は 自分のものでないという反抗心をもっている
○自分のあるかないか分らない才能の萎靡を誇張して考えている
○良人の現実的な関心に対して精神を主張する
※梅子の場合、変に甘え 自分をすて エロティックで 子供がうめない。そんなことも早い結婚に結びつけ、エロティックな甘えになる。
○そして男同胞の love affair などに加担する、ぜいたくする、ゴタゴタの花をいけたりする、横坐りになって べたっとして横目つかう。
○われわれ人間の滑稽さというものは、その大部分は美わしい感情や善徳や長所が極端におしすすめられたものである。p.53
自尊心が――小事にこだわる 片意地となり 熱心が――滑稽な誇張となる
◎情熱もまたこれを適当に動かす余地がないので段々規模が小さくなり、微細なものを拡大視するにすぎなくなる。
○何事にでも夫人は ときめき立ち 気を失い 感動した
○女というものは出口のない単調で面白くもない生活には絶望を感じて衝動にかり立てられ、狂乱に身をゆだねるのである。
p.308「君の行為に美徳を入れ きみの思想に悪を入れたまえ。いい事を考えて、悪い振舞いをしないで」
これは何とすべての弱い人間への金言だろう。
第二巻
p.273 或る場合においては費用において訴訟の目的を超過する事を、代訟人に対して禁止する如き一寸した法律を急いで拵えるべきではなかろうか
裁判所の隠語
「或る人の商売に火をつける」
「幻滅」「あら皮」ノート及び連想(小説のために。)
あらゆる情熱の動機を、形而上的なものにおいて しかも情熱の表現は愛というものを知らぬ利己と狡猾のフェドラの冷たさの凝固や 売笑婦ユーフラジーの「精神なき悪徳」からラファエリの「意思の力を集中させ、その総量を自由に動かし、そうした流動体の放射を間断なしに人々の心に向ける訓練が出来て来ると、最早こうした力に抵抗し得るものはない」それが美徳であれ悪徳であれ」と考える、あらゆる層をモーラして その個別の中にタイプを見ようとしている。これはバルザックの作品の或る要石を**しよう。が、作品としてはつまらない。バルザックの、情熱のための情熱は動物的でありすぎ知的でないから、饒舌な混迷に陥っている。全く心理的な動機を哲学的と名づけているところに十九世紀心理学の若さがうかがわれる。
p.419 フランスには――一貫した論理というものが、政府にもなけりゃ 個々の人間にもなかった、其故道徳というものがなくなっている、今日、成功ということが、何にもあれ、すべての行為の最高の理由となっている。
p.420 外面を美くせよ 生活の裏面をかくして、一ヵ所非常に華々しいところを出して見せよ、
これは何か肯けるところがある 現代のフランス人にも。
フランス文学が 社会の相剋と勝負するというところに伝統をもっているということも。しかし 更にその原因となった歴史的な条件はバルザックもツワイクも明かにつかんではいない。
p.421 第二巻 カルロス エレラ僧
「儂は神を信ずる、が一層我が教団を信ずる。そうしてわが教団は地上権を信ずるのみじゃ。地上権を極めて強力ならしめんため、我が教団は使徒相伝ローマ教会――即ち人民を服従の中に保つところの諸々の感情の総体――というものを支持するのじゃ。」
「あら皮」より エミールの言
p.52「僕には まるで汽車の線路のように坦々たるわれらが文明という奴の青白き生活が胸のむかつくほど堪らないんだ!」
p.48 丁度予算が その地を変えフォーブール・サン・ジェルマンからショセ・ダンタンへ移ったように、権力もまたテュルリー宮から新聞記者の手へと移ってしまった。
――――
政府――すなわち昔坊主達が君主政治をあやつっていたように、今日国家をあやつっている銀行家、代議士からなる貴族階級が、今やあらゆる学派の哲学者 あらゆる時代の権力者のひそみにならって、新しい言葉、古き思想で、善良なフランス国民を瞞着することの必要を感じている。
p.66「ははあ光栄か。情けない代物でね、買うときは高いが 保ちがわるくってね、
光栄なんて、偉大な人達のエゴイスムのことじゃないだろうか。丁度幸福というのが、馬鹿な奴らのそれであるように。
カルヴィン派 フランスにおける宗教改革の歴史
p.67 十六世紀のアンリ四世とパリの同業組合
p.68 異教の擡頭につれて、パリでは警吏が町角の聖母像におじぎを強要した。ふみ絵の元祖?
一五六〇年頃
p.72 新教と「家庭」。市民生活の単位として。勝手にされぬ砦として。
これは極めて大きいテーマである。イギリスにおいて、ミルトンの一夫一婦 純潔な家庭を称揚したパラダイス ロスト
フランスの人々も家庭というものの幸福のために坊主の追放を考えた。p.72のルカシュスの言葉
〔欄外に〕
ドイツ ルーテル
スコットランド ノックス
フランス カルヴァン
イタリーの乱脈 メディシスの私生子万歳時代への反動として。
p.72 宗教改革とギルド=市民階級のもの、若武士(カデ)
○新教とヨーロッパ フランソワ・ホトマンによる連合国の観念。スペインに対する勝利の願望=ネーデルランドの支配者
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
※「*」は不明字。
よしや輝やかないにしろ、そういうことはある。
十三年 執筆の出来なかったとき 自分ものを売った。そしてIに五百円もって行った。コーヒーやをやると云って研究したり金の苦面したりしていたから。いろんな話していたときK、
「あなたがやるんじゃない、僕らがやるんだよ」
自分がやる と、思っていたわけではないが、自分は何となしそうけじめのつけられたことをおどろいた そんな感情
○二人の青年はいずれも社会の下積になっていればいるほど、ますます高い目で社会を判断するのであった。世に認められぬ人間は、自分の地位の卑しいことの憂さはらしに自分の見解の高さをほこるものである。
×しかし自分が、高さによじのぼる機会に手をかけるや、この高き見解はぐらつきはじめる。成功の誘惑はよりつよい。そして、方法をえらばず、才のかぎりをつくして、手にさわったよじのぼりを完成しようとする。そして方法について完成された成功そのものについて、「高き目」の判断を閉じてしまう。
がの公の場合
「妻死なず」へのプロテスト――農村と都会の分裂の悲劇
田舎の生活でまだその翼を切られていなかった若い白鳥たち
×田舎の生活の中における極少数の知識ある女性の苦痛
×半知識女性の悲しい滑稽
×抵抗と適当な試煉のないために病的に羽ばたき――決して体をもち上げることのない――ばかりひどくなって 空想は空想をうみ 細君は乱行をするにいたる過程
○汽車の中でのり合わせた軍人――音楽をやる
○小学校教員
○アブノーマルな崇拝
○相手がない ということは田舎での最も不都合な点である。
◎マダム・ボバリーのテーマは本質的にどこにあるか?
○作家がその作品の中に自分自身を讚歎するように
×女性的なずるい依存的亭主は女房を讚歎する
×或は田舎にいて 自分を表現し得ない女が、一人の他人を賛美することで 自分の夢をはぐくむ。
○その女が麦死なずをよむ そして悲しみいきどおりを感じる。
○家のあととりのために、早く十六七で結婚させられた女の二つのタイプ
※いつも自分の生活は 自分のものでないという反抗心をもっている
○自分のあるかないか分らない才能の萎靡を誇張して考えている
○良人の現実的な関心に対して精神を主張する
※梅子の場合、変に甘え 自分をすて エロティックで 子供がうめない。そんなことも早い結婚に結びつけ、エロティックな甘えになる。
○そして男同胞の love affair などに加担する、ぜいたくする、ゴタゴタの花をいけたりする、横坐りになって べたっとして横目つかう。
○われわれ人間の滑稽さというものは、その大部分は美わしい感情や善徳や長所が極端におしすすめられたものである。p.53
自尊心が――小事にこだわる 片意地となり 熱心が――滑稽な誇張となる
◎情熱もまたこれを適当に動かす余地がないので段々規模が小さくなり、微細なものを拡大視するにすぎなくなる。
○何事にでも夫人は ときめき立ち 気を失い 感動した
○女というものは出口のない単調で面白くもない生活には絶望を感じて衝動にかり立てられ、狂乱に身をゆだねるのである。
p.308「君の行為に美徳を入れ きみの思想に悪を入れたまえ。いい事を考えて、悪い振舞いをしないで」
これは何とすべての弱い人間への金言だろう。
第二巻
p.273 或る場合においては費用において訴訟の目的を超過する事を、代訟人に対して禁止する如き一寸した法律を急いで拵えるべきではなかろうか
裁判所の隠語
「或る人の商売に火をつける」
「幻滅」「あら皮」ノート及び連想(小説のために。)
あらゆる情熱の動機を、形而上的なものにおいて しかも情熱の表現は愛というものを知らぬ利己と狡猾のフェドラの冷たさの凝固や 売笑婦ユーフラジーの「精神なき悪徳」からラファエリの「意思の力を集中させ、その総量を自由に動かし、そうした流動体の放射を間断なしに人々の心に向ける訓練が出来て来ると、最早こうした力に抵抗し得るものはない」それが美徳であれ悪徳であれ」と考える、あらゆる層をモーラして その個別の中にタイプを見ようとしている。これはバルザックの作品の或る要石を**しよう。が、作品としてはつまらない。バルザックの、情熱のための情熱は動物的でありすぎ知的でないから、饒舌な混迷に陥っている。全く心理的な動機を哲学的と名づけているところに十九世紀心理学の若さがうかがわれる。
p.419 フランスには――一貫した論理というものが、政府にもなけりゃ 個々の人間にもなかった、其故道徳というものがなくなっている、今日、成功ということが、何にもあれ、すべての行為の最高の理由となっている。
p.420 外面を美くせよ 生活の裏面をかくして、一ヵ所非常に華々しいところを出して見せよ、
これは何か肯けるところがある 現代のフランス人にも。
フランス文学が 社会の相剋と勝負するというところに伝統をもっているということも。しかし 更にその原因となった歴史的な条件はバルザックもツワイクも明かにつかんではいない。
p.421 第二巻 カルロス エレラ僧
「儂は神を信ずる、が一層我が教団を信ずる。そうしてわが教団は地上権を信ずるのみじゃ。地上権を極めて強力ならしめんため、我が教団は使徒相伝ローマ教会――即ち人民を服従の中に保つところの諸々の感情の総体――というものを支持するのじゃ。」
「あら皮」より エミールの言
p.52「僕には まるで汽車の線路のように坦々たるわれらが文明という奴の青白き生活が胸のむかつくほど堪らないんだ!」
p.48 丁度予算が その地を変えフォーブール・サン・ジェルマンからショセ・ダンタンへ移ったように、権力もまたテュルリー宮から新聞記者の手へと移ってしまった。
――――
政府――すなわち昔坊主達が君主政治をあやつっていたように、今日国家をあやつっている銀行家、代議士からなる貴族階級が、今やあらゆる学派の哲学者 あらゆる時代の権力者のひそみにならって、新しい言葉、古き思想で、善良なフランス国民を瞞着することの必要を感じている。
p.66「ははあ光栄か。情けない代物でね、買うときは高いが 保ちがわるくってね、
光栄なんて、偉大な人達のエゴイスムのことじゃないだろうか。丁度幸福というのが、馬鹿な奴らのそれであるように。
カルヴィン派 フランスにおける宗教改革の歴史
p.67 十六世紀のアンリ四世とパリの同業組合
p.68 異教の擡頭につれて、パリでは警吏が町角の聖母像におじぎを強要した。ふみ絵の元祖?
一五六〇年頃
p.72 新教と「家庭」。市民生活の単位として。勝手にされぬ砦として。
これは極めて大きいテーマである。イギリスにおいて、ミルトンの一夫一婦 純潔な家庭を称揚したパラダイス ロスト
フランスの人々も家庭というものの幸福のために坊主の追放を考えた。p.72のルカシュスの言葉
〔欄外に〕
ドイツ ルーテル
スコットランド ノックス
フランス カルヴァン
イタリーの乱脈 メディシスの私生子万歳時代への反動として。
p.72 宗教改革とギルド=市民階級のもの、若武士(カデ)
○新教とヨーロッパ フランソワ・ホトマンによる連合国の観念。スペインに対する勝利の願望=ネーデルランドの支配者
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
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