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ヤミ論語 - 坂口 安吾 ( さかぐち あんご )

  • 論語知らずの論語読み 著:阿川弘之 単行本 帯付き
  • 岩波文庫青 論語 金谷治訳注
  • 超訳 論語 -自分を磨く200の言葉―
  • 10042513論語 朱熹集 注 序説
  • 【ちくま新書】 渋沢栄一 現代語訳 論語と算盤|守屋 淳=訳
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     世は道化芝居  自宅へ強盗を手引きした青年があったと思うと、人数も同じ四人組で自宅で強盗した絹香さんという二十一の娘が現れた。  トリスタン・ベルナール作品だかに、知らないウチは勝手が分らぬ、それに見つかった時、変テコリンで困らア、というので知人のウチへ稼ぎにはいるマヌケな素人泥棒道化芝居があった。
 これも一つの心理であろう。知らないウチは確かに勝手が悪い。知人のウチは勝手がわかるが、自分のウチなら、これは気心が知れ、これぐらい心易いところはない。
 元々不良少年少女の悪のはじまりは、自宅の物を盗んで小遣いにするのが型であるが、いよいよ本職にと発心して、しからば、気心知れたわが家へ、となるのは不自然ではない。
 道化芝居というものは、有り得べくして、有りうべからざる珍妙のために、人々が笑ってくれて成り立つものであるが、ちかごろは、道化の題材が普通現実になった。
 エエイッ、死んでもいいや、というので、怪しきアルコールをガブリとやってオダブツとある。悲愴であるが、新派悲劇じゃなくて、道化芝居のネタである。
 国会小便をおやりになる。元大臣が天プラ御殿の主人となり、かねて気心知ったる官僚高官がヤミ天をおあがりになる。世耕情報、尺祭り節電盗電、日本は目下、あげて道化芝居である。
 帝銀事件で十二人死んだ。強盗が何人殺した。然しボロ電車が予定によってヒックリ返ったり火をだしたり、何人殺しても、こういう予定の殺人は何んでもないことになっている。愉快殺人ルールである。
 説教強盗氏が世相をガイタンされて、昔の盗人は仁義があった、とおっしゃる。盗人の仁義というイロハガルタはなかったが、これをマジメに書く新聞記者の頭がおかしい。
 道化的なるものをマジメに扱い、世相に意味をもたせて強調するから煽るだけの話で、道化に仕立てる、悪事荘厳現実感がなくなるから、素人は魅力を失う。
 昔、キリシタン退治の頃、信徒をハリツケ、火アブリにかける。堂々と刑死するから、見物人や処刑役人まで切支丹になる者が絶えなかったが、穴つるしという珍妙な処刑発明したら、見物人、ウンザリして、それ以来、信徒になる者がなくなった。
 然し、道化的なるものを道化的に見出すためには、教養がいる。また、道化の反面にある正理を愛する信念と情熱もいる。
 道化日本第一欠点は、教養が足りない、ということだろう。論語めかしくいうなら、自分のウチへ盗人にはいる奴が悪いのではなくて、そういうことは落語の中の熊公だけしかやらないものだと認定することの出来ない、余裕とユーモアのない時代の心が悪いのである。

     帝銀事件余談

 帝銀事件犯人似顔絵発表は無理だろう。昔さる新聞社入社試験に、講師が一席弁じ、ひきさがってのち、講師の人相服装を問うたら、正解がなかったそうだ。
 何十人に素顔をさらしたところで、何十人の印象を合計して正解のでる性質のものではなく、似て非なる架空何者かを現実的にデッチ上げて、それに限定を加えるだけ、事態をアイマイにしているようなものだ。レッキとした犯人写真があって、それを辻々の高札にするのとは根柢的に性質が違っているのである。
 警察民主的になったので、昔のように容疑者を一々ブタ箱へ入れて取調べる便利がなくなったので、捜査がおくれて困るという。すると、輿論(よろん)の多くが、そうだ、そうだ、遠慮なく昔にかえれと言いかねない有様だから、ものすごい。
 帝銀事件犯人が早くつかまるということよりも、人権を尊重するということの方が、どれだけ大切なことか分らない。この二者は比較を絶しているものなのである。帝銀事件犯人のタイホがおくれてもよいから、人権を尊重するという国風は断じてこれを守り、確立しなければならない。
 かりそめにも警察当局たるものが、人権尊重のためにタイホがおくれるなどと口実をつくるのは奇怪であり、かゝる暴論に対して非難の輿論が起らぬという日本現実悲しむべき貧しさである。
 密告歓迎などというのも、またひどい。脱税密告、イントク物資の密告政府密告の国風を熱情こめて作りつゝあるもののようだが、脱税やイントク物資よりも密告の国風の方が、どれだけ祖国を害(そこな)い、祖国卑劣化をもたらすか分らない。
 密告歓迎だの似顔絵高札などは江戸時代の岡ッ引の智慧でやったことで、近代に於ては警察基礎文化の在り方の一つでなければならぬもの。一人犯人をつかまえるよりも、人民保護という原則の確立の方が大切であろう。
 昨年のことだが、強盗にやられた家へ警官がとびこんだ。犯人追っかけ廻し時間がかゝったために、助かるべき被害者手当がおくれて死んだことがあり、この警官が、被害者を殺したよりも犯人を逃したことを残念がっていたという記事があった。この警察の在り方についても輿論反響はなかったようだ。
 帝銀事件犯人のタイホがおくれてもかまわぬ民主警察確立、岡ッ引根性絶滅の方がどれだけ重大だか計り知れない。

     ストその他

 私の四囲の小資本出版業者などでは、編輯者の給料が千八百円を下まわるようなところまである。あんまり気の毒で、せめて三千円ぐらいなけや生活できないからと私が社長にかけあってやったこともあった。
 こんな小会社では争議を起せばクビになるばかりだから、争議も起されぬ。これは気の毒なことである。
 反対に、全逓(ぜんてい)などというところは、ストが有力な武器になる。そこでストをやる。


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