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ラプンツェル - グリム ヤーコプ・ルードヴィッヒ・カール ( グリム ヤーコプ・ルードヴィッヒ・カール )

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グリム 中島孤島訳  むかしむかし夫婦者(ふうふもの)があって、永(なが)い間(あいだ)、小児(こども)が欲(ほ)しい、欲(ほ)しい、といい暮(くら)しておりましたが、やっとおかみさんの望(のぞ)みがかなって、神様(かみさま)が願(ねが)いをきいてくださいました。この夫婦(ふうふ)の家(うち)の後方(うしろ)には、小(ちい)さな窓(まど)があって、その直(す)ぐ向(むこ)うに、美(うつく)しい花(はな)や野菜(やさい)を一|面(めん)に作(つく)った、きれいな庭(にわ)がみえるが、庭(にわ)の周囲(まわり)には高(たか)い塀(へい)が建廻(たてまわ)されているばかりでなく、その持主(もちぬし)は、恐(おそ)ろしい力(ちから)があって、世間(せけん)から怖(こわ)がられている一人(ひとり)の魔女(まじょ)でしたから、誰一人(たれひとり)、中(なか)へはいろうという者(もの)はありませんでした。
 或(あ)る日(ひ)のこと、おかみさんがこの窓(まど)の所(ところ)へ立(た)って、庭(にわ)を眺(なが)めて居(い)ると、ふと美(うつく)しいラプンツェル(菜の一種、我邦の萵苣(チシャ)に当る。)の生(は)え揃(そろ)った苗床(なえどこ)が眼(め)につきました。おかみさんはあんな青々(あおあお)した、新(あたら)しい菜(な)を食(た)べたら、どんなに旨(うま)いだろうと思(おも)うと、もうそれが食(た)べたくって、食(た)べたくって、たまらない程(ほど)になりました。それからは、毎日(まいにち)毎日(まいにち)、菜(な)の事(こと)ばかり考(かんが)えていたが、いくら欲(ほ)しがっても、迚(とて)も食(た)べられないと思(おも)うと、それが元(もと)で、病気(びょうき)になって、日増(ひまし)に痩(や)せて、青(あお)くなって行(ゆ)きます。これを見(み)て、夫(おっと)はびっくりして、尋(たず)ねました。
「お前(まえ)は、まア、何(ど)うしたんだえ?」
「ああ!」とおかみさんが答(こた)えた。「家(うち)の後方(うしろ)の庭(にわ)にラプンツェルが作(つく)ってあるのよ、あれを食(た)べないと、あたし死(し)んじまうわ!」
 男(おとこ)はおかみさんを可愛(かわい)がって居(い)たので、心(こころ)の中(うち)で、
「妻(さい)を死(し)なせるくらいなら、まア、どうなってもいいや、その菜(な)を取(と)って来(き)てやろうよ。」
と思(おも)い、夜(よ)にまぎれて、塀(へい)を乗(の)り越(こ)えて、魔法(まほう)つかいの庭(にわ)へ入(はい)り、大急(おおいそ)ぎで、菜(な)を一つかみ抜(ぬ)いて来(き)て、おかみさんに渡(わた)すと、おかみさんはそれでサラダをこしらえて、旨(うま)そうに食(た)べました。けれどもそのサラダの味(あじ)が、どうしても忘(わす)れられない程(ほど)、旨(うま)かったので、翌日(よくじつ)になると、前(まえ)よりも余計(よけい)に食(た)べたくなって、それを食(た)べなくては、寝(ね)られないくらいでしたから、男(おとこ)は、もう一|度(ど)、取(と)りに行(ゆ)かなくてはならない事(こと)になりました。
 そこで又(また)、日(ひ)が暮(く)れてから、取(と)りに行(ゆ)きましたが、塀(へい)をおりて見(み)ると、魔法(まほう)つかいの女(おんな)が、直(す)ぐ目(め)の前(まえ)に立(た)って居(い)たので、男(おとこ)はぎょっとして、その場(ば)へ立(た)ちすくんでしまいました。すると魔女(まじょ)が、恐(おそ)ろしい目(め)つきで、睨(にら)みつけながら、こう言(い)いました。
「何(なん)だって、お前(まえ)は塀(へい)を乗越(のりこ)えて来(き)て、盗賊(ぬすびと)のように、私(わたし)のラプンツェルを取(と)って行(ゆ)くのだ? そんなことをすれば、善(よ)いことは無(な)いぞ。」
「ああ! どうぞ勘弁(かんべん)して下(くだ)さい!」と男(おとこ)が答(こた)えた。「好(す)き好(この)んで致(いた)した訳(わけ)ではございません。全(まった)くせっぱつまって余儀(よぎ)なく致(いた)しましたのです。妻(かない)が窓(まど)から、あなた様(さま)のラプンツェルをのぞきまして、食(た)べたい、食(た)べたいと思(おも)いつめて、死(し)ぬくらいになりましたのです。」
 それを聞(き)くと、魔女(まじょ)はいくらか機嫌(きげん)をなおして、こう言(い)いました。
「お前(まえ)の言(い)うのが本当(ほんとう)なら、ここにあるラプンツェルを、お前(まえ)のほしいだけ、持(も)たしてあげるよ。だが、それには、お前(まえ)のおかみさんが産(う)み落(おと)した小児(こども)を、わたしにくれる約束(やくそく)をしなくちゃいけない。小児(こども)は幸福(しあわせ)になるよ。私(わたし)が母親(ははおや)のように世話(せわ)をしてやります。」
 男(おとこ)は心配(しんぱい)に気(き)をとられて、言(い)われる通(とお)りに約束(やくそく)してしまった。で、おかみさんがいよいよお産(さん)をすると、魔女(まじょ)が来(き)て、その子(こ)に「ラプンツェル」という名(な)をつけて、連(つ)れて行(い)ってしまいました。
 ラプンツェルは、世界(せかい)に二人(ふたり)と無(な)いくらいの美(うつく)しい少女(むすめ)になりました。少女(むすめ)が十二|歳(さい)になると、魔女(まじょ)は或(あ)る森(もり)の中(なか)にある塔(とう)の中(なか)へ、少女(むすめ)を閉籠(とじこ)めてしまった。その塔(とう)は、梯子(はしご)も無(な)ければ、出口(でぐち)も無(な)く、ただ頂上(てっぺん)に、小(ちい)さな窓(まど)が一つあるぎりでした。魔女(まじょ)が入(はい)ろうと思(おも)う時(とき)には、塔(とう)の下(した)へ立(た)って、大(おお)きな声(こえ)でこう言(い)うのです。

ラプンツェルや! ラプンツェルや!
 お前(まえ)の頭髪(かみ)を下(さ)げておくれ!」

 ラプンツェル黄金(きん)を伸(の)ばしたような、長(なが)い、美(うつ)くしい、頭髪(かみ)を持(も)って居(い)ました。魔女(まじょ)の声(こえ)が聞(き)こえると、少女(むすめ)は直(す)ぐに自分(じぶん)の編(あ)んだ髪(かみ)を解(ほど)いて、窓(まど)の折釘(おれくぎ)へ巻(ま)きつけて、四十|尺(しゃく)も下(した)まで垂(た)らします。すると魔女(まじょ)はこの髪(かみ)へ捕(つか)まって登(のぼ)って来(く)るのです。
 二三|年(ねん)経(た)って、或(あ)る時(とき)、この国(くに)の王子(おうじ)が、この森(もり)の中(なか)を、馬(うま)で通(とお)って、この塔(とう)の下(した)まで来(き)たことがありました。すると塔(とう)の中(なか)から、何(なん)とも言(い)いようのない、美(うつく)しい歌(うた)が聞(き)こえて来(き)たので、王子(おうじ)はじっと立停(たちど)まって、聞(き)いていました。それはラプンツェルが、退屈凌(たいくつしの)ぎに、かわいらしい声(こえ)で歌(うた)っているのでした。王子(おうじ)は上(うえ)へ昇(のぼ)って見(み)たいと思(おも)って、塔(とう)の入口(いりぐち)を捜(さが)したが、いくら捜(さが)しても、見(み)つからないので、そのまま帰(かえ)って行(ゆ)きました。けれどもその時(とき)聞(き)いた歌(うた)が、心(こころ)の底(そこ)まで泌(し)み込(こ)んで居(い)たので、それからは、毎日(まいにち)、歌(うた)をききに、森(もり)へ出(で)かけて行(ゆ)きました。
 或(あ)る日(ひ)、王子(おうじ)は又(また)森(もり)へ行(い)って、木(き)のうしろに立(た)って居(い)ると、魔女(まじょ)が来(き)て、こう言(い)いました。

ラプンツェルや! ラプンツェルや!
  お前(まえ)の頭髪(かみ)を下(さ)げておくれ!」

 それを聞(き)いて、ラプンツェルが編(あ)んだ頭髪(かみ)を下(した)へ垂(た)らすと、魔女(まじょ)はそれに捕(つか)まって、登(のぼ)って行(ゆ)きました。
 これを見(み)た王子(おうじ)は、心(こころ)の中(うち)で、「あれが梯子(はしご)になって、人(ひと)が登(のぼ)って行(い)かれるなら、おれも一つ運試(うんだめ)しをやって見(み)よう」と思(おも)って、その翌日(よくじつ)、日(ひ)が暮(く)れかかった頃(ころ)に、塔(とう)の下(した)へ行(い)って

ラプンツェルや! ラプンツェルや!
 お前(まえ)の頭髪(かみ)を下(さ)げておくれ!」

というと、上(うえ)から頭髪(かみのけ)がさがって来(き)たので、王子(おうじ)は登(のぼ)って行(ゆ)きました。
 ラプンツェルは、まだ一|度(ど)も、男(おとこ)というものを見(み)たことがなかったので、今(いま)王子(おうじ)が入(はい)って来(き)たのを見(み)ると、初(はじ)めは大変(たいへん)に驚(おどろ)きました。けれども王子(おうじ)は優(やさ)しく話(はな)しかけて、一|度(ど)聞(き)いた歌(うた)が、深(ふか)く心(こころ)に泌(し)み込(こ)んで、顔(かお)を見(み)るまでは、どうしても気(き)が安(やす)まらなかったことを話(はな)したので、ラプンツェルもやっと安心(あんしん)しました。それから王子(おうじ)が妻(つま)になってくれないかと言(い)い出(だ)すと、少女(むすめ)は王子(おうじ)の若(わか)くって、美(うつく)しいのを見(み)て、心(こころ)の中(うち)で、
「あのゴテルのお婆(ばあ)さんよりは、この人(ひと)の方(ほう)がよっぽどあたしをかわいがってくれそうだ。」
と思(おも)いましたので、はい、といって、手(て)を握(にぎ)らせました。少女(むすめ)はまた
「あたし、あなたとご一しょに行(い)きたいんだが、わたしには、どうして降(お)りたらいいか分(わか)らないの。あなたがお出(でい)になるたんびに、絹紐(きぬひも)を一|本(ぽん)宛(ずつ)持(も)って来(き)て下(くだ)さい、ね、あたしそれで梯子(はしご)を編(あ)んで、それが出来上(できあが)ったら、下(した)へ降(お)りますから、馬(うま)へ乗(の)せて、連(つ)れてって頂戴(ちょうだい)。」
といいました。それから又(また)、魔女(まじょ)の来(く)るのは、大抵(たいてい)日中(ひるま)だから、二人(ふたり)はいつも、日(ひ)が暮(く)れてから、逢(あ)うことに約束(やくそく)を定(き)めました。
 ですから、魔女(まじょ)は少(すこ)しも気(き)がつかずに居(い)ましたが、或(あ)る日(ひ)、ラプンツェルは、うっかり魔女(まじょ)に向(むか)って、こう言(い)いました。
「ねえ、ゴテルのお婆(ばあ)さん、何(ど)うしてあんたの方(ほう)が、あの若様(わかさま)より、引上(ひきあ)げるのに骨(ほね)が折(お)れるんでしょうね。


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