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一九二三年夏 - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

  • 宮本百合子選集第一巻・小説集 ☆宮本百合子
  • 【本】 宮本百合子研究・宮本百合子批評 関係書 6冊 N21078
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 標準時計  福井  地震継母  Oのこと  mammy のこと  aと自分  ○祖父母、母、――自分で三つの時代女性生活気分と時代明治初年明治三十七八年――現今)に至るを、現したい。           ――○――  国男、山田さん位の青年の恋に対する心持、恋のしかた、と、娘のそれとの組み合わせ
          ――○――
 放火犯の心持、
 寥しさに火をいじることから始り、心の寥しさが増すにつれて、大きな火をいじるようになる。
 火の透明な、暖い燃える色。
          ――○――
 Tさんの心持を思う。
 Kのあの冷淡な、実業家的の Matter of Fact の心持。
 TさんがKを愛して居るのに、この愛が素直受け入れられず、その境遇を代えたいのに代える実力も同情者もなく、子供にしばられて、運命にすてばちになって居る心持。
 彼女が active に家のことをせず、成金くさくなって居るのは、憐れなふてくされ、と云えよう。
 情があって、頭のない女のあわれさ。
          ――○――
 中江さんの場合
 彼女の快活そうな様子はどこから来るか。
          ――○――
 ○地震がひとに与えた大きな運命の狂いを背景として、いつも思って居た継母のことを書きたい。
          ――○――
 クリスツス。(christus) see. New Y. Times. Sep. 15, 1923
 Anton Lang と云う男 キリストに似たような顔と体、とくに肩つきに似て居ると云うので Passion Play のクリスになる。
 その顔の類似が精神に及ぼす影響
 クリストへの愛、研究が深くなるにつれ、自分キリスト的顔と、一村人としての性格との間の矛盾におそれを抱く。女達の崇拝する心持に対する自嘲、不幸な、苦しみ多き人間として生活するその内面を描いて見たい。

     ◎標準時

 絶対に狂わず正確なもの と云う
 それを或日本海軍将官英国で買った。六年の間に一分進んだばかりなので、この次英国に行った時、店に行ってほめた。そしたら、六年の間に 例え 一分でも進むようなことがあったら、標準時計にはなりません。これは久しい間試験したのですからと云って、新らしい別なのと代えてくれた。
 この話を基ちゃんからきき、自分はそんなに正確な時計を持って居る人間若し神経質だったら、どんなに恐ろしく、生命の粒のこぼれて行くのを感じるだろうと思った。
 始めそんなに正しいのを持ったよろこび。やがて不安
 その心持は短篇にまとまる。
 ○時計で南北を知るには、直射光線にうつる短針のかげをかさね、十二時とそれとの中央を南とし、正反対を北。
 ○列車の速力は、二十二秒半にこすレールのつぎめの数が時数。
 ドイツに Wanderlied の多いこと Faust でさえ、一種のヴァンデルリードではないか。
 ドイツ人の心持。
 イギリス人にない。
 日本人は?

     六月二十三

 梅雨のはれ間、激しい西北の風とともに空はすっかり霽(は)れ上った。
 庭に出、空を仰ぐと、深い一片の雲もない天に、月と星とが、小さく、はっきり見える。中天に昇って居る故か月は、不思議に小さく近く見えた。何か見えない糸で天から吊るされ、激しい風が吹き渡る毎に、吊下げられた星や月も揺れまたたくように思える。
  又他の風景
 七八月のような大暴風雨の後、梅雨がすっかりはれ上った。柔い若葉をつけたばかりの梧桐はかぜにもまれ、雨にたたかれた揚句、いきなりかっと照る暑い太陽にむされ、すっかりぐったりしおれたようになって、澄んだ空の前に立って居る。
 六月樹木と思えない程どす黒く汚く見えた。

     六月二十四日

 見えないところから、月の光廊下流れ込んで居た。硝子戸を透して、地に堕ちて居る樹木の陰や黒々と立って居る松の深い梢を見ると、自分は急にうすら寒い、凍りついたものを見えるような心持に打れた。
             ◎
“暗い部屋から茶の間の方に行こうとすると、畳廊下の下に、錯綜して、明るく、暗く走せ違って居る部屋部屋から洩れる光りで、自分は変な目まぐるしさを覚えた。襖に当って屈曲した三尺幅の光の波が、くっきり斜に、表現派の舞台装置のように、光度を違えて、模様を描いて居る。
             ◎
 宮原氏と原稿の話をした時、二十四字づめを使って居ると云うと
 彼は
「それ丈は一寸違って居るんですね」と云った。
 自分は、軽い、而し鋭い侮蔑を感じた。
             ◎
 六月の若い栗(クリ)の梢に、黄金の軽舸(カヌー)のような半月が浮んだ。
             ◎
 彼は、自然や小さな動物を愛し、金魚を飼い小鳥をかいし乍ら、庭に犬が入ったり、蟻が出たりすると、狂気のようになって追い廻す性質だ。

     七月二日

 梅雨がもう少しで上ろうと云う日、二階から茂った梧桐や槇の葉ごしに見える空は、どんよりと曇り、底に雲母のような明土を湛えて居る。私は、ぼんやり右往左往に入れ乱れ、房々、涼しそうな葉をつけた梧桐を見ながら、隣家から聞えて来るダンス・ミュージックを聞いた。余韻の乏しい、妙に機械的の音が、賑やかならば賑なほど心の憂鬱を誘うようだ。

     忘られぬ印象

 一、Oさんを m. m 大学に訪ねる。
 二、翌日来。


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