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一匹の馬 - 原 民喜 ( はら たみき )

  • 読まずば二度死ね★内藤陳★冒険小説探偵小説SF小説開高健
  • (b041)「こちらノーム」IT小説? スパイ小説?企業小説?長谷川潤二
  • ◆第四次元の小説/幻想数学短編集 幻想小説/数学/物理学
  • 中古小説●○乱気流 小説・巨大経済新聞【上・下】高杉 良●○D
  • 現代怪奇小説集 上巻のみ 初版帯つき ホラー小説 幻想文学 即決
  • た竹本健治 腐蝕の惑星 SF小説 冒険小説 文庫 初版帯つき 即決
  • こころに効く小説の書き方 三田誠広 光文社 小説作法 切手可
  • ピェール・プール「小説E=MC2」SF小説
  • 小説家の小説家論 安岡章太郎 初版
  • ★ゲゲゲの女房・小説・武良布枝・水木しげる・連続テレビ小説
 五年前のことである  私は八月六日と七日の二日、土の上に横たわり空をながめながら寝た、六日は河の堤のクボ地で、七日は東照宮石垣の横で――、はじめの晩は、とにかく疲れないようにとおもって絶対安静の気持でいた、夜あけになると冷え冷えして空が明るくなってくるのに、かすかなのぞみがあるような気もした、しかし二日目の晩は、土の上にじかに横たわっているとさすがにもう足腰が痛くてやりきれなかった。いつまでこのような状態がつづくのかわからないだけに憂ウツであった、だが周囲の悲惨な人々にくらべると、私はまだ幸福な方かもしれなかった、私はほとんど傷も受けなかったし、ピンと立って歩くことができたのだ  八日の朝があけると私は東練兵場を横切って広島駅をめざして歩いて行った、朝日キラキラ輝いていた、見渡すかぎり、何とも異様なながめであった  駅の地点にたどりつくと、焼け建物の脇で、水兵の一隊がシヤベルを振り回して、破片のとりかたずけをしていた、非常に敏ショウで発ラツたる動作なのだ、ザザザザと破片をすくう音が私の耳にのこった、そこから少し離れた路上テーブルが一つぽつんと置いてある、それが広島駅事務所らしかった、私はその受付に行って汽車がいま開通しているものかどうか尋ねてみた  それから私は東照宮の方へ引かえしたのだが、ふと練兵場の柳の木のあたりに、がぼんやりたたずんでいる姿が目にうつった、これはクラもなにもしていない裸馬だった、見たところ、馬は別に負傷もしていないようだが、実にショウ然として首を低く下にさげている、何ごとかを驚き嘆いているような不思議な姿なのだ  私は東照宮境内に引かえすと石垣の横の日陰に横臥していた、昼ごろ罹災証明がもらえることになったので、私はまた焼津の方へ向う道路を歩いて行った、道ばたの焼残った樹木の幹を背に、東警察署巡査一人、小さな机をかまえていた  罹災証明がもらえて戻ってくると今度はまもなく三原市から救援のトラックがやって来た  私は大きなニギリ飯を二つてのひらに受けとって、石垣の日陰にもどった、ひもじかったので何気なく私は食べはじめた、しかしふとお前はいまここで平気で飯を食べておられるのか、という意識がなぜか切なく私の頭の片隅にひらめいた、と、それがいけなかった、たちまち私は「オウト」を感じてノドの奥がぎくりと揺らいできた 底本:「日本原爆文学1」ほるぷ出版    1983(昭和58)年8月1日初版第一刷発行 入力ジェラスガイ 校正大野晋 2002年7月20日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネット図書館青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力校正制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


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