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三つの宝 - 芥川 竜之介 ( あくたがわ りゅうのすけ )

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  • 「芥川龍之介」 関口安義   岩波新書
  • ◆◇ 芥川龍之介 著「羅生門・鼻」(新潮文庫) ◇◆
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  • 芥川龍之介◆侏儒の言葉・西方の人◆続西方の人収録
  • 別冊毎日グラフ 芥川龍之介 生誕百年、そして今
  • 絶版■芥川龍之介【邪宗門・杜子春】新潮文庫帯/昭和42年/葱.秋
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芥川龍之介         一 森の中。三人の盗人(ぬすびと)が宝を争っている。宝とは一飛びに千里飛ぶ長靴(ながぐつ)、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっ二(ぷた)つに切れる剣(けん)――ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。


第一の盗人 そのマントルをこっちへよこせ。
第二の盗人 余計(よけい)な事を云うな。その剣こそこっちへよこせ。――おや、おれの長靴を盗んだな。
第三の盗人 この長靴はおれの物じゃないか? 貴様こそおれの物を盗んだのだ。
第一の盗人 よしよし、ではこのマントルはおれが貰って置こう。
第二の盗人 こん畜生(ちくしょう)! 貴様なぞに渡してたまるものか。
第一の盗人 よくもおれを撲(なぐ)ったな。――おや、またおれの剣も盗んだな?
第三の盗人 何だ、このマントル泥坊め!


三人の者が大喧嘩(おおげんか)になる。そこへ馬に跨(またが)った王子一人、森の中の路を通りかかる。


王子 おいおい、お前たちは何をしているのだ? (馬から下りる)
第一の盗人 何、こいつが悪いのです。わたしの剣を盗んだ上、マントルさえよこせと云うものですから、――
第三の盗人 いえ、そいつが悪いのです。マントルはわたしのを盗んだのです。
第二の盗人 いえ、こいつ等(ら)は二人とも大泥坊です。これは皆わたしのものなのですから、――
第一の盗人 嘘をつけ!
第二の盗人 この大法螺吹(おおぼらふ)きめ!


三人また喧嘩をしようとする。


王子 待て待て。たかが古いマントルや、穴のあいた長靴ぐらい、誰がとっても好(い)いじゃないか?
第二の盗人 いえ、そうは行きません。このマントルは着たと思うと、姿の隠れるマントルなのです
第一の盗人 どんなまた鉄の兜(かぶと)でも、この剣で切れば切れるのです。
第三の盗人 この長靴もはきさえすれば、一飛びに千里飛べるのです。
王子 なるほど、そう云う宝なら、喧嘩をするのももっともな話だ。が、それならば欲張(よくば)らずに、一つずつ分ければ好(い)いじゃないか?
第二の盗人 そんな事をしてごらんなさい。わたしの首はいつ何時(なんどき)、あの剣に切られるかわかりはしません。
第一の盗人 いえ、それよりも困るのは、あのマントルを着られれば、何を盗まれるか知れますまい。
第二の盗人 いえ、何を盗んだ所が、あの長靴をはかなければ、思うようには逃げられない訣(わけ)です。
王子 それもなるほど一理窟(ひとりくつ)だな。では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか? そうすれば心配も入らないはずだから。
第一の盗人 どうだい、この殿様に売ってしまうのは?
第三の盗人 なるほど、それも好(い)いかも知れない。
第二の盗人 ただ値段次第だな。
王子 値段は――そうだ。そのマントルの代りには、この赤いマントルをやろう、これには刺繍(ぬいとり)の縁(ふち)もついている。それからその長靴の代りには、この宝石のはいった靴をやろう。この黄金細工(きんざいく)の剣(けん)をやれば、その剣をくれても損はあるまい。どうだ、この値段では?
第二の盗人 わたしはこのマントルの代りに、そのマントルを頂きましょう。
第一の盗人と第三の盗人 わたしたちも申し分はありません。
王子 そうか。では取り換(か)えて貰おう。


王子マントル、剣、長靴等を取り換えた後(のち)、また馬の上に跨(またが)りながら、森の中の路を行きかける。


王子 この先に宿屋はないか?
第一の盗人 森の外へ出さえすれば「黄金(きん)の角笛(つのぶえ)」という宿屋があります。では御大事にいらっしゃい
王子 そうか。ではさようなら。(去る)
第三の盗人 うまい商売をしたな。おれはあの長靴が、こんな靴になろうとは思わなかった。見ろ。止(と)め金(がね)には金剛石(ダイヤモンド)がついている。
第二の盗人 おれのマントル立派(りっぱ)な物じゃないか? これをこう着た所は、殿様のように見えるだろう。


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