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三つの民主主義 婦人民主クラブの立場に就て - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

  • ●現代世界の民主主義 C.B.マクファーソン・著 岩波新
  • 民主主義文学とはなにか 文学運動と作家・作品論★津田孝
  • 「イスラームと民主主義」ファティーマ・メルニーシー
  • 2000年コンゴ民主主義共和国野生保護銀貨プルーフ
  • 戦後民主主義文学運動史Ⅰ ☆佐藤静夫
三つの民主主義 ――婦人民主クラブ立場に就て――  これまでの日本婦人は、よろこびも悲しみ自分のめぐり合わせとして孤立して生きて来た。そういう生活を、もっとひろい社会動きの中に解放して婦人生活を明るくつよく創造の力にみちたものにしてゆくと共に日本民主社会健全な生長のために協力したいというのが、婦人民主クラブの初めからの希望である。
 僅か七八人の小さい集りとして発足してから半年ほど経った今日は、全国に数百人のクラブ員ができ、婦人民主新聞が発刊される手筈になったし、秋からクラブと特別な関係をもつ雑誌も発行されるようになった。そして、私たちがまだ未熟で、クラブとしての運営の形も十分ととのいきれないうちに、日本社会の事情は目まぐるしく前進した。そして、本当に婦人たちの自発的な気もちから生れた婦人団体というものが日本に殆どないために、新しい日本建設の一つの要素として多方面の接触をもつようになって来た。
 この事情は、クラブの社会的な存在意義というものを、いつとはなしくっきりと彫り出して来た。これからは、益々いろいろな文化団体との連繋もふえ、活動の面もふえ、若い新鮮なクラブ員の能力が十分発揮されるようになって来るだろう。これはうれしいことだと思う。それにつけて私たちクラブ員は、一つのことをはっきり理解しておいていろいろの場合クラブとしての処置や判断を誤らないようにしたい。私たちは何はともあれ婦人民主クラブ員なのだから、日本今日民主主義歴史的な性質、方向などについて、簡単ながら間違いない理解をもっていた方が便利だろう。
 今日世界には三つの民主主義がある。ブルジョア民主主義、新民主主義社会主義民主主義アメリカイギリスフランス諸国は、歴史の歩みのうちにすっかり封建的なものをすて去ったブルジョア民主国家であり、日本中国等は現在民主主義の段階にあるし、ソヴェト同盟は、社会主義民主主義社会をもっている。
 新民主主義社会というのは一つの歴史の時期の上に、二様の歴史の発展の波がうちよせているような中国日本の、今日より明日への姿である。経済政治すべてに封建の力がつよく支配していて、それを出来るだけ早くとりのぞき、まず近代ブルジョア民主主義を完成しなければならないのだから中国日本などの歴史では、ヨーロッパ諸国で十八世紀、十九世紀の間にブルジョア民主主義を完成した市民社会ブルジョアジー階級としての確立がなかった。
 日本では明治維新以来次第に銀行資本産業資本結合した独占資本の形は発達したが、生産格式はおくれた半封建中小企業基礎とし、軽工業基礎とし、植民地賃銀といわれる低賃銀で男女勤労者を働かして来た。土地関係徳川時代と変りない地主小作関係がつづき、年貢を米、麦等現物でおさめ、耕作方法機械化されていない。今日までの政治で、一般人民がどんなに無権利であったかを思い出せば、日本近代市民社会の無かったことは明瞭である。ほんの一握りの大地主、財閥封建的支配して来たが、その権力日本の経済政治民主化させる実力をもたず、己の利益のために侵略戦争をひき起し、日本破壊した。
 日本を不幸にした特権者の封建支配よりすべての日本国民解放し、ブルジョア民主主義を完成する能力をもつものは、今日日本人民の多数を占める男女勤労者であり、勤労階級である。
 ヨーロッパ諸国では十七、八世紀頃よりブルジョアジー階級として民主化の遂行者として現れ、市民社会をつくり、その任務をつくした。日本では、きのうまで半封建で、急に民主化がされなければならないから、ヨーロッパ歴史二世紀ほどが飛んで、すぐ、日本近代民主化の遂行者勤労階級しかない現実があらわれたのである。おくれた国の歴史は或る時期に飛躍する。それが現実である。
 順序をふんで民主化が行われた国であれば勤労階級主体となって進む民主主義社会主義民主主義である筈である。が中国日本は、そうでない。ブルジョア独裁民主主義でもなく、さりとてプロレタリア独裁民主主義でもあり得ない中国日本今日より明日へデモクラシーを、新民主主義と呼ぶわけである。
 封建のしきたりと無権利とに苦しんでいた勤労大衆中産階級知識人婦人などの生活は実にこの勤労階級主軸として進展する日本の新民主主義の完成がなければ、幸福は決して約束されない。婦人解放などは実現しない。
 婦人民主クラブは、日本の歴史の特長によって新民主主義を完成するのが日本人真面目な唯一の目的であることを理解しなければならないと思う。
 全日本婦人大会というものが神近市子氏、深尾須磨子氏、平林たい子氏によって提案され、クラブ員が個人として招待されたとき、婦人民主クラブが、そういう種類の会の成立に反対したことは、右のような客観理由をもっていたのである。
 日本の真の民主化のために、保守反動の旧勢力を代表する婦人代議士までをこめた一握りの婦人鼓舞するために、三十もの労働組合婦人部を動員するなどという方法は、日本民主化歴史の逆転である。救国民主連盟の提案は、大衆運動部の組織によって、労働組合の本来の性質を歪める危険をもっていた。この案が労働組合の不賛成で停頓したことは当然であった。ブルジョア婦人運動時代は、日本の新民主主義の段階の到来とともに去って、再びかえらないのである。
 婦人民主クラブはこれからも様々場合にめぐり合うことだろう。全クラブ員が、日本今日歴史が立っているところと、クラブの民主主義に対する純潔立場とを心から会得していれば、益々日本のため、婦人のためにたのもしい一つのつつましい存在となってゆけるであろうと思う。
〔一九四六年八月



底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年5月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「婦人民主新聞第一
   1946(昭和21)年8月22日号
入力柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
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