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不思議なる空間断層 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )

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  • JTA機内誌コーラルウェイCoralway2010.5/6 西表島 不思議発見!
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 友人の友枝八郎は、ちょっと風変りな人物である。どんなに彼が風変りであるか、それを知るには、彼が私によく聞かせる夢の話を御紹介するのが捷径(はやみち)であろう。
 かれ友枝は、好んで夢の話をした。彼が見る夢は、たいへん奇妙でもあり、そして随分しっかりした内容をもっていて、あまり夢を見ることのない私などにとっては、美しくもあれば、ときにはまた薄気味わるく感ずることもあるのだ。(乃公(おれ)は夢で、同じ町を幾度となく見る)と、彼は空ろな眼をギロリと動かしていうのであった。(……ああ、いつか来た町へまた出たよ、とそう感付くのだよ。すると、夢の中だけで知り合いになったいろいろな顔の人物が、あとからあとへと現われてくるのだ。年配の男もあれば、妙齢の女もある。……乃公はその不思議人物たちと、永い物語の次をまた続けてするように、前後があった話をし合うのだ。しかしどっちかというといつも似たようなことを繰返していて、ああ、この次はこうなるな――と思うと、きっとそのようになってゆくのだ。おかしいほど、乃公の想像が適中するのだよ。それからもう一つ奇妙なことがある。それは乃公のこの顔だ。その夢の中で、乃公は一つの顔を持っているが、その顔というのが、なんと今君が見ている乃公の顔とは全然違った顔なのだ。顔色だってこんなに青白いんではない、赤銅色に赭(あか)いとでもいうか。顔の寸法も、もっと長く、鼻はきりりとひきしまり、口もたいへんに大きくて、そして眼光なんか、実にもう生々としているのだ。その上に、頭髪なんども、毛がふさふさとしていて立派だし、それに勇ましい髭なんか生やしているんだ。――その豪そうな顔の男が夢の中の乃公なのさ。どうだ、随分と不思議な話だろう。だから乃公はどうかすると変なことを考えるんだ。あの夢に見る町や人々がどこかにチャンと実在するのじゃないか。乃公の魂は一つだけれど、顔の違った二つの肉体を持っているのじゃないか、などとね。ああ君は乃公の夢の話を軽蔑しているね。君の顔色で、そう思っているってことがよく判るよ。じゃあ、乃公はもっと不思議な恐ろしい話を聞かせてあげるよ、すくなくとも君の鼻の頭に浮んでいる笑いの小皺(こじわ)が消えてしまうほどの話をね。それは最近乃公が経験したばかりの実話なんだぜ)


     1


 或る日、一つの夢を見た。
 乃公(おれ)は長い廊下を歩いていた。不思議なことに、窓が一つもない廊下なんだ。天井も壁もすべて黄色でね、とても大変長いのだ、両側には、一定の間隔を置いて、同じような形をしたドーアが並んでいた。乃公はそのドーアのハンドルを一つ一つ、眼だけギロリと動かしながら検分してゆくのだ。そのハンドルは皆真鍮色をしているんだったが、五つ目だったか六つ目だったかに、ただ一つピカピカ金色をしたハンドルがあるのだ、それは確か廊下の左側だったよ。
金色ハンドル!」
 燦然(さんぜん)たるハンドルの前までくると、乃公の手はひとりでにそのドーアの方へ伸びてゆくのだった。その黄金ハンドルを握って、グルリとまわして、向うへ押すのだった。無論いつだってそのドーアは向うへやすやすと明いたさ。乃公は吸いこまれるように、その室の中へ入ってゆくのだった。
 その部屋は十坪ほどのがらんとした客間だった。真ん中に赤い絨毯(じゅうたん)が敷いてあってね、その上に水色の卓子(テーブル)と椅子とのワン・セットが載っているのだ。卓子の上にはスペイン風のグリーン花瓶が一つ、そして中にはきまって淡紅色カーネーションが活(い)けてあった。
 この部屋はたいへん風変りな作りだった。それが乃公の気に入っていたわけだが、奥の方の壁に大きな鏡が嵌(は)めこんであったのだ。それは髪床(かみどこ)の鏡よりももっと大きく、天井から床にまで達する大姿見で、幅も二間ほどあり、その欄間(らんま)には凝(こ)った重い織物出来ている幅の狭いカーテン左右に走っていた。カーテンの色は、生憎その鏡のある場所が小暗(こぐら)いためよくは判らなかったが、深い紫のように見えた。もちろんその鏡の上には、こっちの部屋の調度などがそのまま反対に映っていた。乃公は部屋に入ると、第一番につかつかとその鏡の前まで進み、自分の顔をみるのが楽しみだった。鏡の位置が奥まって横向きになっていたため、鏡の前へ立たないと自分の顔は見えなかった。――乃公はそこでいつも勇ましい自分の顔を惚(ほ)れ惚(ぼ)れと見つめるのだった。ヴィクトルエマヌエル第一世はこんな顔をしていたように思うなどと、私は反身(そりみ)になった。鏡の中の乃公の姿も、得意そうに、反身になったことである。
 鏡の前で、さんざん睨(にら)めっこや、変な表情や滑稽な身ぶりをして楽しんでいると、背後に突然人声がしたのだった。
「お飲みものは如何さまで……」
 それは若い男の声だった。


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