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久助君の話 - 新美 南吉 ( にいみ なんきち )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
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 久助(きゅうすけ)君は、四年から五年になるとき、学術優等品行方正のほうびをもらってきた。  はじめて久助君がほうびをもらったので、電気会社の集金人であるおとうさんは、ひじょうにいきごんで、それからは、久助君が学校から帰ったらすぐ、一時間勉強することに規則をきめてしまった。
 久助君は、この規則を喜ばなかった。一時間たって、家の外に出てみても、近所に友だちが遊んでいないことが多いので、そのたびに、友だちをさがして歩かねばならなかったからである。
 秋のからりと晴れ午後のこと、久助君は柱時計(はしらどけい)が三時半をしめすと、「ああできた」と、算術教科書をパタッととじ、つくえの前を立ちあがった。
 外に出るとまばゆいように明るい。だが、やれやれ、きょうもなかまたちの声は聞こえない。久助君は、お宮の森の方へ耳をすました。
 森は、久助君のところから三町ははなれていたが、久助君は、そこに友だちが遊んでいるかどうかを、耳で知ることができるのだった。だが、きょうは、森はしんとしていて、うまい返事をしない。つぎに久助君は、反対の方の、夜学校のあたりにむかって耳をすました。夜学校も三町ばかりへだたっている。だが、これもよいあいずをおくらない。
 しかたがないので久助君は、かれらの集まっていそうな場所をさがしてまわることにした。もうこんなことが、なんどあったかしれない。こんなことはほんとにいやだ。
 最初、久助君は、宝蔵倉(ほうぞうぐら)の前にいってみた、多分の期待をもって。そこで、よくみんなはキャッチボールをするから。しかしきてみると、だれもいない。そのはずだ、豆が庭いっぱいにほしてある。これじゃ、なにもして遊べない。
 そのつぎに久助君は、北のお寺へいった。ほんとうはあまり気がすすまなかったのだ。というのは、そこは、べつの通学団の遊び場所だったから。しかし、こんなよい天気の日にひとりで遊ぶよりはましだったので、いったのである。が、そこにも、たけの高いはげいとうが五、六本、かっと秋日にはえて、鐘撞堂(かねつきどう)の下に立っているばかりで、犬の子一ぴきいなかった。
 まさか医者の家へなんか集まっていることもあるまいが、ともかくのぞいてみようと思って、黄色(きいろ)い葉のまじった豆畑のあいだを、徳一(とくいち)君の家の方へやっていった。そのとちゅう、ほし草の積みあげてあるそばで、兵太郎(へいたろう)君にひょっくり出あったのである。
 兵太郎君は、みんなからほら兵とあだ名をつけられていたが、まったくそうだった。こんなうなぎをつかんだといって、両方の手の指で、てんびんぼうほどの太さをして見せるので、ほんとうかと思っていってみると、筆ぐらいのめそきんが、井戸ばたの黒いかめの底にしずんでいるというふうである。また、兵太郎君はおんちで、君が代もろくろくうたえなかったが、いっこうそんなことは気にせず、みんなが声をそろえてうたっていると、すぐ唱和するので、みんなは調子がへんになって、やめてしまうのであった。だが、わる気はないので、みんなにきらわれてはいない。ときどき鼻をすこし右にまげるようにして、キュッと音をたててすいあげるのと、わらうとき、ゆかの上だろうが道の上だろうが、ところきらわず下にころがるくせがあった。
 体操(たいそう)のとき、久助君のすぐ前なので、久助君は、かれの頭のうしろがわに、いくつ、どんな形のはげがあるかをよく知っている。
 兵太郎君は、手ぶらで、へんにうかぬ顔をしていた。
「みんな、どこにいったか知らんかァ」
と、久助君がきいた。
「知らんげや」
と、兵太郎君がこたえた。そんなことなんか、どうでもいいという顔をしている。まるたんぼうのはしを、大工(だいく)さんがのみで、ちょっちょっとほってできたようなその顔を、久助君はまぢかにつくづくと見た。
徳一がれにいやひんかァ」
と、久助君がまたきいた。
「いやひんだらァ」
と、兵太郎君がこたえた。赤とんぼが、兵太郎君のうしろを通っていって、ほし草にとまった。そのはねが、日の光をうけてきらりと光った。
「いってみよかよォ」
と、久助君がじれったそうにいった。
「ううん」
と、兵太郎君はなま返事をした。
「なァ、いこうかよォ」
と、久助君はうながした。
「んでも、徳やん、さっきおっかンといっしょに、半田の方へいきよったぞ」
と、兵太郎君はいって、つよいかおりをはなっているほし草のところへ近づき、なかばころがるようにもたれかかった。
 久助君は、徳一君のところにもなかまたちはいないことがわかって、がっかりした。が、兵太郎君の動作(どうさ)をみたら、きゅうに、ここで兵太郎君とふたりきりで遊ぼう、それでも十分おもしろいという気がわいてきた。ほし草の積んであるところとか、つぼけ(藁積(わらぐま))のならんでいるところは、子どもには、ひじょうにたくさん楽しみをあたえてくれるものだ。


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