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亀さん - 林 芙美子 ( はやし ふみこ )

  • 【林芙美子】林芙美子 集英社刊 日本文学全集48 
  • 林芙美子『林芙美子傑作集』新潮文庫
  • 林芙美子 ちくま日本文学全集 文庫版
  • 文庫★絵本猿飛佐助★林芙美子
  • 昭和12年『林芙美子選集/人生賦』初版*装丁:中川一政
  • ★「稲妻」林芙美子 昭21初版 飛鳥書店★
  • 林芙美子傑作集 新潮文庫 昭和27年発行 11作品
  • 今川英子★林芙美子 巴里の恋 巴里の小遣ひ帳 1932年の日記 初版
  • 林芙美子☆日本文学全集☆放浪記,牡蠣,浮雲☆集英社☆即決
  • 日本文学全集48 【林芙美子集】
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龜さん  むっくり、むっくり、誰もとおらない田舍みちを、龜さんが荷物を首にくくりつけて旅をしていました。みちの兩側は廣い麥畑です。
 麥畑の上をすずしい風がそよそよと吹いています。「ああ、くたびれた。どこへ行ったら水があるのかな。」龜さんは首を持ちあげて、じっとあたりをみました。
 どこかで蛙の合唱がきこえます。何でも、このへんには蛙の小學校があるのでしょう。聲をはりあげて蛙がうたっています。龜さんは荷物をおろして、どっこいしょと石ころの上にはい上がってやすみました。
「おいおい、誰だ、重くてつぶれそうだよ。」
 小さい聲がきこえます。龜さんはびっくりして石から降りました。
「誰だね……。」
 龜さんがきょとんとしている眼の前に、にょろにょろと小さいみみずが出てきました。龜さんはびっくりして
「ああおどろいた。」
 といいました。みみずはまだ子供です。
「おいおいみみずさん、このへんに水をのむところはないかね。」
 龜さんがききました。みみずは赤いからだをくねくねうごかして、「もう、すぐそこにあるよ。」と教えてくれました。みみずは大きい龜さんをみて、どうもこのへんにはみかけない龜だとおもって、
おじさんはどっから來たの。」
 とたずねました。龜さんは腰からタバコ入れを出してタバコを一ぷくつけて吸いました。
「わたしは遠いところから來たのだよ。汽車に乘ってね、二日もかかってここへ來たのさ。どこか働くところはないかと思ってね。」
「ふうん、おじさん貧乏なんだね。」
「うん、貧乏なのさ、だから、うんと働いてお金をためてかえろうと思うのさ……。」
「何をして働くの。」
「そうだね、おひっこしの手傳い人夫でもしょうかと思ってるンだけどね。」
 みみずはおかしくなって笑いました。だって、のろのろしている龜のおじさんに、お引越しをたのむものはないだろうと思ったからです。
「わたしは朝から何もたべないのだよ。おなかがぺこぺこだけど、このへんに飯屋はないかね。」
「こんな田舍に飯屋なんてありゃアしないよ。ここは蛙縣の蛙村といって、この村へ來たからには、蛙の村役場に行って、とどけをするンだよ。」
「ほう、蛙村というところかね。――どんなとどけをするのかね。」
村役場へ行って、村長ちょっと顏をみせればいいのさ。おじさんの話次第では、宿屋もみつけてくれるかもしれないよ。」
「ほう、村長はやさしいのかね。」
「やさしい時なンてめったにないけれど、おだてのきく蛙村長だから、そのつもりで行けば何でもないよ。」
「いい景色の村だね。金持ぞろいが住んでいるみたいだね。」
「なアに、金なんてありゃアしないよ。みんな貧乏なのさ。おしゃべりが好きだから、仕事なんかしないで會議ばかりしているので、金なんかすこしもありゃアしないよ。」
 みみずはまぶしそうにお陽さまをみています。


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