事変第三年を迎へて - 岸田 国士 ( きしだ くにお )
岸田國士
感想をもとめられて、今、私は改めて云ふこともないが、国民の一人として、今年こそは東亜の天地に黎明がおとづれることを祈るものである。
もちろん、戦さの長びくのは止むを得ない。しかし、戦さが続いてゐる間、国民全体がたゞ政府の一挙手一投足にのみ眼を注いでゐるといふ状態ではまだ物足りぬと思ふ。さあ今度はかうしろと指図を受け、それがどんな犠牲であらうとも、国民の一人一人が、甘んじてこれに従ふことも刻下の急務であるけれども、それ以上に、おの/\の職分と資質に応じて、今や何をなすべきかを的確に知り、これに向つて一路邁進し得る状勢が到来することは、国民の何人も望んでやまないところであらう。
事変勃発以来、所謂「国民精神」の総動員は十分に、しかも殆んど自発的に完了し得た結果、われわれの対敵行動に応ずる戦時の姿勢はゆるぎなきものとなつてゐるやうに思ふ。たゞ、これまでの経過を見ても、日本軍は大いにその真価を発揮し、天下無敵の実力を示すには示したが、一方、支那も相当に頑張り、長期抗戦の夢は今にも破れさうにみえて案外さうでもない不思議な根強さをもつてゐることがわかつた。
わが国民はこの事実の前に新な認識をもつて起ち上らねばならぬ。当分、片手に武器を放すわけに行かぬと同時に、もう一方の手を自在に働かすことが必要である。「長期建設」といふ言葉は、それによつてはじめて意義を生ずるのである。私は、この国家的大事業を遂行するために、もう標語の製作や歌の合唱は不必要だと思ふ。国民の精神的能力が、直にその目的のために動員せられ、ひとつの組織を通じてそれぞれの活動を開始すべき時期なのである。
恐らく現在、国内にあつて祖国の運命に想ひをひそめつゝある知識人の悉くは、如何にして自己の才能と技術と、殊にその文化的感覚とを時局の発展に沿つて役立たせるかといふ一点で、もはやその身構へだけはできてゐるのである。部署が与へられ、「出発」の命令が与へられゝばいゝのである。
過去一年半の朝夕、国民は、大陸の野に山にじりじりと押し進められるわが武力の輝かしい足跡を追ひつゞけたのである。それは、しかし、悲壮な勝利に酔ふといふやうなものではなかつた。いろいろな教訓をさへ得たのである。その意味において、われわれの軍隊の進撃は、新しい世紀を導く象徴的なひとつの姿であつたと云つていゝ。
来るべき年こそは、国民を挙げての、所謂「建設」への大行軍が始まるであらうことを、私は期待するものである。(「東京朝日新聞」昭和十四年一月一日)
底本:「岸田國士全集24」岩波書店
1991(平成3)年3月8日発行
底本の親本:「現代風俗」弘文堂書房
1940(昭和15)年7月25日発行
初出:「東京朝日新聞」
1939(昭和14)年1月1日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年7月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
事変勃発以来、所謂「国民精神」の総動員は十分に、しかも殆んど自発的に完了し得た結果、われわれの対敵行動に応ずる戦時の姿勢はゆるぎなきものとなつてゐるやうに思ふ。たゞ、これまでの経過を見ても、日本軍は大いにその真価を発揮し、天下無敵の実力を示すには示したが、一方、支那も相当に頑張り、長期抗戦の夢は今にも破れさうにみえて案外さうでもない不思議な根強さをもつてゐることがわかつた。
わが国民はこの事実の前に新な認識をもつて起ち上らねばならぬ。当分、片手に武器を放すわけに行かぬと同時に、もう一方の手を自在に働かすことが必要である。「長期建設」といふ言葉は、それによつてはじめて意義を生ずるのである。私は、この国家的大事業を遂行するために、もう標語の製作や歌の合唱は不必要だと思ふ。国民の精神的能力が、直にその目的のために動員せられ、ひとつの組織を通じてそれぞれの活動を開始すべき時期なのである。
恐らく現在、国内にあつて祖国の運命に想ひをひそめつゝある知識人の悉くは、如何にして自己の才能と技術と、殊にその文化的感覚とを時局の発展に沿つて役立たせるかといふ一点で、もはやその身構へだけはできてゐるのである。部署が与へられ、「出発」の命令が与へられゝばいゝのである。
過去一年半の朝夕、国民は、大陸の野に山にじりじりと押し進められるわが武力の輝かしい足跡を追ひつゞけたのである。それは、しかし、悲壮な勝利に酔ふといふやうなものではなかつた。いろいろな教訓をさへ得たのである。その意味において、われわれの軍隊の進撃は、新しい世紀を導く象徴的なひとつの姿であつたと云つていゝ。
来るべき年こそは、国民を挙げての、所謂「建設」への大行軍が始まるであらうことを、私は期待するものである。(「東京朝日新聞」昭和十四年一月一日)
底本:「岸田國士全集24」岩波書店
1991(平成3)年3月8日発行
底本の親本:「現代風俗」弘文堂書房
1940(昭和15)年7月25日発行
初出:「東京朝日新聞」
1939(昭和14)年1月1日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年7月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
岸田 国士 (きしだ くにお) 以外のオススメ作品
事変第三年を迎へて (じへんだいさんねんをむかえて) のリンク元
「事変第三年を迎へて-岸田 国士」の関連ページ
-
コメント/・国士無双の兎 ~破壊録~ - 東方対戦録wiki - 東方対戦録wiki
キャーコクシサーン - bremi 2010-02-01 215858 -
国士無双の優先権 - 麻雀ローカルルールWiki - 麻雀ローカルルールWiki
読みこくしむそうのゆうせんけん種別和了に関するルール別名解説ダブロンやトリロンを認めないとき、複数の和了者の中に国士無双の和了者がいた場合、頭ハネにかかわらず国士 -
麻雀 - futene_2ch @ ウィキ - futene_2ch @ ウィキ
回数 四暗刻 17回 大三元 16回 国士無双 15回 数え役満 10回 小四喜 5回 字一色 4回 四暗刻単騎 2回 九連宝燈 1回 清老頭 1回役満記録 日付 -
か行/き/岸田愛子 - ゴルフくちこみリンク&掲示板 - ゴルフくちこみリンク&掲示板
岸田愛子をお気に入りに追加くちこみリンクSat, 30 Ma社長秘書はインテリ痴女Sun, 01 Ap画面を見るなら脇からに「すみれの花咲く頃」Fri, 29 Deすみ花ちゃんと白姫あかりちゃん…が -
自民/か行/岸田文雄 - 永田町二丁目情報部 - 永田町二丁目情報部
岸田文雄をお気に入りに追加くちこみリンクTue, 18 De歯科医療未来へのアーカイブスⅤ 混合診療、全面解禁せず‐舛添、岸田 ...Thu, 15 Ocニコブログ 森喜朗元首相 民主 -
か行/き/岸田愛子 - ゴルフくちこみリンク&掲示板 - ゴルフくちこみリンク&掲示板
岸田愛子をお気に入りに追加引っ越しました!新しいサイトはこちらをクリックrakuten_design=slide;rakuten_affiliateId=04a91095.52a5fed9 -
住人一覧/か行/国士無双 - ポケガイ @wiki - ポケガイ @wiki
名前:国士無双履歴: 名言: 「国士無双」とは?その他補足「」に関するリンク「国士無双」とは?ぷよぷよや麻雀が強い人。ぷよぷよ廃人たちとぷよぷよをやりあう仲。過去に一度だけ(ゲームで)麻雀にて国士 -
第三話 ――書庫の魔導師―― - MapleStoryOnBrowser2@VIP - MapleStoryOnBrowser2@VIP
の魔導師――「岸田さん、いるかい?」かび臭い湿った空気と、獣脂の蝋燭が燃える匂いが交じり合ったルディブリアム城の地下書物庫。辺りに満ちた怪しげな雰囲気に、ビプ妹の周囲をふよふよ漂う精霊たちも不安げにしている。「やあ -
第三話 ――書庫の魔導師―― - MapleStoryOnBrowser2@VIP - MapleStoryOnBrowser2@VIP
の魔導師――「岸田さん、いるかい?」かび臭い湿った空気と、獣脂の蝋燭が燃える匂いが交じり合ったルディブリアム城の地下書物庫。辺りに満ちた怪しげな雰囲気に、ビプ妹の周囲をふよふよ漂う精霊たちも不安げにしている。「やあ -
きみの朝 - sakiop @ ウィキ - sakiop @ ウィキ
プニング 君の鐘だよ オープニング オープニング 君の鐘だよ ♪ 元歌 きみの朝 歌手:岸田智史 作詞:岡本おさみ 作曲:岸田智史
