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二つの手紙 - 芥川 竜之介 ( あくたがわ りゅうのすけ )

  • 【手紙文】◆◆若い人の手紙文◆◆淡路まもる◆◆文進堂◇◆◆
  • ◎R-23751 ふみの日切手帳 ぞうと手紙 花と手紙 ゆうペーン1点
  • ◎R-23750 ふみの日切手帳 ぞうと手紙 花と手紙 ゆうペーン1点
  • ◎R-23748 ふみの日切手帳 ぞうと手紙 花と手紙 ゆうペーン1点
  • ◎R-23749 ふみの日切手帳 ぞうと手紙 花と手紙 ゆうペーン1点
  • ふみの日シール式切手帳 (ネコと手紙・妖精と手紙) 未使用1
  • 絵手紙☆たのしい絵手紙・年賀状 谷口眞仙編☆
  • No.4211 十二人の手紙…手紙だけが物語る迫真の人間喜劇
  • 新潮文庫 若き詩人への手紙 若き女性への手紙 リルケ
  • ☆ふみの日/ゆうペーン/ぞうと手紙&花と手紙 シート☆
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芥川龍之介  ある機会で、予(よ)は下(しも)に掲げるを手に入れた。一つは本年二月中旬、もう一つは三月上旬、――警察署長の許へ、郵税|先払(さきばら)いで送られたものである。それをここへ掲げる理由は、手紙自身が説明するであろう。

     第一手紙

 ――警察署長閣下(かっか)、
 先ず何よりも先に、閣下は私(わたくし)の正気(しょうき)だと云う事を御信じ下さい。これ私があらゆる神聖なものに誓って、保証致します。ですから、どうか私の精神異常がないと云う事を、御信じ下さい。さもないと、私がこの手紙閣下に差上げる事が、全く無意味になる惧(おそれ)があるのでございます。そのくらいなら、私は何を苦しんで、こんな長い手紙書きましょう。
 閣下、私はこれを書く前に、ずいぶん躊躇(ちゅうちょ)致しました。何故(なにゆえ)かと申しますと、これを書く以上、私は私一家の秘密をも、閣下の前に暴露しなければならないからでございます。勿論それは、私の名誉にとって、かなり大きな損害に相違ございません。しかし事情はこれを書かなければ、もう一刻の存在苦痛なほど、切迫して参りました。ここで私は、ついに断乎たる処置を執る事に、致したのでございます。
 そう云う必要に迫られて、これを書いた私が、どうして、狂人扱いをされて、黙って居られましょう。私はもう一度、ここに改めてお願い致します。閣下、どうか私の正気だと云う事を御信用下さい。そうして、この手紙を御面倒ながら、御一読下さい。これは私が、私と私の妻との名誉を賭(と)して、書いたものでございますから。
 かような事を、くどく書きつづけるのは、繁忙な職務を御鞅掌(ごおうしょう)になる閣下にとって、余りに御迷惑を顧みない仕方かも知れません。しかし、私の下(しも)に申上げようとする事実の性質上、閣下が私の正気だと云う事を御信用になるのは、どうしても必要でございます。さもなければ、どうしてこの超自然事実を、御承認になる事が出来ましょう。どうして、この創造的精力の奇怪な作用を、可能視なさる事が出来ましょう。それほど、私が閣下の御留意を請いたいと思う事実には不可思議な性質が加わっているのでございます。ですから、私は以上のお願いを敢て致しました。猶(なお)これから書く事も、あるいは冗漫(じょうまん)の譏(そしり)を免れないものかも知れません。しかし、これは一方では私の精神に異状がないと云う事を証明すると同時に、また一方ではこう云う事実も古来決して絶無ではなかったと云う事をお耳に入れるために、幾分の必要がありはしないかと、思われるのでございます。
 歴史上、最も著名な実例の一つは、恐らくカテリナ女帝に現われたものでございましょう。それからまた、ゲエテに現れた現象も、やはりそれに劣らず著名なものでございます。が、これらは、余り人口に膾炙(かいしゃ)しすぎて居りますから、ここにはわざと申上げません。私は、それより二三の権威ある実例によって、出来るだけ手短(てみじか)に、この神秘事実の性質を御説明申したいと思います。まず Dr. Werner の与えている実例から、始めましょう。彼によりますと、ルウドウィッヒスブルクの Ratzel と云う宝石商は、ある夜|街(まち)の角をまがる拍子に、自分と寸分もちがわない男と、ばったり顔を合せたそうでございます。その男は、後(のち)間もなく、木樵(きこ)りが※の木を伐り倒すのに手を借して、その木の下に圧されて歿(な)くなりました。これによく似ているのは、ロストック数学教授をしていた Becker に起った実例でございましょう。ベッカアはある夜五六人の友人と、神学上の議論をして、引用書が必要になったものでございますから、それをとりに独り自分書斎へ参りました。すると、彼以外の彼自身が、いつも彼のかける椅子(いす)に腰をかけて、何か本を読んでいるではございませんか。ベッカアは驚きながら、その人物の肩ごしに、読んでいる本を一瞥(いちべつ)致しました。本はバイブルで、その人物右手の指は「爾(なんじ)の墓を用意せよ。爾は死すべければなり」と云う章を指さして居ります。ベッカアは友人のいる部屋へ帰って来て、一同に自分の死の近づいた事を話しました。そうして、その語(ことば)通り、翌日の午後六時に、静に息をひきとりました。
 これで見ると、Doppelgaenger の出現は、死を予告するように思われます。が、必ずしもそうばかりとは限りません。Dr. Werner は、ディレニウス夫人と云う女が、六歳になる自分息子と夫の妹と三人で、黒い着物を着た第二の彼女自身を見た時に、何も変事の起らなかった事を記録しています。これはまた、そう云う現象が、第三者の眼にも映じると云う、実例になりましょう。Stilling 教授が挙げているトリップリンと云うワイマアルの役人の実例や、彼の知っている某(なにがし)M夫人の実例も、やはり、この部類に属すべきものではございませんか。
 更に進んで、第三者のみに現れたドッペルゲンゲルの例を尋ねますと、これもまた決して稀(まれ)ではございません。現に Dr. Werner 自身もその下女二重人格を見たそうでございます。次いで、ウルムの高等裁判所長の Pflzer と申す男は、その友人官吏が、ゲッティンゲンにいる息子の姿を、自分書斎で見たと云う事実に、確かな証明を与えて居ります。そのほか、「幽霊の性質に関する探究」の著者が挙げて居りますカムパアランドのカアクリントン教会区で、七歳の少女がその父の二重人格を見たと云う実例や「自然暗黒面」の著者が挙げて居りますH某(ぼう)と云う科学者芸術家だった男が、千七百九十二年三月十二日の夜、その叔父二重人格を見たと云う実例などを数えましたら、恐らくそれは、夥(おびただ)しい数(すう)に上る事でございましょう。


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