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五ヵ年計画とソヴェトの芸術 - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

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        短い前書  ソヴェト同盟生産面における五ヵ年計画というものは、今度はじめて試みられたものではなかった。誰でも知る通りソヴェト同盟の全生産国家計画部と最高経済会議とが中心となって生産組合職業組合との共力のもとに、年々計画的に行われて来ている。計画生産である。記念すべき一九一七年からソヴェト同盟は年々当面の生産計画とともに常に先へ先へ五ヵ年位ずつ一まとめにした生産拡大計画をもって進んで来た。一九二八―九年の経済年度から今回の五ヵ年計画が着手された時、資本主義国の「通」は先ず云った。「何だ! 別に珍しいことじゃないよ。ソヴェトではこれまでだって五ヵ年計画でやって来たんだ。」それから、続けて云った。「ところで、この五ヵ年計画なるものだが、どうだ、この途方もない生産拡大予算は! 愈々共産主義の非確実性を露出しはじめたぞ。」ドイツやアメリカブルジョア学者はそれを学理的にうらづけた。が、其等は資本主義国の生産事情にとっては、まことに誇大妄想的拡大であるかもしれないが、ソヴェト同盟にとっては全然実現可能の必要欠くべからざる生産拡張計画であると同時に、今度の五ヵ年計画はその社会意味に於てこれまでのものとは非常違うことを、五ヵ年計画二年間に実証した。
 レーニンソヴェト同盟重工業を振興させ、労働生産力・技術を増大させることによって、実力的にヨーロッパ資本主義国を追いぬかなければならないという点に、絶えず全ソヴェトプロレタリアート注意を引きつけて来た。五ヵ年計画基礎はこの線の上にある。五ヵ年計画ソヴェト重工業生産手段生産を三三〇パーセント拡大する。新設される四十二の発電所二百二十キロワット時電力生産各部門に供給するだろう。大きな西日が鋤をひっぱる馬の背とケシの花とを越えて静かに彼方の地平線に沈もうとする曠野に、耕作機械トラクターが響き出す。うねくる個人耕作の細い畦が消えて、そこに赤旗をかかげた農業機械ステーション中心とする集団農場が現われた。
 重工業の発展はソヴェトの尨大な野を統制ある農業生産場、工業原料生産場とかえつつある。農村の活溌な社会主義発達はとりもなおさず都会の重軽工業を敏活に運転させる調帯だ。都会から農村へ、農村から都会へ。――СССРの地図は、搾取すべき殖民地をこの地球のどの隅にも持っていないという点だけで一九一七年以来既に一つの輝きであった。今そこは、豊富天然資源を百パーセント社会主義生産活用して、世界唯一つの社会主義国家の威力を資本主義に対して確立しようとしているのである。
 だから自覚あるソヴェト勤労者は勿論、十一歳のピオニェールさえ知っている。五ヵ年計画の達成は、ただ彼等の財布へ七一パーセント増した賃銀をもち来すに止まらないことを。それは現在千万人近いプロレタリアート失業につき落して餓えさせている世界資本主義に対する共産主義の断然たる勝利意味するのであることを。ソヴェト同盟歴史にとって、いや、人類の全体の歴史にとって画時代的なこの五ヵ年計画完成のために、ソヴェトでは一九二九年来日生活愉快な実際的立てなおしがいろいろ行われた。
 第一、暦を組みかえた。聖書をもって派遣された魂の仲買人である僧侶たちに麻酔をかけられる教会・神を批判したソヴェトプロレタリアートに「日曜日」は何を意味するであろう。要するに、七日目一度廻ってくる休養日ではないか? では、例えばソヴェトじゅうの工場役所とが日曜日だというと一斉に休業して、用のある者はしまったガラス戸越しに机と電話、磨かれた機械は見るが、そこで呼びかけるべき人間の影も無いという状態は、果して能率増進的であろうか? 心理学実験は、人間が七日間同じ精神緊張度と活溌な神経活動では働き通せないという事実を示している。五日に一遍休暇日をとって、二交代の工場は三交代に、「間断なき週間」として働こうではないか。「間断なき週間制」は一九二九年の秋から実施された。
 暦を組みなおして、各職場にわり当てられた五ヵ年計画第一第一期の生産経済計画(プロフィンプラン)完成に着手したが、職場全体の気はそう単純に理想的には揃わない。五ヵ年計画革命意味理解する精力的なプロレタリアートは各々の職場で能率増進の篤志労働団「突撃隊(ウダールニク)」を組織した。コムソモール生産部門の全線に自分たちを動員して、党外勤労者集団的結束をかためた。然し勤労者の中には「十月(オクチャーブリ)」以後ソヴェト同盟生産生産のために行われているという羨むべき事実理解しない「棒杭(ぼうぐい)奴」もある。資本主義生産奴隷として使われた時代悪夢工場とは出来るだけわが身を劬(いたわ)って働いて金をとるだけの場所と思っている者も幾分ある。積極的に五ヵ年計画生産社会主義的拡大に対して不賛成な反革命分子もある。彼等は職場で、機械歯車のかげで熱心な「ウダールニク」の努力邪魔した。そして、鳥打帽の庇をふてくされた手つきでぐいと引き下げて、地べたへ唾をはいた。
「ヘン! うまいようなこと言ってら! その手はくわないよ。俺あ党員じゃねえんだからね。正直に、手前背骨を痛くして耕してた百姓から牛までとっちまって、日傭いになり下がらせる社会主義ってのは分らねえんだ」
 集団農場(コルホーズ)組織に対しては都会労働者の間にさえそういう無理解一部のこされた。当時ソヴェト同盟の遠い隅々で集団農場組織派遣された技術家とコムソモール、それを支持する貧中農群は富農(クラーク)、昔から村にいて革命を憎んでいる僧侶、籠絡された村ソヴェト員の一隊と、実に必死階級闘争をつづけつつあった。農村都会プロレタリアート社会主義建設へ向うこの複雑で多難な歴史的瞬間、新たな集団心理発生日常生活根本的な社会主義的躍進を、ではソヴェト芸術はどう反映しているか? 階級芸術としてのソヴェトプロレタリア芸術がどんな社会的役割をその芸術活動を通して演じつつあるか。ソヴェト芸術の五ヵ年計画は、先ずその自己批判をもって発足したのであった。

        二つのスローガン

 ――「大衆の中へ!」
 一九二八年の末から一九二九年にかけて、ソヴェト芸術は、「大衆の中へ!」というスローガンをかかげていた。
 だが、人々は質問するだろう。現代ソヴェト・ロシアの芸術は元来、革命とともに民衆の中から生れたものではないか。何故今更「民衆の中へ!」というようなスローガンが必要であるのか? と。
 ソヴェト同盟革命社会主義社会建設の第十二年目に入っていた。


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