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五題 - 山中 貞雄 ( やまなか さだお )

  • 戦国群盗伝●三好十郎/山中貞雄/黒澤明●三船敏郎鶴田浩二志村喬
 ひとが電報まで打ッて厭じゃと断るものを無理に書けと言って寄こした旬報の曰くが「左記項目のうち御気に召した題を御選びの上御執筆下さいますよう茲に懇願いたす次第」と書いて題のところに「小説映画化戯曲映画化私感。内外優秀脚色家。好きな脚色家。僕の一番苦しむもの。他雑感」とある。眺め渡した処「御気に召した題」が一つも見つからぬので面倒臭くなって片っ端から一瀉千里に片付けてやる決心をする。
 先ず最初の小説及び戯曲映画化私感。小説若しくは戯曲)の映画化に際して僕は(ひとは知ら無い。私感とあるから僕の考えを書く)その構成シナリオ構成にする、と云う事を第一に心掛けねばならないと思う。大へんわかりきった事で恐縮ですが、僕なぞ時々此のわかりきった事を失念してとんだ恥を晒します。僕の盤嶽の一生シナリオ原作に忠実過ぎた為に――原作構成をその侭シナリオ構成とした為に失敗しました。そのくせ物語の中の数多くの挿話の一つ一つや、一つの挿話から他の挿話へのツナガリ等には相当注意を払ったつもりでしたが、所詮は小刀細工です。あれは、最初の水道樋の挿話物語最後にするか、若しくは以後のいくつかの挿話を最初の挿話の中に織り混ぜるか、するのが本当でした。
 と、気がついたのが、あの写真をツクッて半年も経った後に、しかも先輩に教えられ初めて、それと悟りました。「シナリオ先ず構成」です。わかりきった事がわかる迄に随分苦労します。
 第二は、内外優秀脚色家。
冗談言ってはいけません。斯んな事は僕達より、旬報さん、あんた方の方がよく御存じです。
 第三は好きな脚色家。
アメリカのほん屋でオリヴァ・ギャレット、グロバー・ジョンス、ヴィンセントローレンスあたりです。
 序にあちらでは一本シナリオを二人が、時としては三人四人が協同で書き上げているのを屡々見受けますが、アメリカ映画シナリオの明朗さ、洒落気、と云いますか、あの奔放自在与太が乱れ飛ぶところは、勿論アメリカ人国民性にも起因するでしょうが、あの数人が協同で脚色すると云う事にも、多少は原因して居るのでは無いかと思われます。
 実は先日、僕の住んで居る鳴滝村のホン屋連中が数名協同してシナリオ一本書き上げた時の事です。各人、随分得手勝手な、無責任極まる与太飛ばしましたが、結果に於ては出来上ったシナリオ想像以上に明るく面白く、ギャグなぞも案外垢抜けのした奴がありました。
 この正月休暇に八人会で旅をしますが、旅の間に一本書こうかとの話があります。八人の酔ッ払いがどんな与太を飛ばすだろうかと思うと今から旅が楽しみです。相当なナンセンス映画シナリオ出来る筈です。
 第四は、僕の一番苦しむもの。
 苦しきことは余りにも多過ぎます。サイレントではタイトル書く時の苦しみ、トーキーとなって台詞の書けぬ苦しさ。ロケーションと書けばその場所選択に悩み、セットと書けばそのデザインに困る。
 ダイタイ活動写真をこさえる事は、決してナマ易しい事ではありません。
 第五は、その他雑感。
 昭和十年の目出度き春を迎えるに際しましてキネマ旬報誌に折入って懇願致したい事があります。
 それは、僕に二度と再び斯くの如き駄文と恥をかかせない事を約束して下さい。
 山中貞雄には、旬報さんよ、ダマッて活動写真だけを撮らせて置いて下さい。以上



底本:「山中貞雄作品集 全一巻」実業之日本社
   1998(平成10)年10月28日初版発行
入力野村裕介
校正伊藤時也
2000年2月18日公開
2003年10月17日修正
青空文庫作成ファイル
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