人外魔境 10 地軸二万哩 関連リンク

小栗 虫太郎 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

人外魔境 10 地軸二万哩 - 小栗 虫太郎 ( おぐり むしたろう )

  • 小栗虫太郎「人外魔境」有尾人畸獣秘境怪奇冒険幻想譯★海外OK
  • 横田順弥 文庫3冊◆火星人類の逆襲,人外魔境の秘密 他
  • ★小栗虫太郎『人外魔境』桃源社★昭和の奇書
  • 「人外魔境」小栗虫太郎手塚治虫桑田次郎水木しげる横山光輝怪奇
  • 日本探偵小説全集「小栗虫太郎集」怪猟奇エログロ新青年人外魔境
  • 即決!★小栗虫太郎★【人外魔境】★桃源社
  • 「人外魔境」小栗虫太郎手塚治虫桑田次郎水木しげる横山光輝怪奇
  • # 人外魔境 小栗蟲太郎 桃源社
  • 小栗虫太郎「人外魔境」
  • 巨大マーケット「1000万人外国人向け市場」★顧客獲得戦略
次のページ
人外魔境 地軸二万哩    魔境からの使者  ――折竹氏、中央亜細亜(トルキスタン)へゆく。世界の屋根パミール高原中の大魔境大地軸孔(カラ・ジルナガン)」をさぐるため、近日ロンドン出発、英印連絡空路により、アフガニスタンのグワダールへ赴(おもむ)く予定。
 とこんな記事が、ロンドン中の新聞を賑(にぎ)わしたのが、十日ほどまえのこと。英帝皇后ご同列の米大州訪問や、アラビアオーマン国の王子ご新婚などに併せ……ともあれ、スペースを食った大物記事の一つ。それが、十日ばかり後に大難関に逢着(ほうちゃく)し、あれよあれよという間に折竹参加という、大|報道価値(ニュースヴァリュ)がかき消えてしまうとは……
 というのは、次のような声明書、「大地軸孔(カラ・ジルナガン)」行きを断念するという意外な折竹の発表が、朝刊締切後の深更の各社をおどろかした。
 ――ドイツルフト・ハンザ航空会社の主唱になる「大地軸孔」探検に小生は不参加の意を表明す。なお、同探検隊が小生の攻撃計画採用するも、それにはなんの異議なきものなり。鍵十字旗(ハーケンクロイツ)の、魔境に翻えるを祈りて。
 これには、各社ともアッと目を剥(む)いたのである。なんてこった、じぶんが計画をたて隊長にまでなりながら、まさに出発という間際にスイと身を退くなんて……これまで度胸六分の戦車的突進を誇りとした彼を思えば、ますます分らなくなってくる。きっと、これには事情があるのだろう。ただ心境の変化、電撃的翻意くらいで、そう易々(やすやす)と片付けられるものではあるまい。と、事の真相を測りかねた各社の猛者(もさ)連が、翌朝折竹の宿へ目白押し押しかけてきた。
 彼が泊まっている「マルバーン・ハウス」というのは、ロンドンの西郊チェルシー区にある。この区はロンドン芸術家街(クワルチェ・ラタン)といわれ、都心を遠くはなれた川沿散歩道(チェイン・ウォーク)のしずけさ。が、いま部屋のなかは喧囂(けんごう)たる有様だ。「タイムス」「デリー・テレグラフ」をはじめ各国の特派員。なかには、前作、「第五類人猿」のアマゾン奥地探検のとき関係のあった、「世界新報(エル・ウニヴェルサル)」というペルー新聞までがいる始末。
 心境の御変化はどういう理由で……あなた個人の、身辺的事情?……それとも、土地政治原因で……と包囲攻撃のなかで静かに莨煙(けむり)をたて、折竹は憮然とガウンの紐をいじっている。やがて、鎮まるのを待って、ニッと笑い
「別に、どうこういうような派手派手しい理由はない。風……。僕の翻意の原因は、風にある」
「へえ。風がね」
 とロイド眼鏡をひからせてまっ先に乗り出してきたのが、「スター紙」の山岳通マクブリッジ君。
「つまり、仰言(おっしゃ)る意味の風は、季節風(モンスーン)でしょうね。しかしそれはとうに計画(プラン)のなかへ織り込みずみじゃありませんか。季節風影響のない五、六月中に、探検を完了するというのが既定の計画だとしたら風の影響などは何もないじゃないですか。むしろ、驚異の征服をなし遂げた、引き上げ時にですね、季節風(モンスーン)の猛雨くらいあるほうが、劇的でいいですよ。征服者折竹の風貌いよいよ颯爽(さっそう)となり……映画班も悦ぶし、われわれも助かる」
「ハッハッハッハ、人の苦しみを悦ぶのは、ジャーナリストくらいだろう。だが、季節風以外にも、風の問題はあるよ」
 と、きっぱり言われてもパミールの辺りで、風の問題といえば季節風以外にはない。はてなと、誰にも見当がつかないところへ、
「なんだ、諸君は分らんのかね」
 と、一わたり折竹がぐるぐるっと見廻して、
「風にもよりけりで、いろんな風があるが……、なかでも一番下らんやつに、臆病風というのがある。そいつが、『大地軸孔』だけはぜひお止めなさい。暗剣殺(あんけんさつ)と三りんぼうをゴッタにしたような、あすこへ行けばかならず命はない――と、僕に切実にいうもんだからね。こっちも、考えてみると成程そのとおり。よく、こんな計画でゆく気になったもんだと、再吟味の結果、慄(ぞ)っとなったほどだよ」
 最初はくだけた口調で冗談まじりだったのが、しだいに引き緊ってき、悲痛の色さえ帯びてくる。また聴くほうは聴くほうでガンと殴られたように、暫くのあいだなんの声もなかったのだ。
 あの、折竹がどうしたというのだろう。猪突(ちょとつ)六分、計画四分という、彼の信条はどこへ行ってしまったのか。と、過去の彼にくらべればあまりな変り方に、まったく、真実大地軸孔」というところは、彼がいうように征服不可能なのかと、誰しもそう信じてしまったのである。
 しかし、ソ連、インドにはさまれた「大地軸孔」の位置新疆(しんきょう)、パミールからかけて南下しようとするソ連勢力と、必死にインドをまもろうとするイギリス防衛策。ちょうどその間へ自然の障壁のように「大地軸孔」をふくむアフガニスタン領が伸びている。してみると、いま独逸航空会社(ルフト・ハンザ)が純学術探検の名目で、この秘境を暴露しようというのが、黙過されるだろうか。ソ連には、ここが明かになれば対印新攻撃路。おそらく天与の好機と、期待しているにちがいない。がそれに反してイギリス側には、この秘境暴露がひじょうな痛手になるのだ。
 インドへの道――その間に横たわる大秘密境「大地軸孔(カラ・ジルナガン)」。そうだ、きっと英官辺からの圧迫があったのだろう――と、折竹翻意の理由をこう睨みたい気持が、誰の胸にも疼(うず)いていたのであるが……。国際紛争裡におどる快男子折竹の姿は、まだ彼も言わず、作者も秘、秘である。ではこの、大地軸孔とはいかなる魔所であろうか。
 北にパミール高原西南にはヒンズークシ、南東にはカラコルム


次のページ

小栗 虫太郎 (おぐり むしたろう) 以外のオススメ作品

人外魔境 10 地軸二万哩 のリンク元

「人外魔境 10 地軸二万哩-小栗 虫太郎」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN