僕の昔 関連リンク

夏目 漱石 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

僕の昔 - 夏目 漱石 ( なつめ そうせき )

  • 古書「名著複刻全集 鶉籠 夏目漱石」
  • 朗読CD 朗読街道38「文鳥」夏目漱石 試聴あり
  • 朗読CD 朗読街道2「夢十夜」夏目漱石 試聴あり
  • 漱石全集 夏目漱石 岩波書店 新書版 全35冊揃
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • ★夏目漱石「草枕」「三四郎」「門」「行人」昭和33年・初版
  • 夏目漱石・坊ちゃん〈上下巻〉◇新潮カセットブック
  • 夏目漱石☆大型本上下巻セット!「ザ・漱石」大活字版(眼鏡無用)
  • ☆社長としての夏目漱石 (単行本) 富永 直久☆切手O
  • 本◎夏目漱石 著【硝子戸の中 他一編】外函付(旺文社)/JJ
次のページ
 根津(ねず)の大観音(だいかんのん)に近く、金田夫人の家や二弦琴(にげんきん)の師匠や車宿や、ないし落雲館(らくうんかん)中学などと、いずれも『吾輩(わがはい)は描(ねこ)である』の編中でなじみ越しの家々の間に、名札もろくにはってない古べいの苦沙弥(くしゃみ)先生の居(きょ)は、去年の暮れおしつまって西片町(にしかたまち)へ引き越された。君、こんどの僕の家は二階があるよと丸善手代みたように群書堆裡(ぐんしょたいり)に髭(ひげ)をひねりながら漱石子(そうせきし)が話していられると、縁側(えんがわ)でゴソゴソ音がする。見ていると三毛猫の大きなやつが障子(しょうじ)の破れからぬうと首を突き出して、ニャンとこちらを向きながらないた。



 あの猫はね、こっちへ引きこしてきてからも、もとの千駄木の家へおりおり帰って行くのだ。この間も道であいつが小便をたれているところをうまくとっつかまえて連れて戻った。やっぱしもとの家というものは恋しいものかなあ。――何、僕の故家(いえ)かね、君、軽蔑(けいべつ)しては困るよ。僕はこれでも江戸っ子だよ。しかしだいぶ江戸っ子でも幅のきかない山の手だ、牛込馬場下で生まれたのだ。
 父親(おやじ)は馬場下町名主(なぬし)で小兵衛といった。別に何も商売はしていなかったのだ。何でもあの名主なんかいうものは庄屋と同じくゴタゴタして、収入などもかなりあったものとみえる。ちょうど、今、あの交番――喜久井町(きくいちょう)を降りてきた所に――の向かいに小倉屋(おぐらや)という、それ高田馬場敵討(あだうち)の堀部|武庸(たけつね)かね、あの男が、あすこで酒を立ち飲みをしたとかいう桝(ます)を持ってる酒屋があるだろう。そこから坂のほうへ二三軒行くと古道具屋がある。そのたしか隣の裏をずっとはいると、玄関構えの朽ちつくした僕の故家(いえ)があった。もう今は無くなったかもしれぬ。僕の家は武田信玄の苗裔(いえすじ)だぜ。えらいだろう。ところが一つえらくないことがあるんだ。何でも何代目かの人が、君に裏切りとかをしたということだ。家の紋(もん)は井桁(いげた)の中に菊の紋だ。今あのへんを喜久井町というのは、僕の父親(おやじ)がつけたので、家の紋から、菊井を喜久井とかえたのだそうな。こんなことはそうさなあ、明治の始めごろの話だぜ、名主というものがまだあった時分だろうな。
 名主には帯刀(たいとう)ごめんとそうでないのとの二つがあったが、僕の父親はどっちだったか忘れてしまった。あの相模屋(さがみや)という大きな質屋酒屋との間の長屋は、僕の家の長屋で、あの時分に玄関を作れるのは名主にだけは許されていたから、名主一名お玄関様という奇抜(きばつ)な尊称を父親はちょうだいしてさかんにいばっていたんだろう。
 家は明治十四五年ごろまであったのだが、兄(あに)きらが道楽者でさんざんにつかって、家なんかは人手渡してしまったのだ。兄きは四人あった。一番上のは当時の大学化学研究していたが死んだ。二番目のはずいぶんふるった道楽ものだった。唐棧(とうざん)の着物なんか着て芸者買いやら吉原通いにさんざん使ってこれも死んだ。三番目のが今、無事で牛込にいる。しかし馬場下の家にではない。馬場下の家は他人の所有になってから久しいものだ。
 僕はこんなずぼらな、のんきな兄らの中に育ったのだ。また従兄(いとこ)にも通人がいた。全体にソワソワと八笑人か七変人のより合いの宅(いえ)みたよに、一日|芝居(しばい)の仮声(かせい)をつかうやつもあれば、素人落語(しろうとばなし)もやるというありさまだ。僕は一番上の兄に監督せられていた。
 一番上の兄だって道楽者の素質は十分もっていた。僕かね、僕だってうんとあるのさ、けれども何分貧乏とひまがないから、篤行(とっこう)の君子を気取って描(ねこ)と首っ引(ぴ)きしているのだ。子供の時分には腕白者(わんぱくもの)でけんかがすきで、よくアバレ者としかられた。あの穴八幡(あなはちまん)の坂をのぼってずっと行くと、源兵衛村(げんべえむら)のほうへ通う分岐道(わかれみち)があるだろう。あすこをもっと行くと諏訪(すわ)の森の近くに越後様(えちごさま)という殿様のお邸(やしき)があった。あのお邸の中に桑木|厳翼(げんよく)さんの阿母(あぼ)さんのお里があって鈴木とかいった。その鈴木の家の息子がおりおり僕の家へ遊びに来たことがあった。
 僕の家の裏には大きな棗(なつめ)の木が五六本もあった。『坊っちゃん』に似ているって。あるいはそうかもしれんよ。『坊っちゃん』にお清という親切な老婢(ろうひ)が出る。僕の家にも事実はあんな老婢がいて、僕を非常にかわいがってくれた。『坊っちゃん』の中に、お清からもらった財布(さいふ)を便所へ落とすと、お清がわざわざそれを拾ってもってきてくれる条(くだり)があった。


次のページ

夏目 漱石 (なつめ そうせき) 以外のオススメ作品

僕の昔 (ぼくのむかし) のリンク元

「僕の昔-夏目 漱石」の関連ページ

  • 先生 - Quizwiki - Quizwiki
    せんせい自作夏目漱石の小説『こヽろ』の書き出しは、「私はその人を常に(何)と呼んでいた。」でしょう?(2009年8月18日 『さいあんせいあん』「ウラジーミル・ナボコフ」)タグ
  • 愛媛県 - 東方ご当地wiki@ふたば - 東方ご当地wiki@ふたば
    愛媛県のページ(暫定)ここは愛媛県のページですwikipedia愛媛県有名・特徴的な所(暫定)松山城、宇和山城(どちらも天守が現存しており貴重)道後温泉夏目漱石「坊ちゃん」農業…みかん、いよ
  • 夏目 貴志 - 同期同盟 wiki - 同期同盟 wiki
    夏目 貴志 名前 コメント
  • センセイ - いまこそP4考察 @ Wiki - いまこそP4考察 @ Wiki
    せんせい公式クマが主人公を呼ぶときの愛称。不気味な商店街で主人公がペルソナを始めて召喚し、シャドウを葬ったのをみたクマが呼び始めた。非公式ネット上で主人公を呼ぶときの愛称のひとつ。→番長センセイと見ると夏目漱石のココロのセンセイが人によっては浮かぶかも知れない
  • 夏目漱石 - Quizwiki - Quizwiki
    なつめそうせき自作そのペンネームは中国の書『晋書』にある故事から名づけられた、2004年まで発行されていた1000円紙幣にその肖像が描かれていた人物で、『我輩は猫である』『坊っちゃん』などの名作で有名な文豪といえば誰でしょう?タグ:作家 学問・その他 先生 Quizwiki索引 あ~の 小川 鈴木三重吉 画像参照:http//www.jti.co.jp/Culture/museum/tokubetu/eventSep04/09.html
  • トップページ - 雑駁メモ - 雑駁メモ
    書きたいときに書いたメモの倉庫。いろいろな「死」松任谷由実オリジナルアルバム一覧 11/28夏目漱石に関しての豆知識 11/27三毛猫ホームズ全作品リスト 11/27世界最大のデータベーストップ10
  • メニュー - 雑駁メモ - 雑駁メモ
    検索 トップページ更新履歴2009-12-05メニュー2009-12-04トップページ松任谷由実オリジナルアルバム一覧いろいろな「死」2009-11-27夏目漱石
  • 夏目漱石に関しての豆知識 - 雑駁メモ - 雑駁メモ
    うに一般的な用法として定着したものもあるといわれている。「新陳代謝」、「反射」、「無意識」、「価値」、「電力」、「肩が凝る」等は夏目漱石の造語であるとも言われている。漱石が「肩が凝る」という言葉を作ったがために、多く
  • 単行本:え行-2 - 古書 吉祥寺書店 - 古書 吉祥寺書店
    遠藤 徹 姉飼角川書店 2003.11.30     Ae0071江藤 淳 夏目漱石勁草書房 1965.06.101刷1,200   Ae0072江藤 淳 夏目漱石勁草書房 1965.06.101刷1
  • 小説(日本)ナ行(中学高校) - wikiwiki2 @ ウィキ - wikiwiki2 @ ウィキ
    市(中学)第95番 夏目漱石 『坊ちゃん』 久我中第62番、椙山(中学)第62番、富山県(中学)第68番、岩国(中学)第41番、埼玉県(高校)第91番 夏目漱石 『我輩は猫である』 久我中第63番、市川

関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN