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入れ札 - 菊池 寛 ( きくち かん )

  • 古書◆平凡社発行續菊池寛全集著者 菊池寛昭和9年6月印刷発行
  • ◎大正10年発行の「法律の轍」菊池寛訳 春陽堂
  • 朗読CD 朗読街道17「無名作家の日記」菊池寛 旧ジャケ 
  • 菊池寛『仇討新八景』鱒書房(歴史新書)昭和30年
  • 朗読CD 朗読街道20「蘭学事始」菊池寛 試聴あり
  • 朗読CD 朗読街道9「恩讐の彼方に」菊池寛 試聴あり
  • 第二の接吻 菊池寛 初版昭和22年 難有り
  • 菊池寛 『日本武将譚』 昭和16年重版
  • 新潮文庫413菊池寛『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』昭和50
  • 新潮文庫 菊池寛 「藤十郎の恋・恩讐の彼方に」
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人物  国定忠治  稲荷の九郎助  板割の浅太郎  島村の嘉助  松井田の喜蔵  玉村の弥助  並河の才助  河童吉蔵  闇雲の牛松  釈迦の十蔵  その他三名 時所  上州より信州へかかる山中天保初年の秋。
情景

秋の日の早暁、小松のはえた山腹。地には小笹がしげっている、日の出前、雲のない西の空に赤城山がほのかに見える。幕が開くと、才助と浅太郎とが出てくる。二人ともうす汚れた袷の裾をからげ、脚絆をはき、わらじをつけている。めいめい腰に一本の長脇差をさしている。浅太郎の方は、割れかかった鞘を縄で括っている。二人が舞台中央にかかった時、後ろから呼ぶ声が聞える。



呼ぶ声 おうい、浅兄い、待てえっ。
太郎 おうい、何じゃい。
呼ぶ声 おうい、おうい。浅兄い。
太郎 おうい、何じゃい。
呼ぶ声 少し足を止めてくれ。あんまり離れるな。
太郎 ようし、分かったぞ、待っているぞ。(そばを振り向いて、才助に) おい才助、一休みしようじゃねえか。
才助 大丈夫かなあ、ここいらで足を止めていて。
太郎 大丈夫だとも。木戸の関を破ったのが、昨夜の五つ頃だ。あれから歩き通したもの。もうかれこれ十里近くも突っ走ってらあ。
才助 みんなよく足がつづいたものだ。
太郎 俺たちは、これぐらいのことではびくともしねえが、九郎助や牛松などの年寄は、あれでいい加減へこたれていらな。
才助 だがよく辛抱してついて来たなあ。
太郎 常日頃口幅ったいことをいっている連中だ。ついて来ずにはいられめえじゃねえか。

(二人が話している間、九郎助と弥助、並んで出て来る。九郎助は五十に近き老人弥助四十前後


才助 (九郎助に)やあ、稲荷の兄い、足は大丈夫かい。
九郎助 何を世迷言をいいやがる。こう見えたって若い時は、賭場が立つと聞いた時は、十里二十里の夜道平気で歩いたものだ。いくら年が寄っても、足腰だけはお前たちにひけは取らねえや。
太郎 兄い、あんまりそうでもなさそうじゃねえか。榛名の山越えじゃ、少々参っていたようだぜ。
九郎助 何をいってやがらあ。それあお前たちのことだろう。この頃の若いやつらはまだ修業が足りねえや。俺ら若い時にゃ、忠次の兄いと一緒に、信州から甲州旅人で、賭場から賭場をかせぎ回ったもんだ。その頃にあ、日に十里二十里は朝飯前だったよ。
弥助 そうだったなあ、稲荷の兄いの若い時は豪勢なもんだった。今の忠次の親分だって、ばくち打の式作法はまあお前に教わったようなものだな。
太郎 ふうん。そうかなあ。式作法稲荷の兄いに教わったかも知れねえが、あの度胸骨と腕っ節は、まさか教わりゃしねえだろうねえ。
九郎助 (ちょっと色をかえて)何だと、おつなことをいうなよ。
太郎 何にもおつなことはいいやしねえ。よくお前さんは昔は昔はというが、いくらいったって昔は昔さ。昔は親分より一枚上のばくち打だったか知らねえが、今じゃ盃をもらって子分になってりゃ、俺たちとは朋輩だ。あんまり昔のことを振回しなさんなよ。


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