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八宝飯 - 芥川 竜之介 ( あくたがわ りゅうのすけ )

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  • 「芥川龍之介」 関口安義   岩波新書
  • ◆◇ 芥川龍之介 著「羅生門・鼻」(新潮文庫) ◇◆
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  • 芥川龍之介◆侏儒の言葉・西方の人◆続西方の人収録
  • 別冊毎日グラフ 芥川龍之介 生誕百年、そして今
  • 絶版■芥川龍之介【邪宗門・杜子春】新潮文庫帯/昭和42年/葱.秋
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芥川龍之介      石敢当  今東光(こんとうくわう)君は好学の美少年、「文芸春秋二月号に桂川中良の桂林漫録を引き、大いに古琉球風物詩集(こりうきゆうふうぶつししふ)の著者佐藤惣之助君の無学を嗤(わら)ふ。瀟麗(しゆくれい)の文章風貌に遜(あきた)らず、風前の玉樹も若(し)かざるものあり。唯疑ふ、今君亦|石敢当(せきかんたう)の起源を知るや否や。今(こん)君は桂川中良と共に姓源珠※(せいげんしゆき)の説を信ずるものなり。されど石敢当に関する説は姓源珠※に出づるのみにあらず、顔師古(がんしこ)が急就章(きふしうしやう)(史游)の註にも、「衛有石※鄭有石癸斉有石之紛如其後亦以命族石敢当」とあり。その何れを正しとすべき乎(か)、何人も疑ひなき能はざるべし。徐氏筆精に云ふ「二説大不相※亦日用不察者也」と。然らばその起源を知らざるもの、豈(あに)佐藤惣之助君のみならんや。桂川中良も亦知らざるなり。今東光も亦知らざるなり。知らざるを以て知らざるを嗤(わら)ふ、山客亦何ぞ嗤はざるを得んや。按(あん)ずるに鍾馗(しようき)大臣の如き、明皇(めいくわう)夢中に見る所と做(な)すは素(もと)より稗官(ひくわん)の妄誕(まうたん)のみ。石敢当も亦実在人物ならず、無何有郷裡(むかいうきやうり)の英雄なるべし。もし又更に大方(おほかた)の士人、石敢当の出処を知らんと欲せば、秋風|禾黍(くわしよ)を動かすの辺、孤影蕭然たる案山子(かかし)に問へ。

     猥談

 聞説す、我鬼(がき)先生佐佐木味津三君の文を称し、猥談(わいだん)と題するを勧(すす)めたりと。何ぞその無礼なるや。佐佐木君は温厚の君子、幸ひに先生の言を容(い)れ、君が日星河岳(じつせいかがく)の文字に自ら題して猥談と云ふ。君もし血気の壮士なりとせんか、当(まさ)に匕首(あひくち)を懐にして、先生を刺さんと誓ひしなるべし。その文を猥談と称するもの明朝に枝山(しざん)祝允明(しゆくいんめい)あり。允明、字は希哲(きてつ)、少(をさな)きより文辞を攻め、奇気|甚(はなはだ)縦横なり。一たび筆を揮(ふる)ふ時は千言立ちどころに就(な)ると云ふ。又書名あり。筆法|遒勁(いうけい)、風韻蕭散と称せらる。その内外の二祖、咸(み)な当時の魁儒(くわいじゆ)たるに因(よ)り、希哲の文、典訓を貫綜(くわんそう)し、古今を茹涵(じよかん)す。大名ある所以(ゆゑん)なり。然りと雖(いへど)も佐佐木君は東坡(とうは)再び出世底の才人、枝山等の遠く及ぶ所にあらず。この人の文を猥談と呼ぶは明珠(めいしゆ)を魚目(うをめ)と呼ぶに似たり。山客、偶(たまたま)「文芸春秋二月号を読み、我鬼先生の愚を嗤(わら)ふと共に佐佐木君の屈(くつ)を歎かんと欲す。佐佐木君、請ふ、安心せよ。君を知るものに山客あり矣(い)。

     赤大根

 江口君はプロレタリア文豪なり。「文芸春秋二月号に「切り捨御免」の一文を寄す。論旨は昆吾(こんご)と鋭を争ひ、文辞は卞王(べんわう)と光を競ふ。真に当代の盛観なり。江口君論ずらく、「星霜を閲(けみ)すること僅に一歳、プロレタリア論客は容易に論壇を占領せり」と。何ぞその壮烈なる。江口君又論ずらく、「創作壇の一の木戸(きど)、二の木戸本丸も何時かは落城の憂目(うきめ)を見ん」と。何ぞその悠悠たる。江口君三たび論ずらく、「プロレタリア文学勃興と共に、俄(には)かに色を染め加へし赤大根(あかだいこん)の輩出山の如し」と。何ぞその痛快なる。唯山客の頑愚(ぐわんぐ)なる、もしプロレタリアに急変したる小説家批評家戯曲家を呼ぶに赤大根を以てせんか、その論壇を占領し、又かの創作壇の一の木戸、二の木戸、乃至(ないし)本丸さへ占領せんとする諸先生も赤大根にあらざるや否や、多少の疑問なき能はず。且(かつ)山客の所見によれば、赤大根繁殖したるはプロレタリア文芸の勃興以前、隣邦|露西亜(ロシア)の革命に端を発するものの如し。もし然りとせば江口君も、古色愛すべき赤大根のみ。もし又君の為に然らずとせんか、かの近来の赤大根は君の小説に感奮し、君の評論に蹶起(けっき)したる新鋭気鋭の青年にあらずや。君自身これが染上(そめあ)げを扶(たす)け、君自身これを赤大根と罵(ののし)る、無情なるも亦甚しいかな。君|聴(き)け、啾啾(しうしう)赤大根の哭(こく)、文壇の夜気を動かさんとするを。然れども古人言へることあり。「英雄|豈(あに)児女の情なからんや」と。山客亦厳に江口君が有情の人たるを信ぜんと欲す。もし有情の人と做(な)さんか、君と雖(いへど)も遂に赤大根のみ。


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