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公益に有害の鉱業を停止せざるの儀に付質問書 - 田中 正造 ( たなか しょうぞう )

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公益に有害の鑛業を停止せざる儀に付質問書         公益に有害の鑛業を停止せざる儀に付質問書 (明治三十二月廿六日、衆議院提出) 一、栃木上都賀郡足尾銅山鑛毒の慘酷なる事實は、今尚其被害地なる栃木群馬茨城埼玉の四縣下人民より提出しつゝある鑛業停止請願に依り又群馬縣々會も鑛業停止すべきを内務大臣に建議を爲したるを以て明なり。是れ一國の大問題にして一日たりとも等閑に附し去るを得ず。然るに多年政府の之を等閑に附し去る理由如何。
一、明治廿四年十二月十八日本員等は國務大臣に向て足尾銅山鑛毒被害に關する當局者の職責怠慢を質問せり。不幸にして第二議會解散に會ひ、其答辯書は新聞紙上に於て之を見たり。曰く其被害の原因に付て未だ確實なる試驗の成績に基ける定論あるに非ず。曰く、粉鑛採聚器を新設し一層鑛物の流失を防止するの準備をなせりと。然るに爾來鑛業の増加は益々甚しく、被害の區域愈々擴大せし事實あるは如何。
一、明治廿五年五月廿三日、本員等は如此前後撞着の答辯に對し更に第二囘の質問をなし、農科大學の試驗成績を以て國務大臣の明答を促したり。然るに其答辯には、鑛業の害たるは試驗の結果によりて之を認めたりと自白しながら、其損害たるや鑛業を停止すべき程度には非ずと主張し、且つ鑛業人に於ては現に粉鑛採聚器設置の準備を爲し、將來植物の生長を害する如き事なしと斷言しながら、其所謂粉鑛採聚器を設置したる六週年後の今日、鑛業の被害益々増加するを默視するの理由如何。
一、同年六月十三日、本員等は右の答辯に對し更に第三囘の質問をなせり。然るに其質問中に於て、政府地方官をして鑛業人の爲に仲裁せしめ、地方官亦粉鑛採聚器据付の一事を以て巧に被害地人民を欺瞞し、人民提出の請願書を遮りて強て事實を蔽はんとする等立憲治下にあるまじき所行を專にし、而も中央政府は何等の答辯をなし得ざりし理由如何。
一、明治廿六年十二月第五議會解散に次で、翌廿七年第六議會又解散せられ、空しく質問の機を失せり。時偶々日清戰爭に際せるを以て、擧國一致の必要より、本員等又政府に對する質問は暫く枉げて中止することゝし、力めて官民の協戮を圖れり。然るに廿七年の洪水にて鑛毒の流出益々多大なるの實況を見るや、鑛業人の狼狽一方ならず、地方官又同じく前項の盡力一空に歸せんことを恐れ、壯丁出陣の不在を窺ひて日々被害町村に出沒し、老夫幼童を威嚇して、自己隨意の契約證を作りて之に盲印を押さしめ、以て鑛業人の爲に謀らんとす。而も政府の之を默視する理由如何。
一、右に付本員等は日清戰爭終局を待ち、明治廿九年の議會に於て地方官吏の惡計を摘發し更に第四囘の質問を爲せり。然るに政府は漫然として之が答辯を爲さざるのみならず、今尚依然として其行爲を改めざるの理由如何。
一、前項の如くにして、明治廿七年の洪水降年々増加する鑛毒啻に渡良瀬川に止らず、今や利根川北岸に迄浸漸して、四縣下十郡數萬町歩の田宅將に擧て沙漠に化せんとす。然るに政府の之を坐視する理由如何。
一、足尾鑛山の鑛業伸擴するに隨ひ、渡良瀬川水源樹木を濫伐すること益々多く、水源涵養の道今や爲に全く絶え、之に因て土砂流出河身壅塞舟楫往來の便亦自ら缺け、洪水の氾濫十年前に數倍せり。而も政府の之を默視する理由如何。
一、土地建物鑛業に侵され、爲に譜代財産を失ひ日々貧窮に迫れる人民は、如何にして之を處分するや。
一、以上の現状より沿岸被害人民は衣食足らず禮節修らず。政府は何を以て國民の義務を守らしめんとするか。
一、本員等は鑛毒浸漸の極多數人民の公益を侵害すること如此深大ならざるに先ち、多年屡々政府に向て忠告を與へたり。然るに當局者は種々の遁辭を以て一時を瞞過せんとし、姑息遷延以て今日に至り、其慘状殆ど挽囘し得べからざるの點に達せしめたり。政府は如何にして被害人民生命財産權利を囘復せんとするや。
一、鑛業條例第十九條第一項には、試掘若くは採掘の事業公益に害ある時は、試掘に就ては所轄鑛山監督署長、採掘に就ては農商務大臣、既に與へたる認可又は特許取消す事を得と明記せるに拘らず、政府は此公益に大害ある鑛業を停止する事を爲さず、被害地十餘萬の人民獨り帝國憲法の庇護を受くる能はざるの理由如何。

議院法四十八條に依り質問す、國務大臣帝國憲法五十五條により責任を以て明確なる答辯あらんことを望む。

          田中代議士質問演説

明治三十二月廿六日、衆議院に於て)
 私は公益に有害なる鑛業を停止せざる儀に付質問理由を述べんとするのであります。本日重要なる問題も澤山ございまして、諸君におきましても質問の長演説は隨分御迷惑でございませうが、此質問地方に於きまして差掛つて居る問題で、此地方官の中の郡吏抔と云ふ者が人民虐めたり欺いたり惡い事をして居る最中でございまするから、一日も早く之を公に致しまして此苦痛を救ふてやらなければならないし、其れから質問の要點を政府へ知らして其答辯を請求するのでございます。どうか少々の間御聽取を願ひます。
 此質問は、栃木縣下足尾銅山と云ふ所の鑛毒の害が甚しいので先年來度々請願書を農商務大臣に出して居り、殊に昨年群馬の縣會では此鑛業を停止すべしと云ふ決議内務大臣に建議致しました位。又た渡良瀬沿岸の人民は、新しき村でも又た新しき町でも、戸長の調印を致しました者が今日五十の數に上つて居り、尚ほ續々願書を提出中でございまする。其の鑛毒の區域は群馬栃木埼玉茨城の四縣に渉り、郡の數が十二に渉つて居りまするが其の色々調査物は八郡だけが稍々出來て居ります。一體此の人民は、調査の方には極めて不便な位地に居る。二十三十里に渉る間の調査でありますから、郡役所に就き又は縣廳に就て取調べる其間の仕事が大變です。錢の無い人民が之を取調べるのは困難で、漸く八郡に渉る所の調査が稍々出來ましたから、是から此調を御披露に及びます。
 此質問は、「公益に害のある鑛業であるから、此鑛業を停止しなければならぬ。」と云ふに過ぎないのでございます。銅山の事業は一個人の者であれ又た國家の者であれ、害が非常に多ければ害の多い事を理由として之を處置しなければなりませぬ。名義は一個人でも國家でも、事業より害の方が多ければ據なく停止しなければならぬ。――此質問を本員が始めたのは明治廿四年が最初で、其より四度の質問に及び、度々の忠告政府に與へてあるのでございます。今囘が五度目の質問で、農商務大臣は時々是に答辯を與へましたけれども、其答辯は悉く嘘を吐いてあるので、彼の答辯には責任を持たぬと云ふ事を申しますが、責任を持たぬどころで無い、詐りの答辯を致して居る、而して此の鑛毒の害と云ふものを非常に大きくして了つた。此の鑛毒の事に就ては、議會は政府を信ぜず、人民政府を怨むと云ふ事になつて居る。是では國家と云ふものゝ値打が亡くなつて來る、外國人を日本法律に從はせることが出來なくなつて來る。從はせる事が出來なくなつて來るのでは無い、法律保護を與へないのでございますから、人民法律を遵奉するの義務が無いので――法律を遵奉するの義務が無ければ、是より如何なる事を仕出かすかも知れない。斯樣な場合で、一日も早く諸君に御訴へ申して置かなければならぬ。
 質問順序を申ますれば、二十四年からの道行は十八個條――鑛毒は政治の關係でござりまするが、鑛毒其物の事を細かに御話申さなければならない。


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