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出家とその弟子 - 倉田 百三 ( くらた ひゃくぞう )

  • 出家とその弟子 倉田百三・著 昭和2年 岩波文庫
  • 【★B3-042】 出家とその弟子
  • [KSH]倉田百三☆「出家とその弟子」☆大正11年発行☆即決送料込
  • 新潮文庫406倉田百三『出家とその弟子』昭和34帯
  • 新潮文庫407倉田百三『出家とその弟子』昭和44
  • ★「出家とその弟子」 倉田百三 岩波文庫
  • ■■即決■■ 出家とその弟子  ■■ 倉田百三著■ ◆
  • 文庫◆出家とその弟子◆倉田百三◆'65/12/10初版◆旺文社◆
  • 栗山民也『演出家の仕事』岩波新書 2007年 美品370円即決
  • (岩波文庫)カインの末裔・クララの出家 有島武郎作
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この戯曲信心深きわが叔母上(おばうえ)にささぐ 極重悪人唯称仏(ごくじゅうあくにんゆいしょうぶつ)。 我亦在彼摂取中(がやくざいひせっしゅちゅう)。

煩悩障眼雖不見(ぼんのうしょうげんすいふけん)。 大悲無倦常照我(だいひむげんじょうしょうが)。

         (正信念仏偈




出家とその弟子



    序曲

      死ぬるもの

       ――ある日のまぼろし――


人間 (地上をあゆみつつ)わしは産まれた。そして太陽の光を浴び、大気呼吸して生きている。ほんとに私は生きている。見よ。あのいい色の弓なりの空を。そしてわしのこの素足がしっかりと踏みしめている黒土を。はえしげる草木、飛び回る禽獣(きんじゅう)、さては女のめでたさ、子供の愛らしさ、あゝわしは生きたい生きたい。(間)わしはきょうまでさまざまの悲しみを知って来た。しかし悲しめば悲しむだけこの世が好きになる。あゝ不思議世界よ。わしはお前に執着する。愛すべき娑婆(しゃば)よ、わしは煩悩(ぼんのう)の林に遊びたい。千年も万年も生きていたい。いつまでも。いつまでも。
顔(かお)蔽(おお)いせる者 (あらわる)お前は何者じゃ。
人間 私は人間でございます。
顔蔽いせる者 では「死ぬるもの」じゃな。
人間 私は生きています。私の知っているのはこれきりです。
顔蔽いせる者 お前はまたごまかしたな。
人間 私の父は死にました。父の父も。おゝ私の愛する隣人の多くも死にました。しかし私が死ぬるとは思われません。
顔蔽いせる者 お前は甘えているな。
人間 (やや躊躇(ちゅうちょ)して後)わたしは恐れてはいます。もしや死ぬのではなかろうかと。……あゝあなたは私の心を見抜きましたな。ほんとうは私も死ぬのだろうと思っているのです。私の祖先知恵ある長老たちも昔から自分らのことをモータルと呼んでいますから。
顔蔽いせる者 それはほんとうじゃ。禽獣(きんじゅう)草木魚介の族と同じく死ぬるものじゃ。
人間 あなたはどなたでございますか。その威力ある言葉を出すあなたは?
顔蔽いせる者 わしは死なざるものに仕える臣じゃ。お前はわしを知らぬかの。
人間 知っているような気もするのですが、……いゝえ、やはり知りません。
顔蔽いせる者 お前はたびたびわしの名を呼ぶようじゃ。ことにこのごろはあまりたびたびなので煩(わずら)わしいほどじゃ。
人間 ではもしやあなたは? おそれながらお顔蔽いをとって一度だけどうぞお顔をお見せくださいませ。
顔蔽いせる者 わしはモータルには顔を見せぬものじゃ。死ぬるものには。
人間 それはなぜでございます。
顔蔽いせる者 モータルを見るとわしは恥ずかしくて死ぬるからじゃ。
人間 死ぬる者という言葉には軽蔑(けいべつ)の意味が含まっているように聞こえます。
顔蔽いせる者 死ぬのは罪があるからじゃ。


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