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出家物語 - 坂口 安吾 ( さかぐち あんご )

  • 出家とその弟子 倉田百三・著 昭和2年 岩波文庫
  • 【★B3-042】 出家とその弟子
  • [KSH]倉田百三☆「出家とその弟子」☆大正11年発行☆即決送料込
  • 新潮文庫406倉田百三『出家とその弟子』昭和34帯
  • 新潮文庫407倉田百三『出家とその弟子』昭和44
  • ★「出家とその弟子」 倉田百三 岩波文庫
  • ■■即決■■ 出家とその弟子  ■■ 倉田百三著■ ◆
  • 文庫◆出家とその弟子◆倉田百三◆'65/12/10初版◆旺文社◆
  • 栗山民也『演出家の仕事』岩波新書 2007年 美品370円即決
  • (岩波文庫)カインの末裔・クララの出家 有島武郎作
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 幸吉の叔母さんに煙草雑貨屋を営んでいる婆さんがあって、御近所に三十五の品の良い未亡人がいるから、見合いをしてみなさい、と言う。インテリ美人で、三十ぐらいにしか見えない。会社事務員をして二人の子供女手で育てゝいるが、浮いた噂もない。幸吉にはモッタイない人だけれども、あるとき叔母さんに、事務員じゃ暮しが苦しいから、オデン屋の小さい店がもちたい、と言った。それで、ふと気がついて、
「私の甥がオデン屋をしているから、そこで働いてみちゃ、どうですか。マーケット小屋を借りるたって二万三万はかゝりますし、素人がいきなりやれるものでもありませんよ。私の甥といったって、もう五十ですけど、戦災女房子供をなくしちゃって、どうですか、奥さん、いっそ、一緒になッちゃア。こう云っちゃ、なんですけど、この節は氏も素性もありゃしませんわよ。学問があったって、お金がもうかるわけじゃなし、あの野郎なんざ、二十年から屋台のオデン車をひっぱって歩きやがって、いくらのカセギもないくせに大酒はのみやがる、酔っ払って、のたくり廻りやがる。カミサンと餓鬼どもはヒドイ目にあったものですよ。それがあなた、戦争からこっち、菜ッパの切れッパシに猫のモツなんか入れて並べておきゃ幾つお鍋の山をつんでも売り切れちゃうんだから、アレヨアレヨというもんですよ。犬でもドブ鼠でもモグラモチでも、肉気のものなら、みんなキザンでコマ切れにすりゃ百円札に化けちゃうでしょう、カミサンなんざ鼠の皮をむくだけでテンテコ舞をしているうちに焼かれて死んじゃってネ。面白い目一つしないでバカを見たものですわヨ。涙もかわかないうちに、焼ければ、売れる、負ければ売れる、物価上がりゃ尚うれる、夢みたいのもんよ。野郎ボンヤリしやがって、たゞもうむやみにボリゃ、もうかるんだからね、霞ヶ浦のワカサギだって、こんなに釣れやしないわヨ。カミサン子供焼死なんざ、ボロもうけの夢心持のマンナカにはさまったサンドイッチみたいなものさ。あの野郎百万と握りやがったんですよ。この節は、年増の芸者、若い妓、芸者の二三人も妾にもちやがって、二十万の新築して、それであなたお金の減り目が分らないてんだから、奥さん、この節、お嫁に行くなら、こういうところへ行きなさい。お客にはモグラモチを食わせたって、自分じゃア※かロースかなんかでなきゃ食いやしませんからネ。あの野郎結婚するわけじゃない、※やロースや蒲焼天ぷらと、結婚すると思や、この節はもう、これに限るのよ。野郎なんざ、どうだって、栄養失調にならなきゃ、いいのヨ。ネエ、そうだわヨ、奥さん
 こう言われてキヨ子も、じゃア見合いしましょう、ということになった。
 幸吉は立派新築したけれども、うちで営業するわけじゃなく、今もって昔ながらの屋台をだしている。結局これが、婆さん流にアレヨアレヨともうかる。尤も幸吉は足まめだから、自転車浦安あたりを往復して、同業者へヤミの魚をうる、オメカケ連を活躍させて待合へうりこむ、酒、タバコ、衣類でも何でも扱う。小さい時からデッチにでたり、色々商売失敗したのがモトデになって、ともかく呉服物でも時計材木や紙のことでも心得があった。芝居道具方に四年働いていたことなども大変役に立っている。
 その日は商売を休んで、例の※やロースや蒲焼天ぷら豊富に用意し、そっちの方が聟さんだとは知る由もなく、待っていると、婆さんがキヨ子をつれてきて、お酒がまわりかけたところで、じゃア、ごゆっくりと帰ってしまった。
 なるほど叔母さんの言う通り十人並を越えた美人で、第一事務員をしているから、断髪洋装、姿もスラリとしていて、この年まで断髪洋装などにつきあったことがないから、外人を見るとみんな同じに見えるように、みんな女優に見えるのである。こっちは全然学がないのだから、
「エッヘッヘ」
 幸吉はオデコをたゝいて、
「よろしく、お願いしやす。あたしゃ、御覧の通りの者なんで、清元義太夫をちょいとやったゞけの無学文盲、当世風にゃカラつきあいの無い方なんで、先日も若い妓が、エッヘッヘ、ダンスをやりましょうなんて、御時世だからオジサンも覚えといて損はないわヨ、なんてネ、五六ぺんお座敷をぶらぶらと、然し、こうふとっちゃ、ビヤ樽みてえなものだから、ムリでさア。失礼ですが、ダンスなども、おやりでしょうな」
「えゝ、会社のオヒル休みにダンスのお稽古、みなさん、やるんですの。そのうちパーテーやるそうですけど、私あんまり趣味がないからヘタですわ」
「私の女房子供戦災焼け死んじゃったんですが、御主人は戦死なさったそうで」
「えゝ、とてもいゝ主人で可愛がってくれましたけど、全然ムッツリ黙り屋さんで、可愛がることしか知らない人なんですもの。毎日、満足で、たのしかったわ。あなたは年増の芸者や若い芸者や、たくさんオメカケがおありなんでしょう。たのしいわね。男の方は、うらやましいわ。うちの主人もよく遊んだ人ですけど、私も、時々、主人に遊びに行ってきて貰ったんですの」
「へえ、それは又、御奇特なことで。なぜでしょうかな」
 女はウフヽと笑って答えない。幸吉は身の内が熱くなり、一膝のりだして、どうですか、泊って行きませんか、と言うと、えゝ、でも、泊るわけに行かないわ、うちに子供も待ってるし、見合いにきたゞけなんですもの、体裁が悪いでしょう、と言う。
 幸吉も安心して、じゃア、まア、ひとねむり、つもる話だけ致しましょう、ということになって、めでたく契りをむすんだ。
「じゃア、もう、おそくなるから」
 と云って、キヨ子が惜しげもなく立上って衣服をまといかけるのを、まだ宵のくちですよ、もう、ちょッと、と云って、幸吉は生れてこの方、こんな不思議な思いをしたことがない。死んだオカミサンも年増芸者も若い芸者も、昔遊んだ娼妓もオサンドンも、みんな一とからげに同じ女と見ることもできるけれども、キヨ子には全然風の変ったところがある。明るい電燈の下で、平気で裸体を見せて一枚一枚ゆっくり寸の足りないシャツみたいなものをつけるなどとは、たしなみのないことだけれども、そうかと思うと、遊びに就ては、娘のようにウブで激情的であった。芸者のようにスレているくせにタシナミだけ発達しているのに比べると、こっちの方がどんなにカザリ気がなくて、情が深いか知れない。そのうえ芸者の裸体などはカジカのように痩せていたり、反対にふとっていたり、着物の裾に隠れているからいいようなものゝ湯殿へ裾をまくって背中を流しにはいってくるのを見たゞけでも興ざめるほどの大根足であったりするのに、キヨ子の裸体は飾り窓中の人形のように手脚がスクスクのびていて、白く、なめらかであった。顔を見ると、三十五の年齢が分るけれども、白いなめらかなスクスクとのびたからだには年齢がない。幸吉は見あきなかった。
 いつまでも引きとめるわけに行かないので、幸吉も仕方なしに衣服をつけて、
「じゃア、なるべく早く式をあげよう。河岸の魚の値段がハネ上るほど盛大な催しをやろうじゃないか」
 キヨ子は返事をせず、靴下をはいていたが、
「今夜のこと、オバさんに話しちゃ、いやよ」
「いゝじゃないか。


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