十万石の怪談 関連リンク

佐々木 味津三 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

十万石の怪談 - 佐々木 味津三 ( ささき みつぞう )

  • [公売]六文銭で知られる真田十万石の城下町「松代」 その中...
  • A4263【ROLEX】定価四百数十万位 希少69158 18K 婦人自動1円
  • ★旧国鉄乗務員十万キロ無事故記録証(記念コイン)★
  • [公売]六文銭で知られる真田十万石の城下町「松代」 その中...
  • 田舎暮らしの本■温かい田舎 家賃5千円、売家百五十万円から
  • 尼首二十万石  宮本昌孝
  • 松本清張「十万分の一の偶然」
  • 時代小説は面白い 「尼首二十万石」 宮本昌孝 帯付き初版本 
  • [公売]六文銭で知られる真田十万石の城下町「松代」 その中...
  • +伴野朗 五十万年の死角 江戸川乱歩賞受賞 初版 帯有 難有 即決
次のページ
         一  燐(りん)の火だ!  さながらに青白く燃えている燐の火を思わすような月光である。――書院障子いちめんにその月光が青白くさんさんとふりそそいで、ぞおっと襟首(えりくび)が寒(さ)む気(け)立つような夜だった。
 そよとの風もない……。
 ことりとの音もない。
 二本松城十万石が、不気味に冴(さ)えたその月の光りの中に、溶(と)け込んで了(しま)ったような静けさである。――城主丹羽(にわ)長国は、置物のようにじっと脇息(きょうそく)に両肱(りょうひじ)をもたせかけて、わざと灯(あか)りを消させた奥書院のほの白い闇(やみ)の中に、もう半刻(はんとき)近くも端座し乍(なが)ら、身じろぎもせずに黙然(もくねん)とふりそそいでいるその月光を聴(き)きいったままだった。見入(みい)っているのではない。まさしくそれは心に聴き入っていると言った方が適切である。万一の場合を気遣って、御警固|旁々(かたがた)座に控えていた者はたった四人。――いずれも御気に入りの近侍(きんじ)の林四門七と、永井大三郎と、石川六四郎と、そうして多々羅(たたら)半兵衛の四人だった。
 声はない……。
 言葉もない……。
 主従五つの影は、身動きもせず人形のように黙座したままで、いたずらに只さんさんと月光がふりそそいでいるばかりである。――と思われた刹那(せつな)。
「ハハハハハ……」
 突然長国が、引きつったような笑い声をあげた。
「ハハハハ……。ハハハハハ」
 だが、四人の近侍達は驚きの色も現わさないで、ビーンビーンと谺(こだま)し乍ら、洞窟さながらのような城内深くの闇と静寂の中へ不気味なその笑い声の吸われて行くのをじっときき流したままだった。殿の御胸中は分りすぎる程よく分っていたからである。屹度(きっと)おうるさいに違いないのだ。殿御自身はとうに会津中将へ御味方の御決断も御覚悟もついているのに、重臣共がやれ藩名のやれ朝敵のといって何かと言えば薩長ばらの機嫌ばかりを取結ぽうと、毎日毎夜|埒(らち)もない藩議を重ねているのが煩(わずら)わしくなったに違いないのだ。――果然(かぜん)長国が吐き出すように言った。
「いっそもう野武士になりたい位じゃ。十万石がうるそうなったわ。なまじ城持ちじゃ、国持ちじゃと手枷首枷(てかせくびかせ)があればこそ思い通りに振舞うことも出来ぬのじゃ。それにつけても肥後守(ひごのかみ)は、――会津中将は、葵(あおい)御一門切っての天晴(あっぱ)れな公達(きんだち)よ喃(のう)! 御三家ですらもが薩長鼻息|窺(うかご)うて、江戸追討軍の御先棒となるきのう今日じゃ。さるを三十になるやならずの若いおん身で若松城が石一つになるまでも戦い抜こうと言う御心意気は、思うだに颯爽(さっそう)として胸がすくわ。のう! 林田! そち達はどう思うぞ」
「只々もう御勇ましさ、水際立(みずきわだ)って御見事というよりほかに言いようが厶(ござ)りませぬ。山の頂きからまろび落ちる大岩を身一つで支えようとするようなもので厶ります。手を添えて突き落すは三つ児でも出発る業(わざ)で厶りまするが、これを支え、喰い止めようとするは大丈夫の御覚悟持ったお方でのうてはなかなかに真似(まね)も出来ませぬ。壮烈と申しますか、悲壮と申しますか、いっそ御覚悟の程が涙ぐましい位で厶ります」
「そうぞ。そうぞ。この長国もそれを言うのじゃ。勤王じゃ、大義じゃ、尊王じゃと美名にかくれての天下泥棒ならば誰でもするわ。――それが憎い! 憎ければこそ容保候へせめてもの餞別(はなむけ)しようと、会津への援兵申し付けたのにどこが悪いぞ。のう永井! 石川! 年はとりたくないものよな」
「御意(ぎょい)に厶ります。手前共は言うまでもないこと、家中の者でも若侍達はひとり残らず、今日かあすかと会津への援兵待ち焦(こが)れておりますのに御老人達はよくよく気の永い事で厶ります」
「そうよ。ああでもない。こうでもないと、うじうじこねくり廻しておるのが分別じゃと言うわ。――そのまに会津が落城致せば何とするぞ! たわけ者達めがっ。恭順の意とやらを表したとてもいずれは薩長共に私(わたくし)されるこの十万石じゃ。ほしゅうないわっ。いいや、意気地が立てたい! 長国は只|武士(もののふ)の意気地を貫きたいのじゃ! ――中将程の天晴武将を何とて見殺しなるものかっ。――たわけ者達めがっ。のう! 如何(どう)ぞ。老人という奴はよくよくじれったい奴等よのう!」
 罵(ののし)るように呟(つぶや)き乍(なが)ら長国は、いくたびか脇息の上で身をよじらせた。実際またじれったかったに違いない。ほかのことならともかく、こればかりは殿、御一存での御裁決|罷(まか)りなりませぬ。三河乍らの御家名は申すに及ばず、一つ間違わば末代までも朝敵汚名着ねばならぬ瀬戸際で厶りますゆえ、藩議が相定まりますまで御遠慮下さりませ。そう言って重臣達が主候の長国を斥(しりぞ)け、会津への援兵、是か非かに就いて論議をし始めてからもうまる三日になるのである。――会津中将松平容保薩長執拗(しつよう)な江戸追討を憤って、単身あくまでもその暴虐横暴に拮抗(きっこう)すべく、孤城若松に立て籠ってから丁度(ちょうど)六日目のことだった。


次のページ

佐々木 味津三 (ささき みつぞう) 以外のオススメ作品

十万石の怪談 (じゅうまんごくのかいだん) のリンク元

「十万石の怪談-佐々木 味津三」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN