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南蛮秘話森右近丸 - 国枝 史郎 ( くにえだ しろう )

  • 南蛮鬼の腕花瓶 口かけ 古南蛮?古琉球?
  • ■夢■s18 中里太亀作 唐津南蛮徳利
  • 南蛮阿房第2列車/阿川弘之/文庫/後払い メール便
  • ★☆ 阿川弘之 南蛮阿房列車(新潮文庫)
  • 耳付き南蛮焼締め壺
  • 【蔵出】■京時代蒔絵印籠■蝉に南蛮(とうもろこし)夏風物■
  • [公売]沖縄 壺屋 酒壺 南蛮
  • [公売]沖縄 手桶花入 南蛮
  • 唐津南蛮徳利 中里 隆(造)共箱 新宿西武百貨店個展作 酒器
  • ★★金重陶弘作 備前南蛮写耳付水指 共箱 茶道具★★
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1 「将軍|義輝(よしてる)が弑(しい)された。三好長慶(ちょうけい)が殺された、松永弾正(だんじょう)も殺された。今は下克上の世の中だ。信長が義昭を将軍に立てた。しかし間もなく追って了(しま)った。その信長も弑されるだろう。恐ろしい下克上の世の中だ……明智光秀には反骨がある。羽柴秀吉は猿智慧に過ぎない。柴田|勝家(かついえ)は思量に乏しい。世は容易に治まるまい……武田家は間もなく亡びるだろう。波多野秀治は滅亡した。尼子勝久自刃した。上杉|景勝(かげかつ)は兄を追った。荒木|村重(むらしげ)は謀反した。法燈暗く石山城本願寺も勢力を失うだろう。一向一揆も潰されるだろう、天台座主(ざす)比叡山も、粉砕されるに相違ない。世は乱れる。世は乱れる! だが先(ま)ずそれも仕方がない、日本国内での争いだ。やがて、誰かが治めるだろう、恐ろしいのは外国(とつくに)だ! 恐ろしいのは異教徒だ! 憎むべきは吉利支丹(きりしたん)だ! ザビエル、ガゴー、フロエー、オルガンチノこれら切支丹伴天連(ばてれん)共、教法に藉口(しゃこう)し耳目を眩し、人心を誘い邪法を用い、日本の国を覬覦(きゆ)している。唐寺が建った、南蛮寺が建った、それを許したのは信長だ! なぜ許したのだ! なぜ許したのだ! 危険だ、危険だ、非常危険だ! 国威落ちる、取り潰すがよい! 日本には日本の宗教がある、かんながらの道、神道だ! それを讃えろ、それを拝め!」
 ここは京都二条通、辻に佇んだ一人の女、凜々(りり)として説いている。年の頃は二十歳(はたち)ぐらい、その姿は巫女、胸に円鏡をかけている。頭髪(かみ)を束(つか)ねて背中に垂らし、手に白綿(しらゆう)を持っている。その容貌の美しさ、洵(まこと)に類稀である。眉長く顳※(こめかみ)まで続き、澄み切った眼は凄いまでに輝き、しかも犯しがたい威厳がある。その眼は時々微笑する。嬰児のような愛らしさがある。高すぎる程高い鼻。男のそれのように、肉太である。口やや大きく唇薄く、そこから綻(ほころ)びる歯の白さ、象牙のような光がある。秀た額、角度(かど)立った頤、頬骨低く耳厚く、頸足(えりあし)長く肩丸く、身長(せい)の高さ五尺七八寸、囲繞(とりま)いた群集に抽出(ぬきんで)ている。垢付かぬ肌の清らかさは、手にも足にも充分現われ、神々しくさえ思われる。男性の体格に女性の美、それを加えた風采である。
 だが何という大胆なんだろう! 夕暮時とは云うものの、織田信長管理している、京都の町の辻に立ち、その信長攻撃し、その治世を詈(ののし)るとは!
 驚いているのは群集である。
 市女(いちめ)笠の女、指抜(さしぬき)の若者武士町人公卿子息二十人近くも囲繞いていたが、いずれも茫然(ぼんやり)と口をあけ、息を詰めて聞き澄ましている。反対をする者もない、同意を表する者もない。
 不思議巫女の放胆な言葉に、気を奪われているのである。
「唐寺の謎こそ奇怪である」巫女はまたもや云い出した。
「唐寺の謎を解(と)くものはないか! 唸(うな)っているのだ、恐ろしいものが! 日本の国は買われるだろう、日本の国は属国となろう。解くものはないか、南蛮寺(なんばんじ)の謎! いや恐らくあるだろう、解くがいい解くがいい! 幸福が来る、解いた者へは! だが受難も来るだろう! だが受難を避けてはならない! どんなものにも受難はある。受難を恐れては仕事出来ない……ここに集まった人達よ!」
 ここで俄(にわか)に巫女言葉は嘲笑うような調子になった。
「どんなに妾(わたくし)が説きましても、皆様方には解(わか)りますまい。解っているのは日本で数人、信長公にこの妾に、香具師(こうぐし)の頭に弁才坊、そんなものでございましょう。さあ其の中の何者が、最後に得を取りますやら、ちょっと興味がございます。オヤオヤオヤ」と巫女の調子はここで一層揶揄的になった。
「馬に念仏申しても、利目(ききめ)がなさそうでございます。そこでおさらばと致しましょう。もう日も大分(だいぶ)暮れて来た。塒(ねぐら)へ帰ったら夜になろう。ご免下され、ご免下され」
 群集を分けて不思議巫女はスタスタ北の方へ歩き出した。
 と、その時一人の若武士(わかざむらい)が先刻(さっき)から群集の中にまじり、巫女の様子をうかがっていたが、思わず呟いたものである。


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