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呉秀三先生 - 斎藤 茂吉 ( さいとう もきち )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
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 故正岡子規先生の『仰臥漫録』は、私の精神生活にはなくてかなわぬ書物の一つであった。 『仰臥漫録』の日々の筆録が明治三十四年九月に入って、「病人の息たえだえに秋の蚊帳」とか「病室蚊帳の寒さや蚊の名残」とか、「糸瓜(へちま)さへ仏になるぞ後(おく)るるな」などいうあわれな句が書いてあるようになって、その廿三日のくだりに、 九月廿三日。晴。寒暖計八十二度(午后三時) 未明家人ヲ起シテ便通アリ。朝。ヌク飯三ワン。佃煮。ナラ漬。胡桃(くるみ)飴煮。便通及繃帯トリカヘ。腹|猶(なお)張ル心持アリ。牛乳五合ココア入。小菓数個。午。堅魚(かつお)ノサシミ。ミソ汁実ハ玉葱(たまねぎ)ト芋。粥三ワン。ナラ漬。佃煮。梨一ツ。葡萄四房。間食牛乳五合ココア入。ココア湯。菓子パン小十数個。塩センベイ一、二枚。夕。焼|鰮(いわし)四尾。粥三ワン。フヂ豆。佃煮。ナラ漬。飴二切。巴里(パリ)浅井氏ヨリ上ノ如キ手紙来ル。

 こう書いてあって、そのうえの方にワットマン紙の水彩絵ハガキが張りつけてある。川の水が緩く流れていて、黒い色の目金橋(めがねばし)が架かっている。その橋が水に映っているところである。その向うに翠(みどり)の濃い山が見えて、左手には何かポプラアのような木が五、六本かいてある。その余白に「ほととぎす著。昨日虚子君の消息を読み泣きました。この画はグレーといふ田舎景色なり御病床の御慰みまで差上候。木魚生」とあり、それから「只今は帰りがけに巴里によりて遊居候その内に帰朝致|久振(ひさしぶり)にて御伺申すべく存候御左右その後いかが被為(なされ)入候|哉(や)。三十四年八月十八|呉(くれ)秀三」とあり、その他和田英作満谷国四郎(みつたにくにしろう)氏も通信している。正岡先生はこの絵ハガキを『仰臥漫録』と簽(せん)した帳面に張りつけて朝な夕なにながめておられたのであった。私は計らずも故正岡先生と呉先生との精神芸術上のこの交渉を見|出(いだ)して、不思議因縁のつらなりに感動したのであったことを今想起する。
 呉先生の欧洲留学に出掛けられたときの諸名家の送別の詩歌帖(しいかちょう)を私は一度先生の御宅で拝見した。それは長風万里と題した帖であって、その中に正岡先生の自筆俳句がある。「瓜(うり)茄子(なすび)命があらば三年目」というのである。正岡先生はこの時既に病の篤(あつ)いのを知っておられた。三年の後呉先生の帰朝されて再たび面会された時、相互のその喜びその憂い誠に如何(いかが)であったろうか想像余りあることである。


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