四次元漂流 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )
はじめに
この「」という妙な題名が、読者諸君を今なやましているだろうことは、作者もよく知っている。
だが作者は、この妙な題名について、今何よりも先に、それを説明することはしない。だから読者諸君は、ここしばらくの間、この妙な題名についてなやまされるであろう。読者諸君が、さようになやんでいるのを、作者は意地わるい微笑をうかべて、悪魔じみた楽しさを只(ただ)一人味わいたいつもりではない。いや、それとは反対に、読者諸君の興味を最も大きくしたいために、今はわざと何も説明しないのだ。
この小説が先へ進むに従って、「四次元漂流」という題名の謎は、おいおいと明らかになってくるであろう。そしてその時こそ、諸君はこれまでに聞いたことのない不思議な世界にふみ入っている御自分を発見することであろう。大きなおどろきと、すばらしい魅力とが、科学真理の車体に諸君を乗せ科学推理の車輪をつけて、まっしぐらに神秘の世界へ向って走っているのに気づかれるであろう。それはともかく、この神秘な物語も、その発端(ほったん)は一見平凡な木見雪子(きみゆきこ)学士の行方不明事件から始まる。
学士嬢の失踪(しっそう)
中学二年生の三田道夫(みたみちお)は、その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついた。
緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道(ほどう)、両側にうちつづいた思い思いの塀(へい)、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出(そうで)の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭(かげ)や横丁(よこちょう)の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付(めつき)をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。
あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停(とま)っていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。
「あ、何かかわった出来事が起ったんだな」
それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。
「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」
もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞えそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝(けさ)学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知れていなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停っている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。
道夫は、植込(うえこみ)の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がつき、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。
「只今(ただいま)。お母さん……」
格子戸(こうしど)を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。
「あ、道夫かい。おかえりなさい」
母の声がすぐ聞えた。それは別に取乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息(ためいき)をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。
道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。
「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」
「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」
「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」
道夫は、鞄(かばん)を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。
「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」
「へえ、雪子姉さんが……」
道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢(とし)は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁(ふち)なし眼鏡(めがね)をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。
この小説が先へ進むに従って、「四次元漂流」という題名の謎は、おいおいと明らかになってくるであろう。そしてその時こそ、諸君はこれまでに聞いたことのない不思議な世界にふみ入っている御自分を発見することであろう。大きなおどろきと、すばらしい魅力とが、科学真理の車体に諸君を乗せ科学推理の車輪をつけて、まっしぐらに神秘の世界へ向って走っているのに気づかれるであろう。それはともかく、この神秘な物語も、その発端(ほったん)は一見平凡な木見雪子(きみゆきこ)学士の行方不明事件から始まる。
学士嬢の失踪(しっそう)
中学二年生の三田道夫(みたみちお)は、その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついた。
緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道(ほどう)、両側にうちつづいた思い思いの塀(へい)、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出(そうで)の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭(かげ)や横丁(よこちょう)の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付(めつき)をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。
あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停(とま)っていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。
「あ、何かかわった出来事が起ったんだな」
それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。
「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」
もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞えそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝(けさ)学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知れていなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停っている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。
道夫は、植込(うえこみ)の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がつき、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。
「只今(ただいま)。お母さん……」
格子戸(こうしど)を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。
「あ、道夫かい。おかえりなさい」
母の声がすぐ聞えた。それは別に取乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息(ためいき)をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。
道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。
「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」
「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」
「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」
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「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」
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道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢(とし)は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁(ふち)なし眼鏡(めがね)をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。
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- [[Google]] 海野十三 四次元
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- [[Yahoo]] 謎の透明世界―四次元漂流
- http://jp.f38.mail.yahoo.co.jp/ym/ShowLetter?MsgId=2775_17310639_79958_635_609_0_36429_-1_0&Idx=0&YY=45085&inc=25&order=down&sort=date&pos=0&view=a&head=b&box=Sent
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- [[Google]] 謎の四次元カバン
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- [[Google]] なぞのよじげんかばん
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トラペーズ十三神殿の項を参照。 -
2008年度 - 青学野宿愛好会のHP(3個め) - 青学野宿愛好会のHP(3個め)
ここに2008年度の活動をまとめたい気がする4月新歓鹿沼公園鍋20086月樹海野宿、**樹海野宿記(中尾)8月水戸ママチャリレース10月京都ヒッチハイクレース12月歌舞伎町で愚痴聞きます -
2009 - あんどれ うぃき - あんどれ うぃき
◆2009 WORLDS「The Tempest」「十三夜」 -
十三龍門(真) - 麻雀ローカルルールWiki - 麻雀ローカルルールWiki
読みシーサンロンメン正式名称別名和了り飜トリプル役満(門前のみ)牌例解説国士無双を天和または地和で和了る。本来国士無双は作るものではなく、十三不塔に近い性格の役だったとされる。成分分析十三龍門の35 -
自作キャラでバトルロワイアル - 2chパロロワ事典@Wiki - 2chパロロワ事典@Wiki
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絵の下手さをネタで誤魔化すことにした部室出現日 木曜・休日以外後期になって朝起きれなくなった 目覚ましがいつの間にか切れてる\(^o^)/改名実は大学生になって初めてジャンプを読んだ -
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文化史家・評論家の海野弘さんに関する情報をまとめております。タイトルの「Look thesame(ルック・ザ・セイム)」は、『海野弘コレクション3 歩いて、見て、書いて 私の一〇〇冊の本の旅』(右文
