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四次元漂流 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )

  • ◆第四次元の小説/幻想数学短編集 幻想小説/数学/物理学
  • Mr.Children 四次元 Four Dimensions/ミスチル シングル CD
  • ◆◇アルダーニ『第四次元』初版◇◆ハヤカワSFシリーズ3259
  • ブルーバックス『ペンローズのねじれた四次元』竹内馨 [美本]
  • ◆●(594)スティーヴン・スピルバーグ「四次元への招待」LD
  • 四次元の殺人 SFミステリー傑作選 海野十三 江戸川乱歩 香山滋
  • ▽メロン記念日 2008 ライブ 四次元ジャック 生写真村田めぐみ
  • ■Mr.Children■四次元 For Dimensions■マキシ
  • 31四次元問答 都筑卓司 1992.4.1
  • ▽メロン記念日 2008 ライブ 四次元ジャック 生写真村田めぐみ
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   はじめに  この「」という妙な題名が、読者諸君を今なやましているだろうことは、作者もよく知っている。  だが作者は、この妙な題名について、今何よりも先に、それを説明することはしない。だから読者諸君は、ここしばらくの間、この妙な題名についてなやまされるであろう。読者諸君が、さようになやんでいるのを、作者は意地わるい微笑をうかべて、悪魔じみた楽しさを只(ただ)一人味わいたいつもりではない。いや、それとは反対に、読者諸君の興味を最も大きくしたいために、今はわざと何も説明しないのだ。
 この小説が先へ進むに従って、「四次元漂流」という題名の謎は、おいおいと明らかになってくるであろう。そしてその時こそ、諸君はこれまでに聞いたことのない不思議世界にふみ入っている御自分発見することであろう。大きなおどろきと、すばらしい魅力とが、科学真理の車体に諸君を乗せ科学推理車輪をつけて、まっしぐらに神秘世界へ向って走っているのに気づかれるであろう。それはともかく、この神秘物語も、その発端(ほったん)は一見平凡な木見雪子(きみゆきこ)学士行方不明事件から始まる。

   学士嬢の失踪(しっそう)

 中学二年生の三田道夫(みたみちお)は、その日の午後学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついた。
 緑あざやかな葉桜並木白い小石を敷きつめた鋪道(ほどう)、両側にうちつづいた思い思いの塀(へい)、いつもは人影とてほとんど見られない静か住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出(そうで)の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭(かげ)や横丁(よこちょう)の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付(めつき)をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。
 あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停(とま)っていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。
「あ、何かかわった出来事が起ったんだな」
 それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。
「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」
 もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞えそうなものだ。それとも強盗明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝(けさ)学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知れていなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停っている二台の自動車の一方に、警視庁文字があり、他の車には警察署文字があるのを見た。
 道夫は、植込(うえこみ)の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がつき、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。
「只今(ただいま)。お母さん……」
 格子戸(こうしど)を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。
「あ、道夫かい。おかえりなさい
 母の声がすぐ聞えた。それは別に取乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息(ためいき)をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。
 道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。
お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」
「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」
「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」
 道夫は、鞄(かばん)を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。
「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」
「へえ、雪子姉さんが……」
 道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢(とし)は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁(ふち)なし眼鏡(めがね)をかけている美しい若い研究者――その木見雪子突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。


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