地球要塞 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )
怪放送――お化(ば)け地球事件とは?
西暦一九七〇年の夏――
折から私は、助手のオルガ姫をつれて、絶海(ぜっかい)の孤島(ことう)クロクロ島にいた。
クロクロ島――というのは、いくら地図をさがしても、決して見つからないであろう。
クロクロ島の名を知っている者は、この広い世界中に、まず五人といないであろう。クロクロ島は、その当時、西経(せいけい)三十三度、南緯(なんい)三十一度のところに、静かに横たわっていた。
そこは、地図のうえでみて、ざっと、南米ブラジルの首都リオを、南東へ一千三百キロほどいったところだった。
「その当時……横たわっていた」といういい方は、どうもへんないい方だ、と読者は思われるであろうが、決してへんないい方ではない。そのわけは、いずれだんだんと、おわかりになることであろう。
さて私は今、そのクロクロ島のことについて、自慢らしく読者に吹聴(ふいちょう)しようというのではない。私が今、ぜひとも、ここに記しておかなければならないと思うのは、或る夜、島のアンテナに感じた奇怪きわまる放送についてである。
その夜、私は例によって、只ひとり食事をすませると、古めかしい籐椅子(とういす)を、崖(がけ)のうえにうつした。
海原(うなばら)を越えてくる涼風(りょうふう)は、熱っぽい膚(はだ)のうえを吹いて、寒いほどであった。仰(あお)げば、夜空は気持よく晴れわたり、南十字星は、ダイヤモンドのようにうつくしく輝いて、わが頭上にあった。
私は、いささかわびしい気もちであった。
その気もちを、ぶち破ったのは、オルガ姫の疳高(かんだか)い悲鳴だった。
「あッ、大変、大変よ」
疳高い叫び声と同時にオルガ姫は、とぶように駈けてきた。
「どうした、オルガ姫!」
「怪放送がきこえていますのよ。六万|MC(エムシー)のところなんですの」
姫は流暢(りゅうちょう)な日本語で、早口に喋る。
「六万MC、するとこの間も、ちょっと聴(きこ)えた怪放送だね。――録音器は、廻っているだろうね」
「ええ、始めから廻っています」
「ああ、よろしい。では、五分ほどたって、そっちへいく」
姫は、にっこりとうなずいて、地下室へつづく階段の下り口の方へ、戻っていった。
六万MCの怪放送!
この怪放送をうまくとらえたのは、これで二度目だ。前回は、惜しくも目盛盤(めもりばん)を合わせているうちに、消え去った。いずれそのうちまた放送されるものと思い、このたびは、自動調整に直しておき怪放送が入ると同時に、オルガ姫が活躍するようにしておいたのである。
さて今夜は、録音器が、どんな放送を捕えたであろうか。
私は、階段を下りていった。
オルガ姫は、録音テープを捲きとって、発声装置にかけているところであった。
私は、すぐ始めるように命じた。
モートルが動きだすと、壁の中にはめこんだ高声器から声がとびだした。
「――器械が捕えたものであって、時は西暦一九九九年九月九日十九標準時、発信者は、金星に棲(す)むブブ博士……」
そこまでは、明瞭(めいりょう)にきき取れたが、そのあとが、空電(くうでん)とおぼしきはげしい雑音のため、全く意味がとれなくなってしまった。私は、舌打をせずにいられなかった。
しかし聴取不能(ちょうしゅふのう)の時間は、わずか三十秒で終り、それから先は、またはっきり聴(きこ)えだした。
「……ところが、昨夜(ゆうべ)の観測によると、地球の表面は一変してしまった。なによりも驚かされたことは、陸地の形がすっかり違ってしまったことである。
地球に特有な逆三角形の陸地の形は、どこにも見られなくなり、それから、こまかな海岸線も全く消失し、只有るのは、掴(つかま)えどころのない、のっぺりした曲線で区切られた海岸線が見えるだけである。ことに、記憶すべきは、陸地の面積が、わが金星から見える範囲内でも、約五分の一消失してしまった。
まことにふしぎな地球の異変現象であるといわなければならない。この現象を、一括して吾れブブ博士の感じをいいあらわすならば、地球は、この三十年の間を、化けてしまった。すなわち『お化(ば)け地球事件』と呼びたい。
なぜ、地球はかくもふしぎな化け方をしたのであろうか。それは今後の研究に俟(ま)って、明らかになるであろう――これがブブ博士の報告である。
西暦一九九九年といえば、今から約三十年後のことである。果してわが地球は、そのころ、左様(さよう)な異変を起すであろうか。もしそのような異変を起すものとせば、その原因は、如何なることであろうか。
金星のブブ博士でなくとも、われわれこの地球に棲んでいる者として、たいへん気になることである。もしやそれは、例の大陰謀(だいいんぼう)……」
というところで、放送者の声は、惜しくもまた空電に遮(さえぎ)られてしまった。その後は、ついに、聴くことができないでしまった。空電が消えたときには、その怪放送も、空間から消えていた。
汎米連邦(はんべいれんぽう)――いよいよ第三次世界大戦か?
「お化け地球事件」をつたえた怪放送の謎!
私は、只ひとり苛々し、呻吟(しんぎん)した。
その怪放送者は、何処の何者であるかわからないが、たしかに、この地球のうえの、どこかに棲んでいる者にちがいない。彼は、どうして、その「お化け地球事件」のことを知ったのであろうか。
クロクロ島の名を知っている者は、この広い世界中に、まず五人といないであろう。クロクロ島は、その当時、西経(せいけい)三十三度、南緯(なんい)三十一度のところに、静かに横たわっていた。
そこは、地図のうえでみて、ざっと、南米ブラジルの首都リオを、南東へ一千三百キロほどいったところだった。
「その当時……横たわっていた」といういい方は、どうもへんないい方だ、と読者は思われるであろうが、決してへんないい方ではない。そのわけは、いずれだんだんと、おわかりになることであろう。
さて私は今、そのクロクロ島のことについて、自慢らしく読者に吹聴(ふいちょう)しようというのではない。私が今、ぜひとも、ここに記しておかなければならないと思うのは、或る夜、島のアンテナに感じた奇怪きわまる放送についてである。
その夜、私は例によって、只ひとり食事をすませると、古めかしい籐椅子(とういす)を、崖(がけ)のうえにうつした。
海原(うなばら)を越えてくる涼風(りょうふう)は、熱っぽい膚(はだ)のうえを吹いて、寒いほどであった。仰(あお)げば、夜空は気持よく晴れわたり、南十字星は、ダイヤモンドのようにうつくしく輝いて、わが頭上にあった。
私は、いささかわびしい気もちであった。
その気もちを、ぶち破ったのは、オルガ姫の疳高(かんだか)い悲鳴だった。
「あッ、大変、大変よ」
疳高い叫び声と同時にオルガ姫は、とぶように駈けてきた。
「どうした、オルガ姫!」
「怪放送がきこえていますのよ。六万|MC(エムシー)のところなんですの」
姫は流暢(りゅうちょう)な日本語で、早口に喋る。
「六万MC、するとこの間も、ちょっと聴(きこ)えた怪放送だね。――録音器は、廻っているだろうね」
「ええ、始めから廻っています」
「ああ、よろしい。では、五分ほどたって、そっちへいく」
姫は、にっこりとうなずいて、地下室へつづく階段の下り口の方へ、戻っていった。
六万MCの怪放送!
この怪放送をうまくとらえたのは、これで二度目だ。前回は、惜しくも目盛盤(めもりばん)を合わせているうちに、消え去った。いずれそのうちまた放送されるものと思い、このたびは、自動調整に直しておき怪放送が入ると同時に、オルガ姫が活躍するようにしておいたのである。
さて今夜は、録音器が、どんな放送を捕えたであろうか。
私は、階段を下りていった。
オルガ姫は、録音テープを捲きとって、発声装置にかけているところであった。
私は、すぐ始めるように命じた。
モートルが動きだすと、壁の中にはめこんだ高声器から声がとびだした。
「――器械が捕えたものであって、時は西暦一九九九年九月九日十九標準時、発信者は、金星に棲(す)むブブ博士……」
そこまでは、明瞭(めいりょう)にきき取れたが、そのあとが、空電(くうでん)とおぼしきはげしい雑音のため、全く意味がとれなくなってしまった。私は、舌打をせずにいられなかった。
しかし聴取不能(ちょうしゅふのう)の時間は、わずか三十秒で終り、それから先は、またはっきり聴(きこ)えだした。
「……ところが、昨夜(ゆうべ)の観測によると、地球の表面は一変してしまった。なによりも驚かされたことは、陸地の形がすっかり違ってしまったことである。
地球に特有な逆三角形の陸地の形は、どこにも見られなくなり、それから、こまかな海岸線も全く消失し、只有るのは、掴(つかま)えどころのない、のっぺりした曲線で区切られた海岸線が見えるだけである。ことに、記憶すべきは、陸地の面積が、わが金星から見える範囲内でも、約五分の一消失してしまった。
まことにふしぎな地球の異変現象であるといわなければならない。この現象を、一括して吾れブブ博士の感じをいいあらわすならば、地球は、この三十年の間を、化けてしまった。すなわち『お化(ば)け地球事件』と呼びたい。
なぜ、地球はかくもふしぎな化け方をしたのであろうか。それは今後の研究に俟(ま)って、明らかになるであろう――これがブブ博士の報告である。
西暦一九九九年といえば、今から約三十年後のことである。果してわが地球は、そのころ、左様(さよう)な異変を起すであろうか。もしそのような異変を起すものとせば、その原因は、如何なることであろうか。
金星のブブ博士でなくとも、われわれこの地球に棲んでいる者として、たいへん気になることである。もしやそれは、例の大陰謀(だいいんぼう)……」
というところで、放送者の声は、惜しくもまた空電に遮(さえぎ)られてしまった。その後は、ついに、聴くことができないでしまった。空電が消えたときには、その怪放送も、空間から消えていた。
汎米連邦(はんべいれんぽう)――いよいよ第三次世界大戦か?
「お化け地球事件」をつたえた怪放送の謎!
私は、只ひとり苛々し、呻吟(しんぎん)した。
その怪放送者は、何処の何者であるかわからないが、たしかに、この地球のうえの、どこかに棲んでいる者にちがいない。彼は、どうして、その「お化け地球事件」のことを知ったのであろうか。
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文化史家・評論家の海野弘さんに関する情報をまとめております。タイトルの「Look thesame(ルック・ザ・セイム)」は、『海野弘コレクション3 歩いて、見て、書いて 私の一〇〇冊の本の旅』(右文
