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姥捨 - 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • ●太宰治【文豪ナビ 太宰治 ナイフを持つ前にダザイを読め!!】
  • 太宰治 『太宰治全集 3』 (ちくま文庫)
  • 太宰治をおもしろく読む方法 (単行本) 山口 俊雄 (編集)
  • 太宰治 人間失格 ヴィヨンの妻 お伽草子 惜別 津軽 5冊
  • 古書「太宰治全集 第2巻」筑摩書房、昭和46年発行
  • ◎◎ 太宰治集/人間失格 斜陽 走れメロス ヴィヨンの妻◎◎
  • 定本 太宰治全集 初版 筑摩書房 中古
  • 太宰治本「太宰萌え 入門者のための文学ガイドブック」岡崎武志
  • ◆◇ 太宰治著「女生徒」(角川文庫)
  • 朗読CD 朗読街道22「富嶽百景」太宰治 試聴あり
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 そのとき、 「いいの。あたしは、きちんと仕末(しまつ)いたします。はじめから覚悟していたことなのですほんとうに、もう。」変った声で呟(つぶや)いたので、
「それはいけない。おまえの覚悟というのは私にわかっている。ひとりで死んでゆくつもりか、でなければ、身ひとつでやけくそに落ちてゆくか、そんなところだろうと思う。おまえには、ちゃんとした親もあれば、弟もある。私は、おまえがそんな気でいるのを、知っていながら、はいそうですかとすまして見ているわけにゆかない。」などと、ふんべつありげなことを言っていながら、嘉七も、ふっと死にたくなった。
「死のうか。一緒に死のう。神さまだってゆるして呉れる。」
 ふたり、厳粛に身支度をはじめた。
 あやまった人を愛撫した妻と、妻をそのような行為にまで追いやるほど、それほど日常生活を荒廃させてしまった夫と、お互い身の結末を死ぬことに依(よ)ってつけようと思った。早春の一日である。そのつきの生活費が十四、五円あった。それを、そっくり携帯した。そのほか、ふたりの着換えの着物ありったけ、嘉七のどてらと、かず枝の袷(あわせ)いちまい、帯二本、それだけしか残ってなかった。それを風呂敷包み、かず枝がかかえて、夫婦が珍らしく肩をならべての外出であった。夫にはマントがなかった。久留米絣(くるめがすり)の着物にハンチング、濃紺の絹の襟巻(えりまき)を首にむすんで、下駄だけは、白く新しかった。妻にもコオトがなかった。羽織着物も同じ矢絣模様銘仙(めいせん)で、うすあかい外国製の布切(ぬのきれ)のショオルが、不似合いに大きくその上半身を覆っていた。質屋の少し手前夫婦はわかれた。
 真昼の荻窪の駅には、ひそひそ人が出はいりしていた。嘉七は、駅のまえにだまって立って煙草をふかしていた。きょときょと嘉七を捜し求めて、ふいと嘉七の姿を認めるや、ほとんどころげるように駈け寄って来て、
成功よ。大成功。」とはしゃいでいた。「十五円も貸しやがった。ばかねえ。」
 この女は死なぬ。死なせては、いけないひとだ。おれみたいに生活に圧(お)し潰(つぶ)されていない。まだまだ生活する力を残している。死ぬひとではない。死ぬことを企てたというだけで、このひとの世間への申しわけが立つ筈(はず)だ。それだけで、いい。この人は、ゆるされるだろう。それでいい。おれだけ、ひとり死のう。
「それは、お手柄(てがら)だ。」と微笑してほめてやって、そっと肩を叩(たた)いてやりたく思った。「あわせて三十円じゃないか。ちょっとした旅行ができるね。」
 新宿までの切符を買った。新宿で降りて、それから薬屋に走った。そこで催眠剤(さいみんざい)の大箱を一個買い、それからほかの薬屋に行って別種の催眠剤を一箱買った。かず枝を店の外に待たせて置いて、嘉七は笑いながらその薬品を買い求めたので、別段、薬屋にあやしまれることはなかった。


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