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安吾巷談 09 田園ハレム - 坂口 安吾 ( さかぐち あんご )

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  • 坂口安吾 『坂口安吾全集 16』 (ちくま文庫)
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  • 坂口安吾「安吾巷談」
  • ■単行本■安吾捕物帖 坂口安吾
  • ●坂口安吾【能面の秘密 安吾傑作推理小説選】角川書店
  • 坂口安吾「文明開化・安吾捕物帖」
  • 【2976】昭和25 安吾巷談/坂口安吾
  • ☆明治開化安吾捕物帖〈上〉 (1983年)[古書]坂口 安吾☆切手O
  • 文庫 坂口安吾3冊 新日本地理安吾捕物帖ふるさとに寄する讃歌
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安吾巷談 田園ハレム  大戦争のあとというものは何がとびだすか見当がつかない。日本全土の主要都市が焼野原だから、どういう妖怪変化がとびだしても不似合ということはない。
 覚悟はしていたことだから、パンパンやオカマや集団強盗など月並であったが、アロハにはおどろいた。
 なにぶん、アロハというものは、妖怪として登場したものではない。ともかく焼跡にも建設的な気風が起り、いたずら戦争の惨禍を身につけてデカダンスに身をもちくずしてはいかんというような大方の輿望(よぼう)にこたえて、美とは何ぞや、これである。戦後、美意識の初の出動がアロハであったから、この次には何がでるかと思うと、怖れおののいたのである。
 ストリップなどゝいうものは、着物をぬげば誰でもなれるのだから、創造せられたもの、衣裳とよぶことのできない原始風俗であるけれども、アロハは衣裳であるぞ。アロハは風をきり、銀座の風も、新宿の風も、奥州蛇谷村の風も、みんなアロハにきりまくられた。女の影のうすいこと。パーマネントでこれ対抗につとめても、とても敵ではなかったようだ。
 美神登場で、こんな唐突なのは歴史に類がなかったかも知れない。概して都心流行というものは、モガモボにせよ、いくらか当代の最高芸術に心得もあり、寄らば逃げるぞという人種のものであったが、戦後都心はクリカラモンモンの熱血児に占領されて、日本中、アロハとパンパンに完全にいかれてしまった。
 フォーブなどというのはアトリエの小細工だが、アロハは熱血躍動する美の化身そのものであるぞ。芸術家創造能力などゝいうものは箱庭のようなものだ、と私がシミジミ嘆いたのは当然だ。巷談師安吾想像力がタカの知れたものであるのは当然らしいが、ダ・ヴィンチにしたところで、けっしてアロハほど唐突なイマジネーションをめぐらしてはいないのである。原子バクダンでもチャンと筋は通っている。アロハの出現に至っては筋はない。アトリエ研究室のハゲ頭どもは、一撃のもとに脳天をやられ、毛脛をやられ、みんな、おそれ入りましたと言った。
 アロハは突如として消え去(う)せてしまったが、世を忍び地下へくぐったにすぎない。美神アロハは生きている。否、生きているどころか、指令を発し、現に美のもろもろはアロハの大きな手におさえられているのである。惑星アロハをめぐる小遊星タップダンス程度なのが今の世の流行であり芸術だ。それぐらいアロハは大きい。
 フジタが河童アタマでモンマルトル奇襲作戦成功をおさめても、モンマルトル河童アタマになったわけではないのである。わずかに東京大辻司郎の頭がそうなったにすぎないほど感化力は弱小であった。フジタほどの芸術家が日夜に想をねり、たくみにたくんで編みだした創作も、ただ彼自身のポートレートをかざるだけのものにすぎない。だから、芸術家の如きはダメだ。彼らの傑作もたかが小遊星である。流星ですらない。アロハは恒星であるぞ。
 美神アロハの登場現世暴力によって一撃した。それをきたアンチャンの腕ッ節のせいではなくて、着想の革命的な新風によってだ。美神アロハの創世記。そして爾後の芸術は、新恒星をめぐって歩きだす。仕方がない。アロハは地下へくぐったが、決して死なないのである。
 諸君は敵をあなどっているようだ。しかし諸君地下へくぐったものを甘く見てはいかん。徳球ごときチョロ/\のホーキ星とは質がちごう。とてもダメなんだ。ぼくはもうシャッポをぬいで、敵意をサラリとすてている。それはぼくがかねて美の新しい衣裳について想をねるところがあったから、敵の抜群の実力を見ぬく神速にめぐまれていたのである。一時抗戦したが、すぐ白旗をかかげた。謀略的敗退とちごう。私の心境は明鏡止水である。
 アロハは完全に地下へくぐった。銀座を歩いてみたまえ。あれほど抜群であったG・?の兵隊服が全然目をひかなくなったではないか。男女いずれも程よく美の常識を身につけ、文化というものの必然の相を身につけて、げにうるわしく破綻がない。特にダブルという洋服をきて、単原色ネクタイをクビにはためかす青年紳士は三年前にアロハをきていた人たちである。


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