富士に就いて 関連リンク

太宰 治 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

富士に就いて - 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • ★大富士ゴルフ場★最大8000円割引券★富士急株主優待
  • どこでもドラえもん★富士山限定★富士山ドラ2★赤★根付
  • ☆全国ご当地ストラップ/富士山編ヤンキーの頭が富士山・新品☆
  • ☆全国ご当地ストラップ/富士山編ヤンキーの頭が富士山・新品☆
  • 第3弾 忍野・清里からの富士山と富士五湖の写真 129枚 d
  • 富士急行 電車バス 富士急ハイランド 株主優待券 14枚あ
  • 富士サファリパーク入園割引券・富士山こどもの国保護者割引券
  • 6-x191 富士山 本栖湖逆さ富士 テレカ
  • ★大富士ゴルフ場★最大8000円割引券★富士急株主優待
  • ★最新!富士急行(富士急ハイランド) 株主優待3点セット★
 甲州御坂峠(みさかとうげ)の頂上に、天下茶屋という、ささやかな茶店がある。私は、九月十三日から、この茶店の二階を借りて少しずつ、まずしい仕事をすすめている。この茶店の人たちは、親切である。私は、当分、ここにいて、仕事にはげむつもりである。

 天下茶屋、正しくは、天下一茶屋というのだそうである。すぐちかくのトンネルの入口にも「天下第一」という大文字が彫り込まれていて、安達謙蔵、と署名されてある。この辺のながめは、天下第一である、という意味なのであろう。ここへ茶店を建てるときにも、ずいぶん烈(はげ)しい競争があったと聞いている。東京からの遊覧の客も、必ずここで一休みする。バスから降りて、まず崖の上から立小便して、それから、ああいいながめだ、と讃嘆の声を放つのである。
 遊覧客たちの、そんな嘆声に接して、私は二階で仕事がくるしく、ごろり寝ころんだまま、その天下第一のながめを、横目で見るのだ。富士が、手に取るように近く見えて、河口湖が、その足下に冷く白くひろがっている。なんということもない。私は、かぶりを振って溜息(ためいき)を吐く。これも私の、無風流のせいであろうか。

 私は、この風景を、拒否している。近景の秋の山々が両袖からせまって、その奥に湖水、そうして、蒼空富士の秀峰、この風景の切りかたには、何か仕様のない恥かしさがありはしないか。これでは、まるで、風呂屋のペンキ画である。芝居書きわりである。あまりにも註文とおりである。富士があって、その下に白く湖、なにが天下第一だ、と言いたくなる。巧(たくみ)すぎた落ちがある。完成され切ったいやらしさ。そう感ずるのも、これも、私の若さのせいであろうか。

 所謂(いわゆる)「天下第一」の風景にはつねに驚きが伴わなければならぬ。私は、その意味で、華厳(けごん)の滝を推す。「華厳」とは、よくつけた、と思った。いたずらに、烈しさ、強さを求めているのでは、無い。私は、東北の生れであるが、咫尺(しせき)を弁ぜぬ吹雪の荒野を、まさか絶景とは言わぬ。人間に無関心な自然精神自然宗教、そのようなものが、美しい風景にもやはり絶対に必要である、と思っているだけである。
 富士を、白扇さかしまなど形容して、まるでお座敷芸にまるめてしまっているのが、不服なのである。富士は、熔岩の山である。あかつき富士を見るがいい。こぶだらけの山肌が朝日受けて、あかがね色に光っている。私は、かえって、そのような富士の姿に、崇高を覚え、天下第一を感ずる。茶店で羊羹(ようかん)食いながら、白扇さかしまなど、気の毒に思うのである。なお、この一文茶屋の人たちには、読ませたくないものだ。私が、ずいぶん親切に、世話を受けているのだから。



底本:「太宰治全集10」ちくま文庫筑摩書房
   1989(平成元)年6月27日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集筑摩書房
   1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
初出:「国民新聞
   1938(昭和13)年10月6日発
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年3月17日作成
青空文庫作成ファイル
このファイルは、インターネット図書館青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力校正制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


太宰 治 (だざい おさむ) 以外のオススメ作品

富士に就いて (ふじについて) のリンク元

「富士に就いて-太宰 治」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN