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小川芋銭 - 山村 暮鳥 ( やまむら ぼちょう )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
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 物其のものはそれ自らに於てことごとく生命の一の象徴でなければならぬ。  また実にその象徴である。
 いつかお目にかゝりたいと思つてからすでに久しいのである、芋銭氏はそんな事は夢にもごぞんじないであらう、それが事実となつた。
 牛久駅に下車した時はもう何処の家にも灯は入つてゐた。自分恋人に逢ひにでも行くやうな気分で沐浴し、喫餐し、折柄の糠雨を宿で借りた傘で避けながら闇の夜道をいそいだ。をしへられた火の見の下まできた。そこから折れて街道に別れるのであつた。薄暗いところに鐘楼があつて、鳴らす人もないやうな鐘がふらりとぶらさがつてゐる。そろそろ芋銭情調がはじまる。遠くにあたつてこんもりした森はあるが梟の声も聴かれない。こゝは畑の原野である。桑の木の間には胡麻やかぼちやの花がしづかに咲いてゐる。街道ではよく道をたづねたが此所では逢ふ人もないので、多少さみしさと不安とが下駄足音なんどに交つて迫る。それでも分岐点には道標が立つてゐたので、迷ひもせずにやつとさつき遠くでみた森の所まできた。人声は夜遊びに行くらしい村の若者のそれであつた。道をきいたら深切にをしへてくれた。そこから芋銭氏の村までは近かつた。村に入つての第一印象は竹藪とやぶれた竹垣であつた。そのとつつきの農家に立ちよつてたづねたらそこでも親しくをしへてくれた。自分のすがたが見えなくなつてからも、そこでは壁の内で深切に怒鳴つてゐた。庭にはシンボリツクな桐の木が一本、その傍には風呂桶。此の村、自分にはまるでラビリンスの趣があつた。どこかで死んでゐる蛇の匂ひ、蚕の糞尿の匂ひ、草の匂ひ、獣の匂ひ――時時、白い化物がひよつこり出てくるので、いくどか、傘を楯にしたり、槍にしたりした。こんなことなら明日にすればよかつたと後悔しはじめた頃は、もう芋銭氏の大きな声でもすればきかれる程の距離まですゝんでゐたのである。軒先に蚊遣火など焚いて、寝ころんで笑ひながら馬鹿話をでもあらう、してゐる家もあつたが、大勢、男や女がゐるその前へ立つのにはあまりに自分は気が小さ過ぎた。樫の木などが亭々と矗立してゐるかとみれば、芒などが足もとで揺れてゐる。虫が肩にまで飛び附いてきて鳴いてゐる。店頭土間南瓜西瓜たくさん並べて、その上には柄杓だの箒だのをぶらさげておく店のお爺さんがふらりと出てきた。そして持つてゐた団扇の柄でをしへてくれた。すこし歩くまにお化がのつそりでた。びつくりして立止まるとそのお化が「こんばんは」と言つた。綺麗な女ではなかつた。なるほど芋銭氏の村は、その作品そつくりだと思つた。気味が悪くなつたので駆けだした。からつと開けつぱなした家では、こゝにも大勢集まつて高話の最中であつた。
 ちよつと伺ひます。
 ………。
 小川さんお宅はこの辺でせうか。
 む。お前はだれだい。
 あの画をかく小川さんです……。
 ああ、それか。今時分、なんだい。それや此の次の屋根の瓦の家だよ。
 さうですか、ありがたう。
 垣をへだて、桑畑をへだてての、田舎でなければ不可能問答である。
 さて漸くのことで到着した。芋銭氏はすでにおやすみであつたが、それでも※の中から眼をこすりながらでて来られた。もう宵ではない。
 芋銭氏はかやの隅、自分縁側の板敷。


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