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小熊秀雄全集-11 詩集(10)風物詩篇 - 小熊 秀雄 ( おぐま ひでお )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
全集-11 詩集(10 )風物詩東京風物伝 東京駅 東京駅は ウハバミの 燃える舌で 市民生活を呑吐する 玄関口、 朝は遅刻を怖れて 階段を一足とび 夕は 疲れ生気なく 沈黙省電に乗る 所詮、悪蛇の毒気に触れて 人々の 痲痺不感症なり。 隅田隅田河 河上より水は 河下に流るゝなり 天の摂理に従へば 古き水は 新しき水に 押しながされて 海に入るなり 一銭蒸気五銭となり つひに争議も起るなり あゝ、忙しき市民のためには 渡るに橋は長すぎ せつかちな船頭にとつては 水の流れは悠々すぎる、 丸の内戦争に非ず事変と称す』と ラヂオは放送する 人間に非ず人と称すか あゝ、丸の内建物に非ずして資本と称すか、 こゝに生活するもの すべて社員なり 上級を除けば すべて下級社員なり。


浅草

汝 観音様よ、
浅草管理人よ、
君は鳩には豆を我等には自由を――
腹ふくるゝまで与へ給へ、
彼は他人の投げた
賽銭で拝んでゐた
かゝる貧乏にして
チャッカリとした民衆
御利益を与へ給へ


地下鉄

昼でも暗い中を
走らねばならない
お前不幸な都会旅人よ、
地下鉄走るとき
爽快な風が吹く
でも少しも嬉しくない
政治といふ大きな奴の
肛門の中を走るやうだから
地下鉄
つまり多少臭いところだ。


銀座

もし東京に裏街といふものが
なかつたら
銀座日本一の表街だが、
表は表だが
銀座
医者にひつくりかへされた
トラホーム眼瞼のやうだ
ブツブツと華美(はで)で賑やかな
消費の粒が
まつかにただれて列んでゐる
突如
  ウヰンドーに
煉瓦を投げつけて
金塊を盗む悪漢現る。


旭川風物詩

師団通り所見

鈴蘭通りの美しさ
北国の夜の街は白痴
商店街ネオンサイン
光りの瞼をうごかさず
もつとも人生万事
動けば金がかかるからね
でも街を静寂から救ふものは
光りの明滅ではなく
市民活動的であることだ!
光りも、心も
共に明るい街となれ
我々の旭川よ!


北海ホテルの茶房

北海ホテルの茶房で
僕はひとゝきの旅愁を味ふ
こゝは旭川ジャーナリストの巣で
卓上桜草をふるはして
打合せをしたり原稿を書いたり
フレー、ジャーナリスト
文化新聞から
市民のために
精々イキのよい
人生を探しだしてくれよ


火の見やぐら

古き火の見
時を越えてそゝり立つ
茫漠たる街と原野
夜も昼も見守る
はてもなき展望
こゝで火の番でも勤めたら
相当ながいきが出来さうだ


旭橋感想

旭橋、橋に掲げられた大額には
『誠』と書(かか)れてあつた
この橋をわたるとき
市民は脱帽した
私も敬意を表した
しかし橋や建築師に
私は脱帽したのではない
人間の『誠実』を愛する
こころに脱帽したのだ
愛と、誠実の街
旭川よ!


常磐公園所見

公園築山にのぼつて
天下の形勢を見れば
池の水ぬるみ
つつじ咲く
軍都にこの平穏あり
ボートの中の仲善い男女
間もなく彼女
軍人産むであらう!


東京短信

扇風器の歌

あゝ、扇風器はまはれども
人造の風は悲し
恋をするには
なまぬるく
アクビをするには力なし


夜の喫茶

ぼんぼりの下に
彼女は、その
ぼんぼりよりも、ぼんやり
ぼんやりと、ぼんやり
青春を流すなり


倦怠

爽やかな
昼は去つた
彼女にだるい――夜が来た
誰か
彼女
注射を――、
注射を――、


鳩時計

鳩時計
扉をひらいて鳩が出てきた
さてクックッと鳴いたきりで
何んにも報告することが
ないと引退つた
報告のない人生
まさに彼女のいふ通り


池袋風景

池袋モンパルナスに夜が来た
学生無頼漢芸術家
街にでてくる
彼女のために
神経をつかへ
あまり、太くもなく
細くもない
在り合せの神経を――


銀座所感

足は小さく
背は高く
青春短かく
眉長く
靴屋と服屋の見本が通る


浅草流浪人の歌

観音さまに祈らうには
手をうごかせば腹がへる
煙草のない日は
牢獄のごとし
飯のない日は
死のごとし


隅田

隅田
腐臭は
水面をただよひ
罐詰のカン、
赤い鼻緒の下駄
板つきれ、
ぐるりばかりになつた麦藁帽
青い瓶、
などがポカンポカンと浮いてくる
市民生活の断片と
人間の哀しい運命の破片
波は河岸
汚れた舌のやうに
ひたびたと舐めてゆく


底本:「新版・小熊秀雄全集第2巻」創樹社
   1990(平成2)年12月15日第1刷
入力浜野
校正:八巻美恵
1998年9月8日公開
1999年8月28日修正
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