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幕末維新懐古談 07 彫刻修業のはなし - 高村 光雲 ( たかむら こううん )

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幕末維新懐古彫刻修行のはなし  早速彫らされることになる――  この話はしにくい。が、まず大体を話すとすると、最初は「割り物」というものを稽古(けいこ)する。これはいろいろの紋様を平面の板に彫るので工字紋(こうじもん)、麻の葉、七宝、雷紋(らいもん)のような模様割り出して彫って行く。これは道具を切らすまでの手続き。それが満足に出来るようになると、今度は大黒(だいこく)の顔です。これがなかなか難儀であって、木の先へ大黒天の顔を彫って行くのであるが、円満福徳であるべきはずの面相が馬鹿に貧相になったり、笑ったようにと思ってやると、かえって泣いたような顔になる。なかなか旨(うま)く行かない。繰り返し繰り返し、旨く行くまで彫らされる。彫るものの身になると、真(まこと)に辛(つら)い。肥えさせればぼてるし、瘠(や)せさせれば貧弱になる。思うようには到底(とても)ならないのを、根気よく毎日毎晩コツコツとやっている中(うち)に、どうやら、おしまいには大黒様らしいものが出来て来ます。
 と、今度は蛭子(えびす)様――これは前に大黒稽古が積んで経験があるから、いくらか形もつく。大黒が十のものなら五つで旨く行って、まずそれでお清書(せいしょ)は上がるのです。
 すると、三番目の稽古に掛かるのが不動様の三尊である。不動様は今日でもそうであるが、その頃は、一層|成田(なりた)の不動様が盛んであったもので、不動信者が多い所から自然不動様が流行(はや)っている。不動様はまず矜羯羅童子(こんがらどうじ)から始めます。これは立像(りゅうぞう)で、手に蓮(はちす)を持っている。次が制※迦童子(せいたかどうじ)、岩に腰を掛け、片脚(かたあし)を揚げ、片脚を下げ、捻(ねじ)り棒を持っている。この二体が出来て来ると、次は本体の不動明王を彫るのです。
 次は三体に対する岩を彫る。次は火焔(かえん)という順序で段々と攻めて行くのである。この不動様の三尊を彫り上げるということは彫刻稽古としては誠に当を得たものであって、この稽古中に腕もめきめき上がって行くのです。それはそのはずであって、この三体の中(うち)には仏の種々相が含まれているからです。矜羯羅が柔和で立像、制※迦が岩へ「踏み下げ」て忿怒(ふんぬ)の相、不動の本体は安座(あんざ)であって、片手が剣、片手が縛縄(ばくなわ)、天地眼(てんちがん)で、岩がある。岩の中央に滝、すなわち水の形を示している。後は火焔で火の形である。ですから、これで立像も分る。「踏み下げ」も分る。安坐も会得(えとく)する。柔和忿怒の相から水火の形という風に諸々の形象が含まれているのであるから、調法というはおかしいが、材料としてはまことに適当であります。しかし、この不動三尊を纏(まと)め上げるには容易なことではなく、三、四年の歳月は経(た)っていて、私の年齢も、もう十六、七になっている。話しではいかにも速いが脳(あたま)や腕はそう速く進むものでない。修行盛りのこと故、一心不乱となって勉強をしたものです。

 さて、それから仏師となるには、仏師通りのことは出来ねばなりません。まずその一通りというところを話して行くと、第一如来(にょらい)です。
 如来は、如実の道に乗じて、来(きた)って正覚(しょうがく)を成す、とある通り仏の最上美称であって、阿弥陀(あみだ)、釈迦(しゃか)、薬師(やくし)、大日(だいにち)などをいうのであります。如来が一番むずかしいものとなっている。仏工は古来より阿弥陀如来の立像と、地蔵菩薩(じぞうぼさつ)の立像をむつかしい物の東西の大関に例(たと)えてある。
 次に菩薩、これは大心ありて仏道に入る義にて、すなわち仏の次に位する称号地蔵観音勢至(せいし)、文殊(もんじゅ)、普賢(ふげん)、虚空蔵(こくぞう)などある。それから天部(てんぶ)という。これは梵天(ぼんてん)、帝釈(たいしゃく)、弁天吉祥天(きっしょうてん)等。次は怒り物といって忿怒の形相をした五大尊四天、十二|神将(じんしょう)の如き仏体をいう。諸仏守護神です。それから僧分の肖像、たとえば弘法大師日蓮上人(にちれんしょうにん)のような僧体である。一々話して行けば実に数限りもないことです。余は略します。

 それから、また、本体に附属した後光がある。船(ふな)後光の正式は飛天光という。天人と迦陵頻伽(かりょうびんが)、雲を以(もっ)て後光の形をなす。


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