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復讐 - レニエ アンリ・ド ( )

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BALTHASAR ALDRAMIN. KURZE LEBENSGESCHICHTE AUS DEM ALTEN VENEDIG. アンリ・ド・レニエエ Henri de Regnier 森林太郎訳      一  バルタザル・アルドラミンは生きてゐた間、己(おれ)が大ぶ精(くは)しく知つてゐたから、己が今あの男に成り代つて身上話をして、諸君に聞かせることが出来る。もうあれが口は開く時は無い。笑ふためにも歌ふためにも、ジエンツアノの葡萄酒飲むためにも、ピエンツアの無花果(いちぢく)を食ふためにも、その外の事をするためにも、永遠に開く時は無い。なぜと云ふに、あれはサン・ステフアノの寺の石畳みの下に眠つてゐるからである。両手を胸の創口の上に組み合せて眠つてゐる。此創が一七七九年三月三日にあれが若い命を忽然(こつぜん)絶つてしまつたのである。
 バルタザルは三十になり掛けてゐた。丁度バルタザルの父と己の父とが小さい時から近附きになつてゐたやうに、バルタザルと己とも早くから親しい友達になつてゐた。己達二人は殆ど同時に父を喪つた。その亡くなつた父も略(ほゞ)同年位であつた。あれが館(やかた)と己の館とは隣同士になつてゐて、二つの館が同じ運河の水に影をうつして、変つた壁の色を交ぜ合つてゐた。バルタザルが館の正面は白塗で、それに大さの違ふ淡紅色(たんこうしょく)の大理石で刻んだロゼツトが二つ嵌めてあつた。それが化石した花のやうに見えた。己の家族の住んでゐる館、即ちヰマニ家の館は、壁が赤み掛かつた色に塗つてあつた。館から運河に降りる石階(せきかい)の上の二段は、久しく人に踏まれて※(ち)びてすべつこくなつてゐた。上から三段目は水に漬(つか)つたり水の上に出たりするので、湿つてぬる/\してゐた。
 大抵バルタザルは毎日此石階に出た。朝か昼か、さうでないと松明(たいまつ)の光に照されて晩に出た。あれが己の館の石階に片足を踏み掛ける時、反対の足に力が入ると、乗つて来たゴンドラの舟がごぼ/\と揺れた。己はあれが石階の上から呼ぶ声を聞いた。あれは随分善く話して善く笑ふ男であつた。あれも己も少しも拘束せられずに青春を弄んでゐたのである。大抵遊び場所へ己を引き出すのはあれが首唱の力であつた。あれは強い熱心と変つた工夫とを以て遊びを試みる男であつた。受用はあれが性命の核心になつてゐたので、あれはそれを多く味はふために夜を以て日に継いだ。その遊びの中で主位を占めてゐたものは恋愛であつた。
 バルタザルは女に好かれた。そして己を好いてくれた。それだから宴会の席でも散歩の街でもあれと己とは離れずにゐた。そこで二人が一層離れずにゐられるやうに、あれと己とは友達同士になつてゐる女を情人にした。偶(たま)に情人と分かれてゐる時は、二人は中洲へ往つて魚や貝の料理を食つた。凡そ市にありとあらゆる肉欲に満足を与へる遊びには、己達二人の与(あづか)らぬことは無い。そしてそんな遊びの多いことは言(げん)を須(ま)たない。尼寺の応接所に二人が据わつて、干菓子をかじつたり、ソルベツトを啜つたりしながら、尼達の饒舌(しやべ)るのを聞いて、偸目(ぬすみめ)をして尼達の胸の薄衣(うすぎぬ)の開(あ)き掛かつてゐる所をのぞいてゐたことは幾度(いくたび)であらう。二人が賭博の卓に倚つて、人の金を取つたり、人に金を取られたりしてゐたことも幾晩であらう。カルネワレの祭の頃、二人で町中(まちなか)を暴(あ)れ廻り跳ね廻つたのも幾度であらう。仮装舞踏に一しよに往つて、一しよにそこから帰る時は、二人の外套の袖と袖とが狭い巷(こうぢ)で触れ合つたものである。彼誰時(たそがれどき)の空には星の色が褪め掛かる。運河の岸まで歩いて来ると、潮気のある風が海から吹いて来て、二人の着物の裾を翻(ひるがへ)す。二人は色々に塗つた仮面の下の熱した頬の上に、暁の冷たい息を感じたのである。
 こんな風に己達の青春は過ぎた。ヱネチアの少女等は恋愛でこれに味を附けて過させてくれた。波の上をすべるゴンドラの舟が、ひまな己達の体をゆすつてくれた。歌の声や笑声が、柔かい烈しさで己達のひまな時間を慰めてくれた。その時の反響がまだ己の耳の底に残つてゐる。こんな楽しかつた日の記念の数々は、運河のうねりの数々よりも多く、その記念のかゞやきは、運河の水の光より強い。今から思つて見ても、あの生活永遠に継続することが出来たなら、己は別に何物をも求めようとはしなかつただらう。あの生活をどう変更しようと云ふ欲望は、己には無かつただらう。只目の前にゐる美しい女の微笑(ほほゑみ)が折々変つて、その唇が己に新なる刺戟を与へてくれさへしたら、己はそれに満足してゐただらう。
 併しバルタザルはさうは思はなかつた。


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