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怪艦ウルフ号 - 宮原 晃一郎 ( みやはら こういちろう )

  • f5/復原国宝仏画/宮原柳僊/佼成出版社/1969年/宮原柳僊新作仏画
  • SCRAMBLE / 宮原 学
  • 宮原学 FLASH BACK KAI FIVE シュガー・ベイブ 廃盤CD
  • CDミニアルバム 宮原学 COOL DOWN
  • も?っと!おジャ魔女どれみ★こむろゆいMAHO堂(宍戸留美/宮原永海
  • BABY’S BREATH/SUN GOES DOWNベイビーズブレス宮原学/小田原豊
  • BABY'S BREATH II ~ROCK ALIVE~★ベイビーズ・ブレス★宮原学
  • LP 宮原学 『READY STEADY GO』
  • 宮原学 ready steady go 15ah-2133
  • 土橋安騎夫廃盤CD「クロニクルズ」レベッカ・宮原芽映
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    一  時は欧洲(おうしう)大戦の半ば頃(ごろ)、処(ところ)は浪(なみ)も煮え立つやうな暑い印度洋(いんどやう)。地中海に出動中の日本艦隊食糧弾薬を運ぶ豊国丸(ほうこくまる)は、独逸(どいつ)商業破壊艦「ウルフ号」が、印度洋に向つたといふ警報受けたので、帝国軍艦「伊吹(いぶき)」の保護を求めて、しきりに無電をかけながら、西へ西へと進んでゐた。
 前部甲板の日覆(ひおひ)の下には、とぐろを巻いたロープを椅子(いす)代りに腰掛けた二人の少年が話してゐる。水夫服装をした少年下村(しもむら)といつて当年十八歳、もう一人中原(なかはら)といつて一つ下の十七歳中原は麻の白服にカラーをつけたボーイ姿だつた。二人はこの船に一緒に乗組んでから、まだ一航海をしたつきりなのに、非常に仲好(なかよし)になつて、互に仕事を助け合つたり、相談したり、将来の希望を語り合つたりするのだつた。
「ウルフの畜生奴(ちくしやうめ)、やつぱり出て来ないな。」と、下村は幾分か失望したやうな口振で言つた。「やつぱり帝国軍艦『伊吹』が恐(こは)いのだらう。」
「出て来ないで幸だらうよ。」と、中原は年下のくせに慎重な口のきゝやうをした。「こつちは武装してゐるとは言へ、十二サンチ砲を前後二門づつ載せてゐるつきり、速力だつて、高々十五ノットだ。ところが『ウルフ号』は一万八千噸もある客船補助巡洋艦に仕立てたんだから、十八サンチが二門に、十サンチが十門も備へつけてあるつて話だ。それに二十二ノツトも出ると言ふから、見つかつたら最後、こつちは撃沈されるか、自爆するかより外に途(みち)はない。」
「さうだな。だが、こつちだつて大砲があるんだから、むざむざやられはしないさ。一発でも二発でも打つて、かなはない時は、この船を爆沈させるだけの話だ。監督将校の堀(ほり)大尉も、さつき船橋(ブリツヂ)で船長にさう言つてゐた。」
 下村自分が何でも知つてゐるやうに意気込んで話した。
 中原はしばらく黙つてゐたが、そろ/\と言つた――
「それもよからう。だが、僕(ぼく)なら、魚雷を使つて、あべこべに敵艦を撃沈してやるねえ。」
「えツ! 魚雷? この船に魚雷なんて無いぢやないか。」
「いや、ある。地中海の駆逐隊(くちくたい)へ送る分が二十発ばかり積み込んである。しかも大型の二十一インチだからね。補助巡洋艦なんか、こいつを一発くらへば、木葉微塵(こつぱみぢん)だ。」
「さうか。けれども、そいつを発射する発射管がなからう。」
「いや、魚雷は発射管がなくたつて、使へるものだよ。僕の親父(おやぢ)は水雷専門の兵曹長(へいさうちやう)で水雷のことなら、僕も小さい時から、見たり、聞いたりして、よく知つてゐるんだ。実は僕、この間から、万一の場合には使つてやらうかと思つて、積んであるやつを調べて見たんだがね、ちやんと圧搾空気(あつさくくうき)もはいつてゐるし、恐しい爆薬をつめた実用頭部も取りつけてあるんだ。僕がちよつと仕掛をすれば、すぐ走つて行くやうになつてゐるんだ。」
「さうか。そいつは手廻(てまは)しがいゝな。ぢや断然やれよ。俺(おれ)も手伝はあ。貴様が発射した魚雷で、巨艦『ウルフ』が海の底に深く沈むなんざア愉快だ!」
 下村は単純で、無邪気な少年だ。もはや敵艦を沈めてしまつたやうな燥(はしや)ぎやうだ。
「ところが君、」と、中原はちよつと困つた顔をした。「二十一インチの魚雷ときたら、いゝ加減のボートぐらゐの大きさがあるから、大人でも、一人や二人の腕ぢや扱へないんだ。」
「それなら何でもない。」と、下村はすぐに言つた。「巻揚機(ウインチ)を使ふさ。俺はその方にかけちや名人だ。巻上げるんでも、振り落すんでも自由自在だ。」
「フム。」と、中原はしばらく考へてゐたが、半ば独言(ひとりごと)のやうに、
「さうだ、後部の巻揚機(ウインチ)で上甲板まで上げて、ちやんと準備をしてから、水ん中へ振り落してやれば、あとは水雷がひとりでに仕事をする。」
 中原がこゝまで言ひかけたとき、船橋(ブリツヂ)の方で、けたゝましく喇叭(らつぱ)が鳴つた。
「おうツ、非常喇叭だ!」
 二人はとび上つた。そして、右舷(うげん)近くへ走りよつて、敵はどこ? と見渡すと……
 見える、見える! 右斜、前方の水平線に三本煙突、二本マストの巨船が、こちらの航路をおさへるやうに走つて来る。四段にかまへた甲板、舳(へさき)や艫(とも)の形などからして、勿論(もちろん)、軍艦ではない。


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