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情景(秋) - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

  • 宮本百合子選集第一巻・小説集 ☆宮本百合子
  • 【本】 宮本百合子研究・宮本百合子批評 関係書 6冊 N21078
  • 宮本百合子全集 補巻一 習作一 函・月報付 新日本出版社
  • 現代日本文学全集35 宮本百合子集 筑摩書房
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  • 宮本百合子全集 28巻セット■新日本出版社■1980/82年
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     秋の景色十一月初旬) ○曇り日 日曜。ちっとも風がない。
  ○すっかり黄色くなった梧桐の葉、
  ○その落葉のひっかかっている槇の木の枝
  ○きのうの雨でまだしめっぽく黒く見えている庭木の幹。
 離れの方から マンドリンとピアノの合奏がきこえて来る。
◎ひどく雨が降っている。

 ○遠くの方で、屋根越しに松の梢がまばらに大きく左右へはり出した枝を ゆすっているのが雨中に見える。
 ○柿の木がすっかり葉をおとし、いくつかの熟した実を盛に雨にうたれている。

◎バスにのって戸塚の方へ出たら雨がザーザーふっている。バスの前方のガラスを流れている。
 降りる頃には またやんでしまっていた。
芝居のかえり。初日十二時になる(群盗。)アンキーとかいう喫茶。バーの女給。よたもん。

茶色の柔い皮のブラウズ鼠色のスーとしたズボン。クラバットがわりのマッフラーを襟の間に入れてしまっている。やせぎすの浅黒い顔、きっちりとしてかりこんだ髪。つれの女の子チェックの|アンサンブル(ポタージュをのんでいる)(赤、緑、黒的)黒いハンドバッグ手袋とをその男がもってやっている。このよた、ちっとも笑顔をせず。
「あっちへつけときましたから」
「おつけになって下さいましたの?」
「ええ」

〔欄外に〕

バアの女給。十二時頃 tea Room でポタージュをたべ トウストをたべる。ヴィンナ、トウストマダムという女 朱 赤と薄クリームの肩ぬき的な洋装、小柄二十五位


 夕方五時すぎ。

電車道のところを見るとさほどでもないが濠の側を見ると、濃くもやが立ちこめて四谷見附に入る堤が ぼんやりかすんで見える。電(街)燈はそれにとけ込んでいる。
電柱に愛刀週間の立看板
右手武者窓づくりのところで珍しく門扉をひらき 赤白のダンダラ幕をはり 何か試合の会かなにかやっている
紋付の男の立姿がちらりと見えた。

花電車。三台。菊花の中に円いギラギラ光る銀色の玉が二つある
能の猩々。
子供の図
あとから普通電車に赤白の幕をはったのがついてゆく。新議事堂落成祝のため。


〔欄外に〕
皇太子の生れてよろこびの花電車(1933の暮)春日町のところで会った。こちら自動車。ダーやられたとき あの感じを思い出した。


     遭遇の場面

○新響のかえり。銀座。男二人女一人
 アラ! ああやっと見つけたという工合だわ
  アミノ と。
若松に入ってゆく、奥へゆく。右手に若い男二人こっち側、あっち側に緑郎

鶴「いとこさんがいるよ」
見ると、しきりに何か喋っている
一人がしきりにこっちを見ている、
やがて気がつく。笑う。やがて緑 帽子をぬぐ。(何か自然で、おとなしく しつけよい感じ)
鶴「あのひともこの頃顔がなかなかしっかりして来たね」
「うん、いろいろ書いてやっているからね」

 林町の通りへ入ったら後から Head light、そうかな。こっち止る、うしろも止る。すると緑が出て来てドアを外からあけてくれる。そういうものごしの中にある スラリとして細かいところ。

     秋の夕映


午後五時頃、
 廊下へ出て見るとまるでつき当りの窓が赤い。
 空を見ると
冴えた水色とすこし澱(にご)った焔のような紅色とが横だんだらに空じゅうひろがっている。何だか他の季節の夕やけのように光の暖みを感じられず 只色どりの激しさのみ感じられ、変に不安を刺戟されるような印象である。
 その横まだらの空に 葉を半ば落したサイカチの梢がそびえている。


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