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惜みなく愛は奪う - 有島 武郎 ( ありしま たけお )

  • ○有島武郎『カインの末裔クララの家出』岩波文庫/昭15年初版
  • ○有島武郎『小さき者へ生まれ出づる悩み』岩波文庫/昭15年初版
  • 生れ出る悩み 有島武郎 初版本復刻 近代文学の名作
  • ●即決!復刻全集近代文学館ほるぷhon61有島武郎 生れ出る悩み
  • 「有島武郎(新潮日本文学アルバム9)」遠藤祐編集、1984新潮社
  • 有島武郎「惜しみなく愛は奪う」(文庫本)
  • ★即決 【或る女(下)】 有島武郎 古典
  • ●中古図書●日本文学全集 有島武郎集 集英社
  • ★即決 【或る女(下)】 有島武郎 古典
  • 有島武郎「小さき者へ」角川文庫昭和42年発行
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Sometimes with one I love, I fill myself with rage, for fear I effuse unreturn'd love; But now I think there is no unreturn'd love―the pay is certain, one way or another; (I loved a certain person ardently, and my love was not return'd; Yet out of that, I have written these songs.) ― Walt Whitman ― I exist as I am―that is enough; If no other in the world be aware, I sit content, And if each and all be aware, I sit content. One world is aware, and by far the largest to me, and that is myself; And whether I come to my own to-day, or in ten thousand or ten million years, I can cheerfully take it now, or with equal cheerfulness I can wait. ― Walt Whitman ―         一  太初(はじめ)に道(ことば)があったか行(おこない)があったか、私はそれを知らない。然(しか)し誰がそれを知っていよう、私はそれを知りたいと希(こいねが)う。そして誰がそれを知りたいと希わぬだろう。けれども私はそれを考えたいとは思わない。知る事と考える事との間には埋め得ない大きな溝(みぞ)がある。人はよくこの溝を無視して、考えることによって知ることに達しようとはしないだろうか。私はその幻覚にはもう迷うまいと思う。知ることは出来ない。が、知ろうとは欲する。人は生れると直ちにこの「不可能」と「欲求」との間にさいなまれる。不可能であるという理由で私は欲求を抛(なげう)つことが出来ない。それは私として何という我儘(わがまま)であろう。そして自分ながら何という可憐(かれん)さであろう。
 太初の事は私の欲求をもってそれに私を結び付けることによって満足しよう。私にはとても目あてがないが、知る日の来(きた)らんことを欲求して満足しよう。
 私がこの奇異な世界に生れ出たことについては、そしてこの世界の中にあって今日まで生命を続けて来たことについては、私は明(あきら)かに知っている。この認識を誇るべきにせよ、恥ずべきにせよ、私はごまかしておくことが出来ない。私は私の生命を考えてばかりはいない。確かに知っている。哲学者が知っているように知っているのではないかも知れない。又深い生活冒険者が知っているように知っているのではないかも知れない。然し私は知っている。この私の所有を他のいかなるものもくらますことは出来ない。又他のいかなる威力も私からそれを奪い取ることは出来ない。これこそは私の存在所有する唯(ただ)一つの所有だ。
 恐るべき永劫(えいごう)が私の周囲にはある。永劫は恐ろしい。或る時には氷のように冷やかな、凝然としてよどみわたった或るものとして私にせまる。又或る時は眼もくらむばかりかがやかしい、瞬間も動揺流転をやめぬ或るものとして私にせまる。私はそのものの隅(すみ)か、中央かに落された点に過ぎない。広さと幅と高さとを点は持たぬと幾何学私に教える。私は永劫に対して私自身を点に等しいと思う。永劫の前に立つ私は何ものでもないだろう。それでも点が存在する如く私もまた永劫の中に存在する。私は点となって生れ出た。そして瞬(またた)く中(うち)に跡形もなく永劫の中に溶け込んでしまって、私はいなくなるのだ。それも私は知っている。そして私はいなくなるのを恐ろしく思うよりも、点となってここに私が私として生れ出たことを恐ろしく思う。
 然し私は生れ出た。私はそれを知る。私自身がこの事実を知る主体である以上、この私の生命は何といっても私のものだ。私はこの生命を私の思うように生きることが出来るのだ。私の唯一の所有よ。私は凡(すべ)ての懐疑にかかわらず、結局それを尊重|愛撫(あいぶ)しないでいられようか。涙にまで私は自身を痛感する。
 一人旅客永劫の道を行く。彼を彼自身のように知っているものは何処(どこ)にもいない。陽の照る時には、彼の忠実な伴侶(はんりょ)はその影であるだろう。空が曇り果てる時には、そして夜には、伴侶たるべき彼の影もない。その時彼は独(ひと)り彼の衷(うち)にのみ忠実な伴侶を見出(みいだ)さねばならぬ。


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