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想断々(2) - 北村 透谷 ( きたむら とうこく )

  • ◆本◆現代日本文学全集4 S31発行 北村透谷/樋口一葉 q
     兵甲と国家  兵甲を以て国威を張るは変(へん)なり。兵甲は寧(むし)ろ国家を弱め、人心を危うするに足るも、以て大(おほい)に国力を養ひ、列国に覇(は)たらしむる者にあらず。国の本真(ほんしん)は気にあり。気若し備はらば業(げふ)挙らむ。凡(およ)そ業なくして勇を談ずるは、仮勇なり。業は以て地歩を堅うし、仮勇は以て自(みづか)らを危うす。

     請ふ米国を視よ

 米国は迺(すなは)ち業(げふ)の国なり。始めより肯(あへ)て国際間の武威を弄(ろう)せず。而して各国之を畏(おそ)る。何が故に畏るゝ、曰く国民元気充溢し、百般の業の上に其真勇を睹(み)ればなり。敢て兵甲を以て天下に傲(ほこ)らず、而も諸強国に対峙(たいぢ)して遜色ある事なし。

     彼は迫らず

 蓋し彼は悠々として強弱の外に濶歩しつゝあるなり。彼は匠工なり、建設する事を心に留めて他を顧みず。蓋し猛虎も餓(う)ゆるが故に他を攫(くわく)す、然れども何の日か猛虎の全く餓ゆるなきを得む。猛虎の野に吼(ほ)ゆるや、其音|懼(おそ)る可し、然れども、其去れる跡には、莫然(ばくぜん)一物の存するなし、花は前の如くに笑ひ、鳥は前の如くに吟ず。彼(か)の匠工に至りては然らず、其建設する所一として空しきはなし。彼れ能く堅固なる鉄檻を作る事を知る、彼れ能く猛虎を捕ふるの術を知る。猛虎も遂に幾間(いくけん)の隘牢(あいらう)に甘んぜざるを得ざるの時なしとせんや。

     憐れむ可きは戦病国

 仏独相対して兵備日に厳なり。而して其中間に※(はさ)まれたる以太利(イタリー)は遂に如何(いか)ならむ。邦運久しく疲れ産業興らず。民多くは一種固有の疾疼(しつとう)に困(くる)しむ。而して国境を守るの兵は日に多く、痩(や)せたる民衆に課するの税斂(ぜいれん)は月に加ふ。先に拿翁の蹂躪(じうりん)に遭ひ、今後更に慮るところあり。昔日暴風雨を凌(しの)ぎ、疾雷閃電の猛威を以て、中原を席捲(せきけん)し去りたる夢は今|何処(いづこ)にかある。平和の君、平和の君、切に此邦(このくに)を憐れまれん事を願ふ。

     闘犬

 戦ひに死して背(はい)を敵に向けず、其勇は実に嘉(よみ)すべし。然れども戦ふ為に産(うま)れ、戦ふ為に仆(たふ)る可きは、夫れ仏国か。一大魔ありて人間界を支配するとせば、彼は仏国を以て一闘犬となしつゝあるなり。何となれば仏人は国利の為に戦ふよりも、寧ろ戦ひの為に戦ふ。平和平和、遂に爾(なんぢ)を煩(わづら)はさざるを得ず。
明治二十五年三月



底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷山路愛山集」筑摩書房
   1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「平和 一號」平和社(日本平和會)
   1892(明治25)年3月15日
入力:kamille
校正鈴木厚司
2005年5月18日作成
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