手術 関連リンク

小酒井 不木 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

手術 - 小酒井 不木 ( こさかい ふぼく )

  • 整形手術ドキュメント完全手術室中継美容整形外科監修完全版勉強
  • 手術室で働く人のための手術医学テキスト 小林寛伊
  • レア!VHS 初公開知られざる手術の全貌
  • ビデオ 『初公開知られざる手術の全貌』 包茎矯正・隆房術
  • 中村うさぎ 倉田真由美■うさたま見聞録■枕営業 整形手術
  • 中村うさぎ■ショッピングの女王4■整形手術 豊胸 二重瞼生計
  • c050★フォーカス★独占 松井秀喜『膝の手術せずに三塁手を』
  • c050★フォーカス★独占 松井秀喜『膝の手術せずに三塁手を』
  • ▲▼椎間板ヘルニアは手術なしで治る 五味雅吉著
  • オペ(手術)☆帝王切開☆HumanBody☆VHS☆
次のページ
 ×月×日、私の宅で、「探偵趣味の会」の例会を開きました。随分暑い晩でしたが、でも、集ったのは男の人が五人、女の人が三人、私を加えて都合九人、薄暗い電燈の光の下(もと)で、鯰(なまず)の血のような色をした西瓜をかじり乍(なが)ら、はじめは、犯罪幽霊に関するとりとめもない話を致しました。
「……それにしても九人というのは面白いですねえ。西洋伝説にある妖婆(ようば)は、九という数(すう)を非常に好むという話ですから」と、会社員西洋文学通のN氏は言い出しました。いつの間にか私たちは怪談気分にひたって居たこととて、妖婆という言葉が、いつもより物凄く私の胸に響きました。
 N氏は続けました。「シェクスピアのマクベス劇で、三人の妖婆が魔薬を煮るところは可なり恐しい思いをさせられます。その魔薬の成分の一つとして、子豚(こぶた)を九|疋(ひき)食った牝豚の血が、鍋の中へ入れられますが、あの無邪気に見える豚でも、共食いするかと思うと、何となく気味の悪いものですねえ……」
 こういってN氏は、私たち九人が、恰(あたか)も九|疋(ひき)の子豚(こぶた)で、今にも牝豚ならぬ妖婆が、私たちを食べにでも来そうな雰囲気作り出しました。
 この時、弁護士のS氏は言いました。「どうです、いま、共食いの話が出た序(ついで)に、今晩は、人間共食い話題としようではありませんか」
「いい題目(だいもく)です。皆さんどうです?」と私が申しました。
「大賛成!」「結構ですわ!」と皆々同意されましたので、私は申しました。
先ず隗(かい)より始めよということがありますから、最初にSさんに御願い致しましょう」
 S氏は頭を掻いて、「どうも、とんだことを言い出しましたねえ」といい乍(なが)ら、でも、すなおに話し始めました。法律家であるだけに、穂積博士の「隠居論」に載って居る食人の例をよく記憶して居られて、老人隠居風習の起りは「食人俗」にあることまで、極めて秩序的に説明してくれました。
 それから、私が話す番になったので、私は変態性慾と食人との関係について色々の例を述べて説明しました。恋人を殺してその心臓を切り出し、それを粉砕して、パンの中に焼き込んで食べた男の話などは、いつもならば何ともありませんが、今夜に限って、自分ながら妙な気持になり、外から盗人のようにはいって来るなまぬるい風さえ、血腥(ちなまぐさ)い臭いを持って居るかのように、思われました。
 次に大衆文芸作家K氏の日本文学にあらわれた食人の話があり、それについで、男の方も女の方もそれぞれ、凄い、面白い話をされ、最後にC子さんの番になりました。C子さんは数年前まで看護婦をして居られたのですが、故(ゆえ)あって今はタイピストをして居られます。
「それでは、今度はC子さんに御願い致しましょう」と私が申しますと、C子さんは、何故か先刻(さっき)から二三度|太息(ためいき)をついて居られましたが、この時、決心したように言いました。
「思い切って御話することに致しましょう。実は私が看護婦をやめましたのも、ある御方の食人動機となったので御座います。でも、この御話は、普通の女の方の前では、何だか、申しにくいところがありますから……」
「いえ、かまいません。どうぞ是非話して頂戴(ちょうだい)」と他の二人の女の方が口を揃えて、熱心に申しましたので、C子さんは、「それでは」といってしずかに話しはじめました。
 その時、ふと私が明け放した座敷から、おもてを見ますと、蝎座(さそりざ)の星が常よりも鋭く輝いて、はや、西南の空の地平線に近いところへ移って居ました。


 △△医科大学が、まだ△△医学専門学校と申しました時分のことで御座います、私は、産婦人科教室看護婦を勤めて居りましたが、患者の受持ではなく、手術場を受け持って、手術の際に、ガーゼを渡したり手術道具渡したりする役を致して居りました。
 主任教授はT先生と申しまして、その頃は四十前後の、まだ独身で御座いましたが、産婦人科手術にかけては日本でも有数の御方で、その上弁舌に巧みでいらっしゃいましたから、学校内は勿論世間でも大へん評判が宜(よろ)しゅう御座いました。いくら名医と申しましても、やはり人間である以上誤診ということは免れ得ませんが、T先生は平素、念には念を入れる性質(たち)でしたから、滅多(めった)に誤診はなく、たまたまあっても、患者生命に少しの影響をも及ぼしませんでした。
 ところがそのT先生が、どうしたことか、まあ、いわば、悪魔にでも憑(つ)かれなさったのでしょう、たった一度だけ、世にも恐ろしい誤診をなさったので御座います。それがため、先生は遂にその身を亡ぼしてしまわれ、私も看護婦という職業を捨てたので御座います。
 それはある夏のことでした。毎年、夏期には、教室で、産婦人科学の講習会が開かれますが、その年も凡(およ)そ二十五六人の聴講生が御座いました。聴講生と言いましても、みな、市内や近在に開業して居られる方ばかりで、どなたも相当な経験を積んで見えますから、T先生も殊更(ことさら)に注意をせられて、手術の時など、私たちの準備を厳重に監督なさいました。
 ある日、T先生は、子宮繊維腫(しきゅうせんいしゅ)の患者に、子宮|剔出(てきしゅつ)手術を施して講習生に示されることになりました。その患者二十五歳の未婚婦人でしたが三ヶ月ほど前から月のものがとまり、段々衰弱して来たので、先生診察受けたところ、子宮内壁繊維腫が出来て居るから、子宮を全部剔出しなければならないとの事で、患者も覚悟をきめて、その大手術を受けることになりました。
 御承知でも御座いましょうが子宮を剔出するには腹部ら致しますのと、局部から致しますのと二通り方法が御座います。T先生は、講習生に示す関係上、後の方法を御選びになりましたので私どもはその準備を致しました。手術室は、中央手術台が置かれ、その手術台のまわりに凡(およ)そ一間半ほど隔てて、生徒たちの見学する台が、手術を見|易(やす)くするために、ちょうど、昔のローマの劇場のように、一段々々後ろへ高くなって備えつけられてあります。で、二十数人の講習生は其処(そこ)へ半円形に陣取って、先生臨床講義の始まるのを待って居りました。
 最初に先生は、当の患者を連れて来て、一通りその病歴を御話しになり、子宮繊維腫と診断なさった理由を、いつもの通りの、歯切れのよい、流暢(りゅうちょう)な言葉で御述べになりました。凡そ半時間ほど説明をなさって、患者を別室に退かせになりました。即ち、その別室で、患者麻酔剤を与え、患者が十分麻酔した頃に、手術室に運んで、手術受けさせるという順序で御座います。
 やがて患者手術室に運ばれて来ました。患者手術台に乗りますと、私は大へん忙(せ)わしくなるので御座います。先生助手の方々も、白いキャップを御かぶりになり、口にも白いマスクをかけて手術に取りかかられるのが例で御座います。先ず助手の方々によって、手術局部の厳重な消毒が行われますと、愈々(いよいよ)先生手術に取りかかるために、特別な手術道具で、子宮出来るだけ手前引き出しになりまして、順序として、指で丁寧に患部を触れて御覧になりました。
 もとより、その間も先生は、聴講生に向って、熱心に説明して居られました。私にはよくわかりませんでしたが、子宮繊維腫の出来たときには、子宮林檎(りんご)のようにかたくなるのが特徴であるということを繰返し説明なさったようでした。
 ところが、暫(しばら)く触診をなさっておいでになりますと、先生の御言葉が段々乱れてまいりまして遂には、ぱたりと口を噤(つぐ)んでしまわれました。そして、ちょうど顕微鏡を御のぞきになるように、眼を近づけて、さらけ出されたものを、触診しながら、見つめて居られました。と、見る見るうちに先生の御顔に疑惑の色がただよい、その額にはオリーヴ油のような汗の玉が、ぎっしり並び始めました。


次のページ

小酒井 不木 (こさかい ふぼく) 以外のオススメ作品

手術 (しゅじゅつ) のリンク元

「手術-小酒井 不木」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN