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指と指環 - 佐左木 俊郎 ( ささき としろう )

  • ☆ EP/シングル 寺尾聡/ルビーの指環
  • EP/チューリップ~銀の指環 /即決
  • LD:レヴァイン ワーグナー/「ニーベルングの指環」4部作
  • ■寺尾聰/リフレクションズ■ルビーの指環■
  • 即決切手可●山根康広【BornIn66】初盤帯●銀の指環●海外可●
  • LP 寺尾聰 『リフレクションズ』 ルビーの指環
  • 50'S/ビニジャケ/エルヴィス・プレスリー/思い出の指環/EP-1315
  • 【LPレコード】♪リフレクションズ/寺尾聰/ルビーの指環♪帯付♪
  • ★ハーロック・サーガ★ニーベルングの指環★ミーメ
  • 【♪】LPレコード♪寺尾聰♪Reflections ♪ルビーの指環・出航★
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 銀座裏のカッフェ・クジャク内部はまだ客脚が少なく、閑散を極めていた。  彼は、焦茶色外套の襟で頤(あご)を隠して、鳶色(とびいろ)のソフトを眼深(まぶか)に引き下げていた。そして、室の中を一渡り渡してから、彼は隅のテーブルへ行って身体(からだ)を投げ出した。
いらっしゃいまし。何になさいますか?」
 すぐと女給が寄って来て言った。
「うむ。何にしようかな?……」
 彼は言いながら女給の手の指を視詰(みつ)めた。蒼々(あおあお)しく痩せた細い魅力の無い指だった。
「まあ、なんでもいいよ。」
「でも……」
 鉛筆伝票を敲(たた)きながら女給は微笑んだ。
「じゃ、カクテルをもらおう。」
 彼はテーブルの外に両肘を立ててソフトの外から頭を抱き込むようにした。突き立てた両腕の間から、疲れた者の表情の中に黒い大きな眼が、何かを探るように光っていた。
 彼は今日も一日中、女の綺麗な指を探して廻ったのだった。東京中のあらゆる階級の女の、あらゆる指を、彼は片(かた)っ端(ぱし)から見て来たのだった。省線電車の中に並んだ女達が慎(つつ)ましく膝の上に揃えた指、乗合自動車吊り革を掴(つか)む女達の指。市内電車の中で手持ち無沙汰に乗車券を弄(もてあそ)ぶ女達の指。百貨店の女店員達の忙しく動いている指。赤黒い指、短い指。骨張った指。彼は街上で行き合う女達の指さえも見逃さなかった。しかし彼はそのたびに落胆を繰り返させられるばかりだった。そして最後に彼は、女給の中に綺麗な指を探ろうとしてここに来たのだった。
「お待ち遠うさま。」
 他の女給がカクテルを運んで来た。彼はそれを受け取らずにその女給の指に眼を注いだ。半透明なほど鈍白(にぶじろ)い丸味を帯びた指だった。
「君は、綺麗な指をしてるね。ちょっと!」
 彼は左の手を握った。右手ではチョッキの内ポケット指環を探った。
「私の手なんか駄目ですわ。節が高くて……」
「いや、ちょっと!」
 彼はそう言いながら彼女の指に指環を嵌(は)めてみた。併し指環は固くてどうしても嵌(は)まらなかった。
「どうなさるんです?」
 彼女は彼の顔を怪訝(けげん)そうに視詰めた。
「やっぱり君の指も、駄目だね。綺麗綺麗だが……」
 彼は彼女の手を投げ出すようにした。彼女の指は、節が高いばかりでなく、彼の理想合致するためにはあまりに短かった。
駄目ですわ。私の指は節が高くて。」
「少し短いね。もう少し細くて長いと、この指環を嵌めてやるんだが……それに爪が……」
 彼は眉を寄せるようにしながら、掌の中に指環を振り転がした。
「まあ! そんな立派指環を? そんな綺麗な……」
指環立派過ぎると、結局、立派な指というものが無くなるんだ。馬鹿馬鹿しい。」
「ここに一人綺麗な指の人がいるわ。そりゃ、とても素敵な指よ。もう少しすると来るわ。」
「よし! その人が来たら会わしてくれ。本当に綺麗な指をしていたら、この指環を上げよう。どうせ綺麗な指に嵌めてやろうと思って買って来た指環なのだから……」
 彼は軽い興奮の表情でカクテルのグラスを唇に持って行った。

 彼は最早(もはや)常人ではなかった。


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