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散歩生活 - 中原 中也 ( なかはら ちゅうや )

  • 訳あり1円~☆足跡柄リード/散歩紐 首輪に 愛犬との楽しい散歩
  • (*^_^*)るるぶ「東京3時間散歩」お散歩38コース 即決
  • 山川出版社【青森県の歴史散歩】新全国歴史散歩シリーズ
  • CD・未開封:bird/散歩しよう/バード
  • ○ジヤズ お散歩は如何/愉快な獨り者/中野忠晴とリズムボーイズ
  • 即決CDバングルスBESTマニックマンデー冬の散歩道胸いっぱいの愛
  • ’89廃盤CD☆谷山浩子「お昼寝宮・お散歩宮」3面デジパック盤美!
  • ★希少 廃盤品★ 谷山浩子 お昼寝宮お散歩宮 帯つき
  • 江戸川乱歩全集1 屋根裏の散歩者
  • 写真集 図説 鎌倉伝説散歩 原田寛 2003年発行
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女房でも貰つて、はやくシヤツキリしろよ、シヤツキリ」と、従兄みたいな奴が従弟みたいな奴に、浅草のと或るカフエーで言つてゐた。そいつらは私の卓子(テーブル)のぢき傍で、生ビール一杯を三十分もかけて飲んでゐた。私は御酒を飲んでゐた。好い気持であつた。話相手が欲しくもある一方、ゐないこそよいのでもあつた。
 其処を出ると、月がよかつた。電車や人や店屋の上を、雲に這入つたり出たりして、涼しさうに、お月様は流れてゐた。そよ風が吹いて来ると、私は胸一杯呼吸するのであつた。「なるほどなア、シヤツキリしろよ、シヤツキリ――かア」
 私も女房に別れてより茲(ここ)に五年、また欲しくなることもあるが、しかし女房がゐれば、こんなに呑気に暮すことは六ヶ敷(むづかし)からうと思ふと、優柔不断になつてしまふ。

 それから銀座で、また少し飲んで、ドロンとした目付をして、夜店の前を歩いて行つた。四角建物の上を月は、やつぱり人間仲間のやうに流れてゐた。
 初夏なんだ。みんな着物が軽くなつたので、心まで軽くなつてゐる。テカ/\した靴屋の店や、ヤケに澄ました洋品店や、玩具(おもちや)屋や、男性美や、――なんで此の世が忘らりよか。
「やア――」といつて私はお辞儀をした。日本が好きで遥々(はるばる)独乙から、やつて来てペン画を描(か)いてる、フリードリッヒ・グライルといふのがやつて来たからだ。
「イカガーデス」にこ/\してゐる。顳(こめかみ)をキリモミにしてゐる。今日綺麗洋服を着てゐる。ステツキを持つてる。
「たびたびどうも、複製をお送り下すつて難有(ありがた)う」
「地霊(ルル)…………アスタ・ニールズン」彼はニールズンを好きで、数枚その肖顔(にがほ)を描いてる男である。私の顔をジロ/\みながら、一緒に散歩したものか、どうかと考へてゐる。彼も淋しさうである。沁(し)むやうに笑つてゐる。
「アスタ・ニールズン!」

 私一人住居のある、西荻窪に来てみると、まるで店灯がトラホームのやうに見える。水菓子屋が鼻風邪でも引いたやうに見える。入口の暗いカフヱーの、中から唄が聞こえてゐる。それからもう直ぐ畑道だ、蛙が鳴いてゐる。ゴーツと鳴つて、電車トラホームのやうに走つてゆく。月は高く、やつぱり流れてゐる。
 暗い玄関に這入ると、夕刊がパシヤリと落ちてゐる。それを拾ひ上げると、その下から葉書が出て来た。
 その後御無沙汰。一昨日可なりひどい胃ケイレンをやつて以来、お酒止めです。試験成績が分りました。予想通り科目落第。云々。
 静かな夜である。誰ももう通らない。――女と男が話しながらやつて来る。めうにクン/\云つてゐる。女事務員と腰弁くらゐの所だ。勿論恋仲だ。シヤツキリはしてゐねえ。私の家が道の角にあるものだから、私の家の傍では歩調をゆるめて通つてゐる。
 何にも聞きとれない。恐らく御当人達にも聞こえ合つてはゐない。クンクン云つてゐる。

 夢みるだの、イマジネーションだの、諷刺だのアレゴリーだのと、人は云ふが、大体私にはそんなことは分らない。私の頭の中はもはや無一文だ。


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