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文学精神は言う - 豊島 与志雄 ( とよしま よしお )

  • ■ 『日本の文学 中野重治』 近代文学日本文学文学評論 ■
  • 清水義範★日本文学全集第1集/世界文学全集第Ⅰ・Ⅱ期/+おまけ
  • *柄谷行人 日本近代文学の起源 講談社文芸文庫版 文学史 即決
  • 貴重文献「九州文学」・第16・第17号・地方文学 レア・絶版
  • 昭和2年発行 日本文学29 佐藤春夫 里見 改造社 文学
  • q/脇田勇 ある英文学徒の遍歴 英文学者/大学教授の回想記 即決
  • 島尾敏雄 死の棘 日本文学大賞・読売文学賞
  • 片岡良一著作集 第八巻『大正文学研究・昭和文学序説』 中央公論
  • 日本児童文学別冊・過度期の児童文学・昭和55年7月10日発行
  • アメリカ文学思潮史―社会と文学 (増補版)
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 廃墟のなかに、そしてその上に、打ち建てられるであろう建築は、新らしい様式のものであらねばなるまい。暴風雨天変地異に堪えるだけの、堅牢さが意図されるだろう。人間住居にふさわしいほどの、美観が意図されるだろう。居住者に出来る限りの幸福を与えるような、便益さが意図されるだろう。そして外的条件社会条件は、如何に文明の程度が低かろうとも、例えば日本に於けるがように電気水道瓦斯などは時々停止するものであるという観念から、未だ脱しきれない事態であろうとも、そういう悪条件を克服するだけの設備が考案されるだろう。雨や雪をよく遮断し、煤煙をよく排出し、太陽光線を最も多く吸収し、清い大気を最もよく流通させるように、窓や壁の配置が考慮されるだろう。而もそれら一切のことが、簡便と雄勁と美とのうちに企画されるだろう。――そういう建築のことを想うのは楽しい。それが廃墟に打ち建てられるということを想うのは、更に楽しい楽しいばかりでなく、歓びでさえもある。
 だが、そういう建築を造る建築家精神は、如何なるものであろうか。それは、人間としての矜持ある逞しい美しいものであろう。人間としての矜持とは、つまり、禽獣と異る人間性の自覚である。雀は最も平安場所本能的に選んで、そこに巣を造る。猫は最も快適な場所本能的に選んで、そこに躓って眠る。もしも雀や猫の建築家があるとしたならば、彼は平安快適な場所を指示するだけで事足りるであろう。然し人間建築家は、指示するだけでは何の役目をも果さない。彼は建築しなければならないのだ。平安快適な場所を造り出さなければならないのだ。この造り出すことそのことに、彼の人間としての矜持がある。そしてこの矜持自覚には、それ自体に逞ましさと美しさとを含む。すべて何等かの意味創造精神には、逞ましさと美しさとがあるのが法則であって、これを失えばもはや創造精神ではなくなる。
 斯かる精神を、建築家から抽出し、独自の存在と観て、私は今ここに、その復活顕現を翹望するのである。建築とか建築家とかを説いて来たのも、実は比喩であって、この精神を描出する手段に外ならなかった。
 戦争によって、日本の文化一般は殆んど廃墟と化した。戦争は本来、文化を擁護するためにこそ為されるべきものであるが、日本ではそれが逆となった。何故かを問うことはもはや止めよう。理由は既に世界に曝露されている。そして結果としての廃墟が吾々の眼前に拡がっている。ただに日本ばかりではない。日本の文化的師友だったヨーロッパも既に廃墟である。日本文化血縁の濃い中国も、既に荒蕪している。
 この廃墟の上に、新たな文化建設しなければならないのだ。建設するその精神は、前述の建築家精神の如きものであらねばなるまい。繰り返して言えば、人間としての矜持ある逞ましい美しいものであらねばならぬ。
 ところでこの精神現在、周囲に如何なることを見るか。
 軍国主義官僚主義封建主義利潤主義、すべてそれらの貪欲な独善的なものが、相次いで倒壊されつつある。やがては完全に倒壊されるであろう。これで文化建設への地ならしは出来るであろう。然し、この地ならしの過程に於て、真の建設精神は、恐らく次のように呟くかも知れない。
 ――反文化的な貪欲な独善的なものが、すべて崩壊しつくすことは、実に慶賀に堪えない。然るに、この崩壊指導しつつあるアメリカについて、人々は何を見ているであろうか。高度発達した文明と、莫大に蓄積された富と、生活の安易など、それらのものばかりを眼に留めていはしないか。もしそうならば、最も重大なものを見落してると言わなければならない。若いアメリカが持っていたもの、今もなお持ち続けているもの、所謂辺境精神、一種の清教徒精神独立戦争指導した自由精神、そういう理想主義的なものを、見落してると言わなければならない。そしてこの理想主義的なものこそ、真にアメリカを支えているものであって、これがなければ、如何なる文明も富も民主主義人間堕落を招来するだけであろう。
 ――アメリカのこの理想主義的なものを見落すことによって、人々は、政治的にアメリカから指導されつつある日本の現状について、誤った考えを懐いていやしないか。殊に、嘗ての日本軍部阿諛した態度そのままで、連合軍司令部にただ阿諛しようとする人々は、そうではあるまいか。先ずそれらの人々に問い質したいことがある。
 ――ゆっくり言うのは面倒だから、直截にやっつけよう。


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