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文芸銃後運動 - 岸田 国士 ( きしだ くにお )

  • 丹羽文雄集 日本文学全集文芸野間文芸賞
  • 『折口信夫文芸論集』★安藤礼二編 講談社文芸文庫 2010刊 美品
  • 【本】男たちへ 塩野七生 著 文芸春秋
  • ★野間宏『暗い絵|顔の中の赤い月』講談社文芸★即決!
  • ■ 青葉の翳り―阿川弘之自選短篇集 /講談社文芸文庫■
  • 【講談社文芸文庫】高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』
  • 父の帽子/森茉莉/講談社文芸文庫
  • @ベイビーメール 山田悠介 文芸社 ツ44
  • ◎那覇文芸あやもどろ 特集:山之口獏論集
  • ■初版■ 中上健次 ■  化粧  ■講談社文芸文庫■
――各地講演旅行目標―― 岸田國士  文芸家協会の主唱にかゝるはその第一着手として、去る五月七日より十三日まで、東海道近畿大都市八ヶ所において講演会催し、引続き毎月これを全国地方に及ぼす計画である。  実際のプラン及び諸般の準備はそれ/″\適当機関に委せてあるので、われ/\はたゞ動員に応じ、からだを運べばいゝわけであるが、今度の講演旅行の径路に徴して、やはり運動目標だけははつきりさせておいた方がいゝと思つた。
 一行久米、横光、中野(実)、林(芙美子)の諸氏と私、別に、岐阜名古屋とでは私の代りに吉川氏が加はり、京都からは菊池氏参加した。
 各地とも講演会は空前といはれるほどの盛況であつた。われわれはみないひたいことをもつてゐる。それは恐らく国民の多数が――少くとも知識層の大部が――考へてゐてどうにもならぬことなのだらうと思ふ。われわれはさういふ人々に、なにも教へる必要はない。たゞ、各地の講演会場の空気で感じられたことは、聴衆がわれわれの意図をよく汲み取り、さういふことが誰かによつていはれねばならぬといふ賛同の意を強く示してくれたことである。
 かういふ感応は、今度の講演を通じて、われわれに力と覇気とを与へた。誰がなんと見ようとも、国民は今、真剣にものを考へてゐるのである。
 国家の難局に際してわれ/\は現在どうあらねばならぬかといふ問題ほど痛切に一般民衆注意を惹くものはない。文学者が果してこの問題にすぐれた解答を与へ得るかどうかは別として、私の信念は、たゞこの種の問題の核心がどこにあるかといふことを、文学者が最も奥深く指摘し得るといふことである。
 なぜなら、文学者こそは最も近く民衆の心に触れ、その日常生活観察し、その苦悩と希望とに絶えず眼を注ぎ、現実可能性とその限界とをよく知つてゐるからである。
 為政者と声を合せて国民様々警告を発するのがわれ/\文学者の任務ではない。寧ろかゝる警告受けねばならぬ国民立場に立つて、自らを批判し、一切の警告を無用たらしめる方法探究し、進んで、国民全体のぎり/\結着の力を出しきる生活と秩序とを自分自身の手で作り上げる正しい方向を発見することが、今日文学者に課せられた一面の仕事であると思ふ。

 この運動参加する文学者たちのそれぞれ聴衆に愬へようとする課題はまちまちであらうけれども、単なる個人的意見を通じて、一人人間の特異な所在を知らしめることはさほど重要ではないと思ふ。
 国民は今、祖国の直面する運命をひたすら凝視し、自己のおかれた場所に応じて、十分の義務を果し、且つ、その義務に反せざる限り、安全に身を護らうとしてゐるのである。この心理自然である。それゆゑ、義務がこれを命ずれば献身もいと易いといふのが、われわれ日本人の常態である。
 しかしながら、義務義務と感ぜしめるものは、国民全体の高貴な精神の昂揚にあることはもちろんで、この点、わが国為政者は、もつと時代表現を身につけた一種の詩人であつてもらひたいと私はかねがね思つてゐるのである。
 文学者は幸ひにして、時代言葉をもつて自己の信念と理想とを語る術を心得てゐる。国民はその言葉を、自分みづからの言葉として聴くであらう。そこには自己陶酔による徒ら鼓舞や激励や叱咤はない代り、政府代弁者たちのもたぬ反省もあり、自責もあり、苦さにみちた述懐がある。しかもそれはもはや決して、消極的傍観的な態度ではあり得ないところに、今度のわれわれの行動出発があるのであつて、黙々として国民の歩む道が、所詮平坦でないにしても、すべての努力を傾けることによつて、やがては光明に達するであらうことを互に固く信じ合はうとする祈念の衷はれなのである。
 われわれ一行のスケヂユールは文字通り強行軍であつたが、私が病後のからだを多少労はつた以外、他の諸氏はよく頑張つた。そして、いづれも、こんないゝ聴衆はいままでにないといつて褒め、かつ、悦んでゐる。なにかしら手応へがあつた証拠である。
 私はこの運動の意義と効果について、一層これを徹底させる上から、是非、講演の反響を知り、聴衆諸君自発的協力を望みたいと思ふ。
 次回のプログラムは、さういふ目的が達せられるやう、若干の考慮を払はれんことを計画者側に希望する。



底本:「岸田國士全集24」岩波書店
   1991(平成3)年3月8日発
底本の親本:「東京日日新聞
   1940(昭和15)年5月22、23日
初出:「東京日日新聞
   1940(昭和15)年5月22、23日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年7月2日作成
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