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新しい抵抗について - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

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        一 今日ファシズムのありかた  この八月十五日には、四回目のポツダム宣言受諾記念日がめぐってくるわけです。その記念日にあたって、わたしたちが力をつくして闘い、抵抗しなければならないのが国の内外にあらわになって来ているファシズムであり、戦争挑発であるということは、実に感慨無量のことです。
 日本ファシズムは、本年に入ってから、特に国鉄をはじめとして大量の人員整理をはじめてから、ひどい勢いで各方面で人民生活をかみやぶりはじめました。
 わたしたちの民族独立への希望や、文化の自立への希望――つまり独立した社会人として当然に抱いている生活におけるすべての希望は、ファシズムとの闘いなしにはうちたてられないことを痛感しているわけですが、それにつけてもわたしたちは日常生活の中におこってきているファシズムのこんにちの日本独特のやり方について、こまかく見きわめる必要があると思います。
 ファシズムというと、わたしたちはすぐ戦争中のままの形で超国家的な大川周明理論や、憲兵の横暴や、軍部検事その他人民抑圧した天皇制機構全体を頭にうかべて、なんとなしその全体に体当り抵抗するのがファシズムへの抵抗という感じをもって来ていると思います。さき頃の映画東宝問題というものがでると、誰にもファシズム反動文化政策というものが分るし、まして、この頃のような社会情勢に対してファシズム圧力を感じ、それに対して反対の声をあげない人はありません。三鷹事件下山事件新聞記事の扱いかたなどにしてもファシスト的な挑発の調子がつよいとみんなが感じている。
 こんにちにおけるファシズムとの闘いの非常微妙な点は、わたしたち一人一人市民抵抗がどんなにつよくあらねばならないかという点についての問題です。組合その他民主組織抵抗してゆく。それにまかせているだけでは、真の人民抵抗として充分でないという点です。つまり、ファシズム抗議するストライキファシズム抗議するデモンストレーションファシズム抗議する声明書、それらの集団的な抵抗の裏づけとして本当に一人一人が、自分生活態度の全面でどんな抗議を行っているか、それを明瞭に意識において見なければ、日本民主化を守り通し、それを前進させるための実力としては足りないということです。
 日本ファシズムの新しい方法非常に狡猾になってきている。正面から軍国主義復活侵略的な民族主義をたきつけることは出来ないから、民主主義者が提唱する人民的な民族主義に便乗して「日本再建するために」云々と、民族自立の問題主権在民問題も――即ちポツダム宣言新憲法の実質を左からぐるりと右へひとまわりさせたものにしようとしている。
『テラス』や『ロマンス』などのような雑誌が、この頃ルポルタージュと称して戦記ものを記載しているのは、偶然のことでしょうか。去年の初夏日本出版協会は『テラス』『ロマンス』などからはじまってとくに猥雑なエログロ出版の氾濫を整理しようとして苦心したことがあります。出版綱領実践委員会が集って日本出版の浄化のために幾たびか協議しました。その過程非常に注目すべきことがあった。エログロ出版物を駆逐するために、警察力を使えということ、新しい取締法律をつくれという意見が伝えられました。しかし、猥褻罪を取締るためには、そのための法律がある。どうせ悪質な出版をする者はその時々の情勢によって猥褻にもなれば怪奇にもなるのであって、もしひっくるめてそれを取締る法律をつくれというのならば、法律の条文としては「公安を保つ」というような文句が使われやすい。ところが、この「公安」という字は、御承知の通り日本では明治のはじめから真実意味で「人民生活公安」のために使われたことは、ただの一度もなかった。ですから、出版綱領実践委員会エログロ出版取締のためという名目に乗ぜられて、新しい出版取締法をつくられる媒介になることはしまいとしました。これは正しい態度でした。
 ところが、一年経ったらエログロ出版者たちは、おかしな風に右ねじりをはじめてきた。最近の「軍艦大和」の問題は、文学作品の形をとっていたから、文学者たちの注目を集め、批判をうけましたが、ひきつづきいくつかの形で二・二六実記が出て来たし、丹羽文雄最後御前会議ルポルタージュその他いわゆる「秘史」が続々登場しはじめました。なにしろあの当時、言論報道は全く統制されて嘘の大本営発表しか知らされなかったのだから、読者はこんにちあらわれる「秘史」にエログロ違うスリルを感じて、夏枯れしのぎに、いい思いつきのように流行しています。
 これらの「秘史」「ルポルタージュ」が真実軍部批判と戦争批判、日本平和建設の誠意をどの程度までたたえているでしょうか。二・二六秘史についても、あの事件日本侵略戦争遂行のための暴動であったいきさつにはふれないで、青年将校純情さの一面を浮び出させている。そして、「兵は、共産主義者反乱鎮圧のために配備されているのだと信じこんでいた」というようなことも平然と書かれ、こんにち政府共産党鎮圧の空気挑発しているのと、おのずからマッチするようにあらわれて来ている。
 わたしたちのファシズムとの闘争は、微に入り細をうがって、現実密着したものでなければならないというのは、ここのことです。下山事件をみても、一ヵ月の間、検察庁他殺自殺か、わざと不明瞭にしたまま、ひっぱってきている。下山夫人が妻として良人の自殺を直感して、身辺の者にそのことを洩らしたという事実さえ(八月三日毎日今日まで公表させませんでした。夫人はどういう圧力強要されたのか、自殺なんてとんでもないということばをくりかえし公表させられていました。そのために、事件がわけがわからないものであると一緒に、下山氏に対する、また遺族に対する世間人間的な同情さえそらされている結果になってしまっている。下山事件国鉄整理と労働者階級弾圧のために実に政治的に利用されました。
 三鷹事件は、数名の共産党員を検挙して、その中に真犯人があるように宣伝されています。しかし、次の事実事件の核心に関係しているにもかかわらず、商業新聞には発表されていません。それはこういう事実です。事件当夜、立川市警察署長立川国警から電話をうけて、八時半頃三鷹附近で事件がおきるから注意して警戒にあたれと、命令をうけたと二十七日『アカハタ』記者に語っています。電話をかけた立川国警署長は、「同様な意味電話国警本部から八時半頃あった」と語っている。その電話八王子管理部から国警本部へ入ったものであるが、この電話の「入手径路は捜査されていない」(八月二日アカハタ)。この電話でみれば、何処よりも先に国警本部が事件の起きることを予知していたわけです。電車がぶつかってめちゃめちゃになった三鷹交番警官一人もいなかったという事実は何を物語るでしょうか。捜査のすすむにつれて三鷹組合の副委員長をしている石井万治という人は嫌疑をかけられている書記長の自宅を訪問し、他所へつれて行って饗応し、ノートをひらいて、緊急秘密指令三百十一号、三百十八号というものをみせ、あなたのことについては骨を折るという話をしています。その指令三百十一号には、突発事故が起きたらできるだけ復旧事務拒否せよ、民同との摩擦回避せよ、などという文句があったそうです。北海道に偽の指令が流れたことがあった。この指令もおそらくどこかの家宅捜索をすれば、「そこにもあった」ものとして発表されるでしょう。昔からこの手は使われていることです。
 ファシスト地下組織千葉で発覚しています。千葉ファシスト地下組織は、もと上海特務機関中尉である大島軍司という人物中心にして、千葉県知事市長成田山僧正千葉市警察署長その他各地の警察署長とれんらくして、大島警察パス、外務省パスを所持して、現在法務庁に籍を持っているそうです。


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